泰夢(たいむ)のお話:83
頭に置かれた手から、泰夢の気持ちが華恋へと伝わっていきます!
それでは、どうぞ!!
===============
頭にポンと置かれたその手から、泰夢(たいむ)が自分のことをしっかりと想っていてくれているのだと、そんな気持ちが伝わってきて、華恋(かれん)の目からドッと、なみだがあふれだす。
声もたくさん出ていたんだと思うけれども、泰夢は何も言わないでずっと手をにぎって頭をなでてくれていた。
こんな時って泰夢くんはどんな顔をしているんだろう……と、ふとそんなヘンな考えが頭にうかんで、不思議だけれども泣きながらちょっと笑ってしまいたくなるような気持ちになる。
もちろん、下を向いている華恋にはそれを見ることはできない。
そっぽを向いているのだろうか、それとも、ちょっとはずかしそうにしているのだろうか。
(……でも、
きっと……)
つり橋のワイヤーロープで逆さになって、上下が反対になった中で見たあの泰夢の顔がうかぶ。
自分のことを引っ張り上げようと、本気になっていた泰夢の顔を見て格好いいと素直に思った。
笑ったりふざけたり、すねてみせたり、泣きそうになったりと、泰夢はコロコロと表情が変わるから、いっしょにいても全然あきない。
そして何よりも、これはまだ華恋も自分では気づいていない事なのだが、そんな風にしている泰夢が今どんな気持ちでいるのかが何となく分かるので、こんなにも早い時間で、そして近いきょりで、心を開いて許して━━華恋は人当たりが良くて明るくて、学校や学習スクールでもだれからも声をかけられるが、それは華恋が『周り』を見ながらそうしているのであって、父親がなくなってからいろいろな見たくないことがたくさんあり、だから華恋はこうやって『人』を見ながら『周り』と接するようになったのだ━━いて、それは自分の母親以外には泰夢の祖母と、泰夢しかいなかった。
そんないつもおちゃらけている泰夢の、今まで見たことがなかった真っ直ぐでしんけんで、ちょっとだけおこったようなあの表情は、華恋の中にとても強く残った。
(…………)
まだなみだは止まっていなかったけれども、頭にうかんだあの時の泰夢の顔にむねのおくの方がカァッと熱くなるような気がして、また泣きながら笑ってしまいそうな気持ちになった。
(なんだろ、これってヘンだよね……
わたし、泣いてるのに、こんなにいろんなコトがうかんで……
それもこれも、ぜんぶ泰夢くんで━━)
むねに当てているおでこと、つながっている手と、なでられている頭から泰夢を感じて、それが華恋の中でしっかりと、つり橋のわたり板にあぐらをかいてすわっている泰夢の形になった。
そして、その泰夢に包みこまれるように寄りそって━━自分がいる。
落っこちそうになった時の不安な気持ちは、もうすっかりとどこかにいなくなっていた。
あんなにこわかったのに、どうしちゃったんだろう……と、思いながら、おなかの辺りがヒクッとして、クスッと体がふるえた。
「華恋ちゃん……
だ、だいじょうぶか?」
心配そうに聞いてくる泰夢の声がもうダメだった。
最初は下を向いたまま、それでもなるべくがまんしようと思ったけれども、そばにいる泰夢があたふたしているのがそのまま伝わってきて、それが余計におかしくて、ついに華恋は大きな笑い声を上げた。
「か、華恋ちゃん……?」
おどろいたのは泰夢だった。
もしかして、こわすぎてヘンになってしまったのかと思ったけれども、ゴメンゴメンと言いながらわらっているので、ちょっと安心した。
けれども、その後もチラチラこっちの顔を見ては、つないでいない方の手でおなかをおさえて笑い続ける華恋に、だんだんとハラが立ってくる。
「……なんだよ。
オレさ、すんげーさ……し、心配したんだぞ!
なのに華恋ちゃんてばさ、急に笑って━━なんか失礼じゃんか!」
「ククク……ゴ、ゴメンね、泰夢くん。
わたしが悪いんだけど……クッ……クフフフ……
━━ダ、ダメ、泰夢くんがわたしの頭の中で……アハハハ……」
なんだよ、オレがどうかしたのかよ!と、すっかりすねてしまった泰夢が目玉をグルリと一回ししてプゥッとほっぺたをふくらめる。
それを見た華恋が、お願いだからもうヘンな顔しないで……と、ヒイヒイと体をよじってもっと息をあらくする。
最初はとまどったりすねたりしていた泰夢だったけれども、つないでいる手から華恋が笑うのが伝わってきて、そのうちに一度おなかがヒクッとなったのが引き金になって、いつの間にかいっしょに笑いはじめる。
泰夢も華恋も、何がどうしてそんなにおかしいのかよくわからなかったけれども、もしかしたら、とってもこわい思いをしたからそのバランスを取ろうとしていたのかもしれない。
つり橋も笑っている二人に合わせてゆれて、そうして、それもだんだんとおさまっていく。
大きく息をついて、ようやく落ち着いた泰夢と華恋が顔を見合わせる。
「……泰夢くん、
助けてくれてありがとうね!」
「ううん……
華恋ちゃんが無事だったんだしさ、
だからさ、もうぜーんぶオッケーじゃん!」
目を合わせて、今度は『笑う』ヤツじゃない笑顔をおたがいに交わす。
そろそろ行こうよ、と泰夢が立ち上がって右手でつり橋のワイヤーロープをつかむ。
うん、と華恋もうなずくと、左手で同じ様に反対側のワイヤーロープに左手を置いた。
二人の間にある手は……泰夢も華恋も、そろそろはなしてもいいんじゃないかな?と思ったけれども、なんとなく自分の方からそれをするのはダメな気がして━━そして、ちょっとだけ手をはなすのがさみしいような気もあって━━つないだまま、つり橋の残りをわたり終えたのだった。
===============
やっと吊り橋を渡り切った二人。次はいよいよ華恋の家に向かいます!
では、次回もお楽しみに!
小林るい
