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泰夢(たいむ)のお話 その二:31

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泰夢と二人で図書館をあとにした華恋。どうやら家に戻ってきたようです。
それでは、どうぞ!!

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シーン1-2:自分のつくえがある部屋で

 トートバッグをおろして学習づくえの上に置くと、それは取っ手の部分にかたの形を残したままクッタリとすがたをくずして、まるでそこにねそべっているみたいになった。
 その様子がなんだかネコかイヌか、そうした動物がその場に丸くなってねる時のような感じがあって、それがとてもおかしくて、華恋(かれん)が思わずクスッと笑う。
 電車とバスを乗りついで、泰夢(たいむ)のおばあちゃんの家についたころには、すっかりと星空になっていた。
 その時はまだ、かたがいたくなってしまうぐらいの大荷物で、中に菜っ葉のおつけものが入った容器を三つもつめこんでいたのだけれども、いまはもうそれも無くなって、すっかりしぼんで軽くなってしまった。
 中にはノートと筆箱、あとはパスケースやスマートフォン、いつも使っている日用品がいくつかとお財布が入っている。
 本当なら入る量としてはそのぐらいが当たり前で、せいぜいこれに水とうが加わるぐらいのものだった。
 でも、今日はちがった。
 トートバッグも、バッグとして生まれてきてこんなに働いたのは初めてだ! と急に言い出すんじゃないかというぐらいの、本当に大かつやくの一日だったと華恋は思う。
 なにしろ、おつけものがたくさん入ったプラスチックの容器を三つも、その中に飲みこんでいたのだ。
「ありゃあ、華恋ちゃん……
 どうしたんだい、そんな大きなバッグをかついでぇ。
 ほーら、早くおろして、おろしてぇ」
 そう言って、げんかんでバッグを下ろすのを手伝ってくれたおばあちゃんまで、いっしょになって転がりそうになるほど、バッグはずっしりと重たく、マチの部分も広がってパンパンだったのだ。
「華恋ちゃん、オレが支えてるからだいじょうぶ!
 これも修行のひとつだから、
 ぜんぜんヨユーのへっちゃらじゃん!」
 泰夢もそう言いながら、電車からバスに乗りかえる時やバス停からおばあちゃんの家までの坂道でも、大きなバッグの底の部分を持ち上げて華恋のことを助けてくれたのだ。
(……泰夢くん、がんばってたなぁ)
 イスにこしを下ろしてトートバッグを開くと、中に入っていたものを一つずつ取り出していく。
 本当のことを言えば、人にはそれぞれ一歩の大きさがちがっていたり、体の動かし方なんかにもクセがあったりするし、もちろん華恋と泰夢でも、そこには大きくちがいがあって、自分が思っていた方向とはちがう方へ、泰夢がバッグをおしたり引っぱったりするので、重たいのは少し楽になるけれど、その分あっちにフラフラ、こっちにフラフラとなってしまい、実はそれがとても大変で、でも、だからといって「手伝わなくていいから」とはちょっと言いにくかった。
 実は帰りの電車の中で、華恋のトートバッグの中に入っていた図書館の本を、泰夢が自分のデイパックに移しかえて持ってくれたのだった。
 もちろん泰夢のデイパックも満ぱいだったので、それまで歩くたびにユサユサしていたのが、ユッサユッサと体までゆれるぐらいになってしまったのだった。
 それでも泰夢は文句を言わず━━その代わりに何度も、修行だ、修行だ! とさけんではいたけれども━━一人でがんばりながら、華恋の荷物も支えようとしてくれていたので、なんだか断ったら申しわけがないような気がしてどうしても言い出せなかったのだ。 
(…………)
 トートバッグのおくの方までグッと手を入れて、ずっしりとしたその本を取り出す。
 それは全体が緑色をしていて表紙が厚くて固くなっているちょっと古い感じの本で、タイトルには『日本の昔ばなし全集』と書かれていた。
(そう言えば泰夢くん……
 これを両手にもって、ふり回しながらおどってたよね。
 もしかすると、本当に力持ちなのかな……?)
 図書館での出来事をふと思い出す。
 もう一さつの本は、泰夢がこっちは自分が読むと言っていたので、いまは手元にないからハッキリとは分からないけれども、たぶん同じぐらいの大きさと重さだったと思う。
 それに、自由研究で調べるために何さつもの本を借りて、それを返すときもそうだった。
(……学校でも、
 折りたたみのイスを十個も運んだんだって、
 一生けん命に説明してたもんね)
 あの時は、そんな事ができるはずがないと思っていたから、泰夢のことを冷やかしてしまったけれども、今日の帰りのことも考えると、本当はやっぱり力持ちなのかもしれない。
(わたしのことだって、
 引っぱってくれたもん……)
 布でできているらしい、その緑色の本の表紙を手でなでて、指先に伝わるザラザラとしたさわり心地を感じながら、ぼんやりと思い出す。
(…………)
 体がグルンと逆さまになり、上も下も分からなくて、息が苦しくて、おなかがいたかった。
 本当にこわくて、なみだがでて、つらい思い出……だった。
 でも日が過ぎていき、そのつらい思い出がだんだんと小さくなっていって、そうしてそれでも華恋の中に残っているのは、泰夢がにぎってくれた強くて温かい、あの手だった。
 お母さんが赤ちゃんを無事に出産し、自由研究が終わり、夏休みも終わり、そうすれば泰夢はきっと自分の家に帰っていくのだけれども、たぶんこの手に残った『あの日』の強くて温かい感じは、学習スクールに通ったり、つり橋をわたったり、図書館に行ったりする中で、そのたびにふいにフワリと思い出して、そうしてずっと残っていくのだろうと華恋は思う。
「━━ねぇ、華恋。
 お話、ちょっとだけいい?」
 となりのリビングへ続く引き戸がコンコンと小さくノックされて、そうよびかける声がした。
 ビクッと体がすくんで、思わず本から手をはなす。
 母親の声だった。
 その声の感じに、華恋のむねのおくがスッと冷たく、重くなる。
「……わかった。
 そっちに行くから、入ってこないで!」
 かくすようにして本をトートバッグにおしこみ、つくえから立ち上がると、ふうっと息を一つはいてから、華恋はゆっくりと引き戸をあけた。
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お母さんから呼ばれた華恋…いったい何の話をするのでしょうか?
では、次回もお楽しみに!

小林るい


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