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泰夢(たいむ)のお話:84

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橋をわたりふたたび現れたつづら折りのボロボロ階段に泰夢は……
それでは、どうぞ!!

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シーン5-1:華恋が住む川の対岸で

 歩くたびにユラユラとするつり橋をわたって、反対側の岸にあるコンクリートの広場に着いた泰夢(たいむ)と華恋(かれん)は、二人そろって後ろをふり返る。
 そこには、わたる前に川の対岸から見たのと同じ様に、人間が作ったつり橋と自然が作った林やガケ、急流や大きな岩なんかがあった。
 向こうから見るのと、こっちから見るというちがいはあるけれども、どこまでも広くて高くて青い空と、ドーンとそびえるように立ち上がったまぶしいぐらいに真っ白な入道雲が見えるその景色は、どちらもそれほど変わらないように感じる。
 でも、そこをわたって来た泰夢と華恋は、川の向こう岸にいた時の自分たちとは少しちがうように思う。
 二人の間でつながれているおたがいの手が、その証しだった。
(…………)
 もう一度ふり返って、今度はつり橋をせなかにする。
 目の前にはさっき下ってきたのと同じ様なガケと、つづら折りのかいだんがあって、その上には例のバスが通るアスファルトの道路があった。
 ここを登ったその先に華恋の家がある。目的地まではもう少しだった。
 泰夢と華恋そろって手をつないだままかいだんを登ろうとし、そのはばがせまいことに気がつく。
「……泰夢くん、またヘンなことしたらダメだよ?
 わすれてるかもだから先に言っておくけど━━
 ちゃーんとかいだんを登るのが、イチバンに早いんだからね?」
「へへーんだ!
 そんなん言われなくたってさ、
 オレって、もうカンペキにわかってるじゃん!」
 それぞれにそんな軽口をたたいた後、顔を見合わせてアハハと笑いながらそっと手をはなす。
(…………)
 つり橋をわたる前はべつに気にもしなかったのに、落っこちそうになってからずっとつないでいた手がはなれて、華恋も、泰夢もなんとなく『何かが足りない』ような感じになる。
 はなした手を後ろに回し、反対の手でにぎってつかまえると、ちょっとむねを反らすような格好で先にかいだんを登っていく華恋。
 泰夢もつないでいた手を二度三度、グー、パーとにぎって開いてをくりかえして、それからデイパックのかたひもをグッと両手でつかむと、だまって華恋の後に続いていく。
 さっき下った川の向こうのかいだんと同様に、大きめの石をならべて木のくいや板でつくってあり、そしてこれもまた同じ様に、あちこちくずれてガタガタになっていた。
(ヤベェ……ちょっと、つかれてきたかも。
 っていうかさ、コレっていったいいつまで続くんだ?)
 かいだんを登り始めてしばらくして、泰夢がウヘェとベロを出す。
 さっきはおりてきたから、かいだんのあちこちくずれていても、めんどうだなぁと思うぐらいで、足場の良さそうな所を選んでヒョイヒョイと進むことができた。
 けれども、今度はそこを登っていかなくてはならず、だんさが無くなってただの坂になっている所や、元は足場だっただろう大きな石がへんな場所に転がってジャマになっている所もあって、本当にやっかいだった。
 その上、太陽はどんどんと真上にきていて、川からの風があるからまだマシだけれども、気温の高さと日差しの強さが泰夢を苦しめる。
 頭の中で、コレはスーパーSランクの修行なんだ……と自分に言い聞かせて登っていくけれども、さすがに音を上げそうだった。
(…………)
 少し立ち止まって一息つく。
 顔をあげた先で、華恋がしっかりとした足取りで一歩一歩じっくり登っていくのが見える。
 おでこに手をかざしてガケの上の方に目をやると、ゴール地点らしいおどり場のような所が見えた。
 あといくらかの高さも無いように見えるけれども、そこにたどり着くまでには、このガタガタのかいだんが、右に左にと何度も折れながら、まだまだ先まで続いている。
(このガケをさ、ドカドカドカーってまっすぐに登ってったらさ、
 あっという間に上につくんだろうな……)
 そんな考えがうかぶ。
 うかぶけれども、さすがにそれをやる気にはならない。
 さっき華恋にクギをさされたこともあるけれども、この急なガケを登っていくのは、さすがに無理なような気がした。
 もう一度先に行く華恋を見て、そうして下を向いてがんばって足を動かしてかいだんを登っていく。
「━━ふぅ、やっと着いた!」
 それからしばらくして、先に上のおどり場にたどりついた華恋が、そう声を出してグーッと体をのばす。
「泰夢くん、ちゃんとついて来てるのかな……」
 おどり場の手すりから身を乗り出して、ガケの下をのぞきこむと、華恋のいる場所から一つ前のつづら折りを曲がってくるところだった。
 ひとりでかいだんを登りながら、華恋は後ろにいる泰夢の様子にも、ちゃんと目を配っていた。
 最初は調子よく進んでいた泰夢だったけれども、まんなかを過ぎたあたりから急に足が進まなくなった。
 それからはずっと下を向いたままもくもくとかいだんを登り、そうして時々立ち止まってはガケの上を見ては、また登り出すのをくり返していて、いまはもう、ほとんど四つんばいみたいになっていた。
「泰夢くーん!
 上まであともう少しだよーっ!
 ほら、がんばってーっ!」
 手をふって大きな声でよびかける。
 その声がとどいたのか泰夢は最後の曲がり角のところで体を起こすと、華恋に向かって答えるように両手をブンブンと勢いよくふる。
(泰夢くんってば、もうヘトヘトなハズなのに……
 あれって、絶対に無理してるよね)
 こっちに向けてビシッと親指を立ててポーズを決めてみせ、うおおぉ……っとおたけびを上げてかいだんをダッシュしてくる泰夢の姿に、華恋の口元がクスっとほころんだ。
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今度ばかりは、泰夢もムチャをしなかったようです!
では、次回もお楽しみに!

小林るい


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