見出し画像

泰夢(たいむ)のお話:26

← ◆前のお話へ


なぜ華恋は泰夢の祖母の家に入っていったのでしょうか……
それでは、どうぞ!!

===============

シーン2-1:夜の山にあかりを灯す祖母の家で

 自分の家……ではないけれども、そこは自分の祖母が住んでいる家で、そしていま、泰夢(たいむ)がねとまりをしている場所だった。
 その家のげんかんに、今日に出会ったばかりでほんのちょっと話をしただけの華恋(かれん)が元気よく入っていくのを見て、泰夢は自分の目が信じられなかった。
(ここって、ばあちゃんちだよな……?)
 華恋の様子を見た泰夢は、家のしき地に入る前に少し立ち止まり、念のために表札を確にんする。
 そこには石でできたりっぱな門柱があるのだけれども、生いしげったかきねの植えこみに、半分飲みこまれてしまっていた。
 じっと目をこらして見ると、たしかに「高原(たかはら)」という名字が長方形の黒い石にほって書かれている。
 もしかしたら自分がおりる停留所をまちがえて、他人の家━━しかも、よりによって華恋の家━━に来てしまったのではないかと泰夢は思った。
 けれども表札を見る限りでは、そうではないらしい。
(いったい、どういうこと……?)
 表札にまちがいはなく、そして自分の記おくが正しければ、ここは泰夢の祖母の家だという事になり、だからまちがっているのは華恋の方だということになる。
 でも、あのげんかんに入っていった華恋の様子をみると、ふつうにまちがえて入っていったという感じではなかった。
 実はこうやって泰夢が門柱の前でウロウロしている間にも、自分の失敗に気がついた華恋が、赤い顔をして飛び出して来るのではないかと、ちらりと思ったりもしたけれども、どうやらそういう気配もなかった。
(ひょっとすっと、ばあちゃんと華恋って知ってる同士ってヤツ?)
 いろんな考えが頭の中でグルグルとし、けれどもそうしていても何も先に進まないので、泰夢も思い切ってげんかんに飛びこんでいく。
「ありゃあ、おかえり、泰夢!
 お勉強、ごくろうさまだったねぇ。
 ちゃんとバスにも乗れたみたいだし、本当にえらかったねぇ!」
「うん…まあね」
 心配をよそに、祖母がいつものやさしい笑顔で出むかえてくれた。
 ただその後ろに、すでにくつをぬいで家の中に上がっている華恋が、同じような笑顔で自分を見ているのがちょっと不思議で、なんだかこわかった。
「━━ねぇ、おばあちゃん、私のこと話すのわすれてたでしょ?
 泰夢くんってば、私のことぜんぜん知らなくって、大変だったんだよ」
「ありゃ、そうだったのかい?
 華恋ちゃんも泰夢も、ごめんねぇ。
 おばあちゃん、すっかり話したもんだと思ってたから。
 そりゃあ、びっくりしただろうねぇ」
「うん…ちょっとね」
 デイパックをげんかんのろうかの手前にある広い式台にポンと置くと、そのままそこにこしを下ろしてくつをぬぎながら、泰夢がそう答える。
 どうやら二人の話からすると、祖母と華恋は知り合いのようで、それもただの知り合いではなくて、だいぶおたがいのことを知っている様子だった。
 もしかしたら、年に二、三回ぐらい、おぼんとお正月ぐらいにしか顔を合わせない泰夢よりも、祖母と華恋は近いあいだあがらのような気がした。
(そりゃ、そうか……)
 考えてみれば、華恋も祖母もここに住んでいるのだし━━そして、泰夢の予想では華恋の家は川をはさんた対岸にあり、そこまでわたることができる橋も近くにあるはずなのだ━━そうした知り合いでもおかしくない。
 泰夢も、例の学校のボランティア活動で『ニコニコ風車の家』というしせつに行くから、そこでおじいさんやおばあさんたちと話をすることもあるし、そのおじいさんたちが、実は泰夢の家の近くにけっこう住んでいて、時々は友だちと遊びに行き━━遊びに行くとおかしやジュースをよくもらえるので、それが目当てだったりするのだけれども━━いっしょに話をしたりすることがある。
 だからきっと、泰夢の祖母と華恋もそういう感じなのだろうなぁと、泰夢は思い、
「それでね、おばあちゃん。泰夢くんってばね━━」
「ありゃ、そうなのかい? それはきっと━━」
 と、話を続ける二人の横を通り過ぎ、そのまま居間にある大きなソファにどっかりと体を横たえた。
(…………)
 なんとなく……だけれども、祖母と楽しそうに話をする華恋に、むねのおくのほうがチリチリとする。
 そんな事はない……と思うのだけれども、泰夢の中にまた「自分の居場所がないんじゃないのか?」という黒いシミのような気持ちがあらわれて、少しずつ大きくなっていくような気がした。
(…………?)
 ふと、美味しそうなにおいが泰夢の鼻をくすぐった。
 身体を起こして台所の方をみると、テーブルの上にたくさんの料理が乗っているのが見えた。
(うっわー! なにこれ!
 めっちゃスッゲー! ごちそうじゃんか……)
 飛びつくようにキッチンにかけ寄り、顔を近づけてそのにおいをかぎながら、ひとつずつなめるように━━実際のところ、いくつかはちょっとつまみ食いをしつつ━━確にんしていく。
 まずテーブルの真ん中にドーンとあるのは、泰夢が大好きなトリのカラアゲだった。
 白地に赤や金で絵だか文様がかかれた大きなお皿に山もりになっていて、そのまわりにゆでたトウモロコシとブロッコリーがたくさん乗っている。
 そのまわりも平皿や深皿がたくさんあり、じゃがいもとひき肉をあまからいタレでいためたものや、祖母が泰夢の家に来た時に必ず作ってくれる大きなハルマキと、クルクルとひねってあるコンニャクのにものもあった。
 そして、テーブルの一番おくの方で大きなすしおけにいっぱいになっているのは、ちりめんじゃことカリカリ梅ときぬさやの混ぜご飯だった。
 どれもこれも泰夢の大好物であり、祖母が自分のためにこれを作ってくれたのだと思うと、さっきまで感じていたむねのおくのチリチリが小さくなっていくようだった。
「ばあちゃん! オレ、おなかへちゃったよ!
 早くゴハンにしようよ!」
 おなかがぐぅっとなるのが聞こえ、まだげんかんで話をしている二人にそう声をかけると、せん面所にかけこむ。
 ひねったじゃぐちから勢いよく出てくる冷たい水に両手をつっこんで手をあらい、その手にためた水を口にしてガラガラとうがいをする。
 そうしてそのまま、泰夢は自分のむねのおくにあった例の「チリチリ」も、いっしょにあらって流してしまったのだった。
===============

美味しいものはココロもゲンキにしてくれます!
では、次回もお楽しみに!

小林るい


◆次のお話へ →