泰夢(たいむ)のお話:82
まだ恐怖にふるえている華恋に、泰夢がそっと寄り添います!
それでは、どうぞ!!
===============
つないでいる手の、重なった手のひらから泰夢(たいむ)のあたたかな力が伝わってくるような気がした。
思っているよりも長くてしっかりとした指に包まれ、冷たくちぢこまった自分の心があたたかくほぐされていくように、華恋(かれん)は感じる。
自分を助けてくれた━━のが、この手だ。
体に力が入らなくて立ち上がることもできなくて、まだわたり板の上にヘタリとしゃがみこんだままだったけれども、泰夢の手が華恋をしっかりと支えてくれているような気がした。
(…………)
もう少しだけ、ほんの少しだけ泰夢のあたたかな力にふれたくなる。
いつもの華恋だったら、もちろんそんな事はしないし、考えもしないのだけれども、今は、今だけはそう強く思った。
(……でも)
でも━━きっと、泰夢はびっくりするだろうし、もしかしたらいやがるかもしれない。
コンビニエンスストアで初めてあくしゅをした時も、本当に目を丸くして、おっかなびっくりでこっちに合わせて手を出してきたぐらいだ。
(泰夢くん……)
━━だから、なるべくそっと、やさしくゆっくりと、頭を泰夢のむねの中に寄せてくっつける。
泰夢の体がビクっとしたのが分かった。
そのままはなれていってしまうのかなと、すこしさびしく思った。
けれども、泰夢はジッと動かなかった。
体にすごく力が入って強張っているのがふれている頭からでも伝わってくるぐらいだったけれども、華恋のことをちゃんと受け止めてくれ、そうしてギュッともう一度、手をにぎってくれた。
(泰夢くん━━)
心の中の冷たく小さく固まっていたものが、一気にほぐされていくような感じがした。
うつむいている目の先に、自分の手を包みこむようににぎっている泰夢の手が見える。
自分よりも体は小さいのに、泰夢の手は華恋よりも大きくて、ちょっと父の手を思い出す。
もちろん、大人と子どもだから本当の大きさは全然ちがうのだけれども、手を包みこんでくれるような感じがした。
(……ちょっとだけ、
お父さんみたいだった)
そうして、それといっしょにさっき泰夢と目があった時、よかった……と言ってくれた時の顔を思い出す。
泰夢のあの笑顔を、だれかに似ている、どこかで見たことがあるような気がすると思ったのは、きっとそういうことだったのだろう。
それだって手の大きさと同じように、顔だってまったく似ていないのだけれども、笑い方というか、見ているだけで安心するみたいな、しっかりと守ってくれているような、きっとそんなふんいきがいっしょなんだろうなとそう思って━━
(わたし、助かったんだ……)
心の底から安心した華恋の目に、大つぶのなみだがもりあがり、こわかった……と、小さな声が口から落ちていく。
その声は泰夢の耳にも聞こえた。
(……華恋ちゃん)
本当にこわかったんだろうなと、むねに当たる華恋の頭がまだこきざみにふるえているのを感じて、どうにかできないかと頭をひねった。
むかし母親がよくやってくれたみたいに、ゆっくりとせなかをなでた方がいいのでは?と思いつき、にぎっていないもう一方の手を上げてみるけれども、なんとなくはずかしくなって、さっと手を引っこめる。
(……いや、いやいや。
これってなんかさ、ちがうカンジじゃん?
だってさ、華恋ちゃんだってさ、小さい子どもじゃないんだから……)
自分のむねに頭をつけている華恋の、そのせなかにうでをのばしてさすったとしたら、もうそれはまるで『だっこ』をしているみたいな感じになってしまうだろう。
目をジッとつぶり頭をグルングルンとふって、その考えをどこか遠くに放り投げるけれども、次の新しい考えは出てこなくて、ますますわけが分からなくなってきてしまう。
(どうすりゃいいんだ……?)
そうしてゴチャゴチャと考えているうちに、ふと今さっき目の前で起きたことが、一気に頭の中にうかんできた。
つり橋の上から逆さまになって、今にも落ちそうだった華恋。
その光景をちょっと思い出しただけでも、体中の力が全部ぬけてしまいそうになる。
よく華恋ちゃんを助けることができたなぁ、と自分でも不思議だし、もしかしたら自分も華恋といっしょに落っこちていたのでは……と思う。
華恋のことを支えきれなかったかもしれないし、しりもちをついた場所がわたり板の上でなければ、二人ともワイヤーロープの間をすり抜けて落ちていただろう。
(……でも、だいじょうぶ。
もう、だいじょうぶなんだ。
だって、オレも華恋ちゃんもさ、こうしてココにいるんだから)
今はつり橋のゆれはすっかりとおさまって、自分と華恋はちゃんとわたり板の上にいる。
お気に入りだったあの木の小枝は、残念にも折れた時に下に落ちてそのまま川に流されてしまったけれども、持っていたバッグも、そして華恋の麦わらぼうしも無事だったし、ケガだってちょっとすりむいたぐらいで、ほとんどしなかったのだ。
「華恋ちゃん……もう、だいじょうぶだよ!
オレと華恋ちゃんだったらさ、何でもかかってこいってカンジじゃん!
だってさ、オレたち━━オレたち、最強タッグだろ?」
照れる気持ちをかくそうと、わざとおどけるように声に出して言い、泣いている華恋の頭に━━それも、さんざん迷ってから━━ゆっくりと手を置いて、そっとなでた。
===============
泰夢と華恋、それぞれにつり橋での恐怖を乗り越えたようですね!
では、次回もお楽しみに!
小林るい
