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泰夢(たいむ)のお話:85

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長いつづら折りの階段を登って、すっかりヘトヘトになった泰夢です。
それでは、どうぞ!!

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 息をはずませながら、泰夢(たいむ)がかいだんの最後を登りきる。
 体を前に曲げて、ひざに手を当てて、大きく息をすったりはいたりしているそのすがたに、がんばったね!と華恋(かれん)が声をかける。
 泰夢がずっと思っていた━━そして実際に試してみてとんでもない目にあった━━とおり、つり橋へと続くガケのかいだん、左右に長くクネクネと続いているこのかいだんが、やはり曲者だった。
 ガケ自体はそんなに高くない。
 泰夢の通っている四階建ての小学校の屋上よりも低いと思う。
 なので、もしこれがこんなに長いつづら折りで、かいだんも木やそこら辺の石を積んだようなヤツ━━しかも、それももうボロボロで、かいだんなのか坂なのかわからない場所だってけっこうあった━━ではなくて、もっとしっかりした、歩道橋やビルなんかにあるヤツだったら、二だん飛ばしでビュンビュンとかけ上がって、あっという間に終わるだろう。
(……華恋ちゃん、
 前ん時に「家まで一〇分もかからない」なんて言ってたけどさ、
 あれってさ、ぜったいにウソじゃん?)
 初めて華恋と会った日に、祖母の家でいっしょにご飯を食べていた時のことをふと思い出した。
 その時に華恋は、自分はつり橋をわたったすぐのところに住んでいて、時間もそんなにかからないと言っていた。
 ひざに手をおいて息を整えながら、ちょっとだけ頭を上げてチラリと華恋の方を見る。
(…………)
 ふわっとふいた風につばの広い麦わらぼうしを手でおさえ、華恋はすずしい顔で遠くを見ている。
 首のあたりがちょっとあせで光って見えるけれども、全身あせまみれになってオマケに鼻の頭にまで玉がういている泰夢とはちがって、つれている様子も全くなかった。
(オレって……もしかしてヨワヨワなのか?)
 そこから考えると、どうやら華恋が言っている事は本当らしい。
 同じ五年生の━━身長とかはあっちの方がちょっと大きいけれど━━華恋と比べて、自分の方が弱いとは思いたくない泰夢だったけれども、今の状態から考えるとどうにも分が悪い。
(いや……これってさ、きっと何かあるんだよ。
 つかれないで登る方法とか━━でさ、
 オレがそれを知らないだけで、何回かここを登って修行して……)
 頭の中をグルグルとさせて、いろんな理由をつけようとする。
(……だいたいがさ、
 オレ、こういうじっくりの感じって苦手だし、
 体育の『サーキット持久走』とかだって、ワケわかんねーし……)
 運動場を走って周りながら、一周ごとにうで立てふせや縄とびなんかをやっていくという、泰夢が考える世界で一番めんどうくさい授業を思い出して、まゆ毛の間にギュウっとシワが寄る。
 泰夢は体育が得意な方なのだ━━鉄ぼうや飛び箱、ドッジボールなんかのときはヤッター!と声が出るタイプだ━━けれども、長いきょりを走るのは本当にきらいだった。
 まず、なんで走らなくちゃならないのか理由が分からない。
 ほかの授業も同じように「なんで?」と思うことがあるけれども、計算ができれば物を買う時に役立つし、漢字が読めればあちこち書いてあることが読めるようになる。
 図画工作で絵をかいたり、音楽で歌ったりするのは、算数や国語みたいには役に立たないかもしれないけれども、なによりも楽しい。
 でも、体育の持久走だけはちがう。
 毎日生きるのに必要ないし、そして何より、同じことのくり返しでちっとも面白くないのだ。
 どこかに行くのなら歩いていけばいいし、遠くまで行ったり急いだりしたいのなら自転車に乗ればいい。
 もっと遠くに行くのなら自動車だって電車だってある。
 なのに、あんなに息が上がって苦しくて、体中つかれてしまうのに、なんで走らなくちゃならないのだろうかと、泰夢はいつも思うのだった。
(……華恋ちゃん、空手やってたって言ってたし、
 だったらさ、もしかしてそれのせい?)
 華恋が持久走を得意かどうかは知らないけれども、空手とかをやる人は、トレーニングみたいなのでいつも走ってるイメージがある。
 もし華恋が長く走るのをずっとやってきたのなら、あんなに長いつづら折りのかいだんを登って来たのに、自分とちがって全然平気なように見えるのは、そこがちがうのかもしれない。
「泰夢くん……どうしたの?」
「━━えっ?」
 手をひざに当てたまま、口を大きく開けてこっちをジーッと見つめている泰夢に、華恋が不思議そうな顔で声をかける。
 自分の中では、ちょっと考えていただけのつもりだったけれども、けっこう時間がすぎていたようだった。
 どうにもバツが悪く、ちょっとそっぽを向いて頭をポリポリやってから、ようやく体を起こす。
「……いやさ、かれんちゃんってさ、
 ほんとスゲーんだなぁって━━そう思ったんだよ」
「わたしが、すごい……?」
「うん……だってさ、こんなかんだん登ったってさ、
 息がハアハアしてないし、あせだってそんなにかいてないじゃん?
 なのに見てよ、オレなんかこんなだよ?」
 そう言って、泰夢が顔中のあせを指さして見せて、それからシャツのおなかの部分をグイッとひっぱってゴシゴシとそれをぬぐう。
「━━ちょっと!
 そんな風にしたら、シャツがのびちゃうでしょ?
 バカなこと言ってないで……息が整ったんなら急いで行こうよ!」
 シャツですっかりあせをふいて、みょうにサッパリとした顔をする泰夢に、華恋はプゥッとほっぺたをふくらめると、目の前の道路のあるバス停の、そのさらに向こうを指す。
 そこには、高台の上に建っている二階建てのアパートが見えた。
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泰夢はもう少しだけ体力をつけた方がいいかもれませんね!
では、次回もお楽しみに!

小林るい


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