泰夢(たいむ)のお話 その二:30
帰り支度を始める泰夢と華恋ですが、そこにミハシロさんから…
それでは、どうぞ!!
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学習用タブレットや筆箱、それに自由研究のいろいろなことを書くためのノート━━それは青い表紙に黒の油性ペンで『自由研究の大事なメモ』と大きく書かれたノートだった。いつも学校や学習スクールで泰夢(たいむ)が使っている『A4』というヤツよりも、ちょっと小さな『B5』というサイズで、今年の夏に泰夢が祖母の家に来た時に「これ、古い戸だなを整理してたら出てきたのよ。おばあちゃんは使わないから泰夢が使ってねぇ」といってわたされたものだったけれども、泰夢はそのノートの少し小さい感じが、いつものノートとちがい何か特別な物のように思えて、これをとても気に入っている━━に加えて、いま借りた大きな本が入り、デイパックは変な形にふくらんでいた。
それを図書館の貸し出しカウンターのつくえの上で、ちょっとらんぼうにドンドンと何回かやってなんとか形を整えると、かたひもにうでを通してグルンと勢いよくせおった。
そのとなりで華恋(かれん)も、重たいトートバッグにうでをプルプルさせながら、おつけものが入った三つの容器をうまくよけるようにして、ていねいに本をおさめる。
「よーし、準備オッケー! これでいつでも帰れる!
華恋ちゃんもできた?
━━あっ、その前に冷たい水、水とうに入れなきゃじゃん!」
「ブブーっ! 残念でした!
わたしの方が、泰夢くんよりも早く終わってるから。
あと、水とうって、おばあちゃんのショウガ湯が入ってるんじゃないの?」
「ブブーっ! 華恋ちゃんの方こそザンネンでした!
ショウガ湯は、もうとっくの昔に飲んじゃいましたー!
だから、給水機のめっちゃ冷たい水を入れていくんですー!」
そう、水とうを手にもってふりながらおちゃらけをする泰夢に、華恋がまゆ毛を寄せてべーッとしたを出し、変な顔をしてやり返す。
「ふふふ……
泰夢くんと華恋ちゃんって、
いつもの時はそんな感じなのね!」
二人の様子にミハシロさんが口をおさえてクスクスと笑った。
そうして、カウンターのつくえの上に二まいのプリントをならべる。
「━━さてと、ここで二人にお知らせがあります。
今度この図書館で、
『お祭りと神社の歴史を学ぶ学習会』が開かれます」
「ガクシューカイ……?
それって、なんのこと?」
水とうを手にしたまま、泰夢がキョトンとした顔をする。
華恋がプリントを手に取ると、その頭の部分に大きく『郷土(きょうど)の歴史を学ぶシリーズ』と書いてあった。
その下にはミハシロさんが言った学習会の日にちや時間が書かれていて、それは学習スクールもちょうどお休みの日だった。
「この学習会はね、毎回それぞれテーマを取り上げて、
それについて、この辺りのいろいろな歴史を学ぶ教室なんだけど、
今度の学習会は、二人の役に立つと思うの」
「お祭りの歴史……
ってことはさ、自由研究にも使えるじゃんか!
━━マジか! やったぁ! めっちゃスッゲー!!」
「よかったね、泰夢くん!
あ、でも……これって、わたしたちが来てもいいんですか?
プリントからだと、大人の人たちの学習会みたい……」
「そこは、だいじょうぶよ!
華恋ちゃんの言う通り、本当は大人のための学習会だけど、
館長に二人の自由研究の事を話したら、オーケーがもらえたの!」
心配そうにする華恋に、ミハシロさんが丸いメガネのはしっこをクイっと持ち上げると、フンっと鼻をふくらめた。
「あとね、本当は禁止されている事なんだけど、
大人向けの学習会で、お話がむずかしいかもしれないから、
特別に録音や録画をしてもいいって、ちゃんと許可ももらえたわ」
「えーっ! マジかー! めっちゃ自由研究できるじゃん!
そしたらさ、あとで聞いたり見たりしてさ、
オレたちでいろいろ調べられるってコトだよね!」
「うん、そうね!
━━ミハシロさん、ありがとうございます」
目をキラキラとさせてお礼を言う泰夢と華恋に、ミハシロさんもニッコリと笑いながら、どういたしまして! と小さく頭を下げる。
それから二人してもらったプリントをしまう━━もちろん、クシャクシャと小さく折りたたんでポケットにつっこもうとした泰夢から華恋がプリントをひったくり、ていねいにはしっこを合わせて折ってから、泰夢のデイパックにしまうという場面があった━━と、もう一度ミハシロさんにお礼を言って、ならんでいっしょに図書館を出る。
自動ドアを通ると、ホワッとしたあたたかい空気に体の全部がつつみこまれる。
空はもうだいぶ暗くなっていたけれども、公園にはまだ人がたくさんいて、その人たちや立っている大きな木、案内のかんばん、ベンチなんかがぼんやりと明るく見えて、それがちょっと不思議な感じがして、しばらく二人でそのまま動かずにいた。
「……そろそろ行こうよ、泰夢くん」
「うん……そうだね、華恋ちゃん」
そう言って歩き出し、歩くリズムがなんとなくいっしょになる。
これから電車に乗って、次はバスに乗って……そうして二人して、同じ家に帰る。
それが当たり前なのだけれども、なにか特別のことのようにも感じる。
「━━ねぇ、華恋ちゃん」
「どうしたの……?」
急に足を止めた泰夢に、華恋も立ち止まってふり返る。
「さっき言ってたおつけものってさ、
もしかしてさ、オレの大好きなタクアン?」
「…………」
泰夢の顔をジッと見て、しばらくしてから華恋がふきだした。
「な、なんで!?
だってさ、オレ、おつけもの中だとさ、
ポリポリのタクアンがイチバンに大好きだから……」
「うん……わたしもタクアン好きだよ!
でも、このおつけものは、おっきな菜っ葉のヤツ。
泰夢くんのおばあちゃんが大好きだから、母さんが持っていけって……」
それを聞いた泰夢が両手をグッとにぎってグルグル回す。
「あーっ、知ってる! 菜っ葉のヤツでしょ!!
オレ、それも大好きじゃん!
━━なっぱ、なっぱ、ハッパのなっぱ~!」
そのまま、大きくふくらんだデイパックをユサユサさせながら、はずむようにして泰夢が歩いていく。
(……なっぱ、なっぱ、ハッパのなっぱ~!)
ヘンテコなナッパのおつけものダンスで、駅の方へ向かう泰夢。
それに合わせるように華恋も小さくステップをふみながら━━二人、いっしょに歩くのだった。
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ようやく図書館を後にした泰夢と華恋。学習会で自由研究も捗りそうです!
では、次回もお楽しみに!
小林るい
