泰夢(たいむ)のお話:16
初めての場所では気後れするというお話。
それでは、どうぞ!!
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もちろん泰夢(たいむ)も、昨日の夜に祖母の家に着いてからの様子━━山と森と川しかない風景とか、見わたすばかり畑が広がるまわりの感じとか━━で、ここが「自分の住んでいる街とはちがう」という事は分かっている。
何十階もある大きくてりっぱなビルはないにしても、いろいろな会社などが入るテナントを持つ小さなビルぐらいは、例えば古ぼけているけれども、それでもしっかりと動くエレベーターがあって、朝の会社に来る時間やお昼休みには、そのエレベーターからあぶれて乗れない人たちが、そのわきにある階だんで登ったりおりたりして用事をすませることができるような、そのぐらいのビルはあるだろうと思っていた。
そして当たり前のように━━泰夢がいつも通っている学習スクールは、まさにそういうビルに入っている━━そんなビルの一室で「夏休み強化コース」の授業が行われるものだと泰夢は思っていたのだ。
(ホントに、こんな所で勉強すんのか…?)
目の前にある建物はそんなビルとは全くちがう別の建物で、そのうえ古くてボロボロで、大きなトラックやダンプカーがそばを通ったら、そのままたおれてしまうのではないだろうかと思った。
それは一階建ての平屋の、泰夢の住んでいるマンションの近くにある二つの建物によく似ていいた。
ひとつは昔の古い町内会事務所で━━今の町内会の事務所は、児童図書館と健康センターがいっしょになった、コンクリートで建てられたものだった━━今は倉庫になっていて、年に一回ある町内会のお祭りの時に使うテントやテーブル、ちょっとした屋台を出す時のためのガスコンロやかき氷の機械などがしまわれている。
もちろんほとんどだれもよりつかず、泰夢にとっては「ただそこにあるだけの建物」という印象しかない。
もうひとつは、『ニコニコ風車の家』というしせつで、ここにはその辺りに住んでいるおじいさんやおばあさんたちが昼間によく集まっていて、のんびりと話をしたりお茶を飲んだり、時々はいすにすわり音楽にあわせてリズム体そうなどをしている。
こちらの方は、学校のボランティア活動で何回か泰夢も来ていて、おじいさんたちに昔の遊びを教えてもらったり、そのお礼に『ニコニコ風車の家』のそうじを手伝ったりし、もちろん建物の中に入ったこともある。
どこもかしこも古くて、歩くたびにギシギシと音がするゆかや、ボロボロと服にくっつく土のかべなどがあって━━このかべによりかかるとすぐにキラキラとしたモノが服にくっついてしまい、それが服についているのを発見したら、だれであろうとかまわずいきなりバチンと強くたたいて落としてビックリさせるという遊びが、この場所に来た時だけ流行する━━こちらの方もあまり良い印象はない。
(あのボロボロかべだったらヤだなぁ…)
何かのまちがいだったらいいなと思う泰夢だったが、両開きのアルミサッシの入口の上には日焼けして色がうすくなった「学習スクール」のかんばんがしっかりとくっついていたし、そのサッシのガラスまどには「今年はがんばるなつやすみ! 夏休み強化コース・ただいま受付中!」というチラシが、たくさんはりつけられていて、これでもかと目に飛びこんでくる。
スクールの前で立ち止まっている泰夢のよこを、後ろから来た子どもたちが次々と通り過ぎて、その建物ヘ入っていく。
そのうちの何人かで固まっているのは、たぶんこの町の辺りに住んでいる友だちどうしなのだろうか、泰夢の方をチラリと見てはコソコソと何かを話している。
そうして見られていることを感じ、泰夢はこしの後ろのあたりがきゅっとちじこまるような感じになり、「行かなくてもいい」という父の言葉が頭の中をよぎって、その足を重たくする。
その後も何人かの子どもたちが、後ろから歩いてきたが、その中に泰夢と同じように入口でちょっと立ち止まっては、自分の気持ちを決めるように息をはいてから、きんちょうした様子でかたをいからせてノシノシと開いたサッシの戸をくぐっていく者がいた。
あれはたぶん自分といっしょで、親か家族の都合かなにかでここに来たんだろうと泰夢は思い、そうしてまわりを見ると、そんな子どもたちが何人かいることに気がつく。
(しかたない、いくかな…)
自分の他にも同じような子どもがいることが、今の泰夢には心強く感じられて、そうしてその古い建物の教室へと足をふみいれていった。
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いよいよオンボロ教室にはいります。
では、次回もお楽しみに!
小林るい
