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泰夢(たいむ)のお話:35

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華恋の空手に泰夢が羨望の眼差しを注ぎます!
それでは、どうぞ!!

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 息を整えた華恋(かれん)に、泰夢(たいむ)がテーブルの上にあった麦茶の入ったコップを差し出す。
 それはもうかなりぬるくなっていたけれども、全身を使って空手の型をひろうした今の華恋にはそれがちょうどよく、ゴクゴクとのどを鳴らして一気に飲みほしてしまう。
「ふう、久しぶりだったけど、しっかり気合が入ったかな……
 ━━麦茶、ありがとうね、泰夢くん」
 華恋がそう言うのに首を横にふってコップを受け取った泰夢は、スゴかった、風の音がヤバかった、あとカッコいい!と、目をキラキラとさせて、生まれて初めて目の前で見た空手にこうふんしながら話をする。
「マジで、格ゲーのキャラみたいだった!
 ホントにオレ、そのキャラがスッゲー好きで、いっつも使ってて、
 華恋ちゃんのシュシュってヤツ、マジでそっくりだった!」
 と、泰夢がこぶしをにぎって左右にくりだす。
 それは、さっき華恋が見せた『せいけんづき』とはぜんぜんちがうフニャフニャとした動きだったけれども、泰夢の頭の中ではもう完全に、華恋やそのゲームのキャラといっしょの感じになっていた。
「ふふふ……うん、すっごく上手だよ!
 ━━わたしね、お父さんとずっと空手をやってたんだよ。
 だから、泰夢くんに見せたくなっちゃって……」
「……えっ、オレに?」
「うん、そうだよ。
 泰夢くんが、わたしのお父さんの事を好きだって言ってくれたから、
 だからわたし、お父さんとわたしが二人でいっしょにやってたことを、見せたかったの」
「そうなんだ……でもさ、だったらさ、
 だったらオレも、いまのヤツ見れてスッゲーうれしいと思ったよ。
 華恋ちゃんのお父さんってさ、ホントにスゴいんだな」
「うん、ありがとう……
 お父さんもすごく喜んでるよ!」
「うん━━オレも、よく分かんないけど、
 華恋ちゃんのお父さんがさ、喜んでくれてるような気がしてきた」
 そう言って泰夢はまじめな顔をすると、部屋の天井やかべの辺りをくるくると一回し見てから、どこかにいるかもしれない華恋のお父さんに、ありがとうございます。と目をつぶって頭を下げる。
 そのすがたに華恋は鼻先がツンとつまる感じがして、泰夢のことをより近く感じるようになり、そして自分も、同じように目をつぶってそっと手を合わせた。
「……あのさ、オレさ、ホントのこと言うと、
 華恋ちゃんのこと、なんでウチのばあちゃんちにいるんだーってさ、
 思っちゃってたんだけど…それ、なしにする」
「…………」
「だってさ、華恋ちゃんはお母さんはがんばってるし、
 お父さんも見ててくれるけど、家に帰ればきっと一人なんだよね━━
 ……だからさ、さっきオレが思ったの、取り消しね。
 ここはオレのばあちゃんちだけど、華恋ちゃんの居場所だから!」
「泰夢くん……」
「……オレさ、それをさっき言いたかったんだよ。
 でもって、華恋ちゃんが空手見せてくれて、
 お父さんの話を聞いて、もっともっとそう思ったんだ」
 言って、泰夢がニッコリとする。
 さっきの消しゴムのときには、モゴモゴしてうまく言えなかったけど、今度は自分の思っていることを、ちゃんと言うことができた。
 そしてそれを言うことができて、泰夢も華恋への苦手な感じやちょっと身構えるような感じがすっかりと消えてなくなったような気がした。
「ありがとう……泰夢くん。
 でも、それはわたしだっていっしょだよ……
 だって、泰夢くんは一人でこっちに来てるんだもの。
 ━━それって、わたしはすごく勇気があることだと思うよ」
 それは、華恋の正直な気持ちだった。
 最初は本当にいやな感じだったけれども、それはやはり下に弟か妹ができることになり、母が入院、父は仕事というじょうきょうで、たった一人で知らない場所に来れば、自分でも不安になるだろうと華恋は思う。
 さらにその行った先に、家族でもない他の人がいっしょにいたら、自分と同じように、居場所がない、と感じるのは当たり前だ。
「泰夢くん━━」
 そう声をかけて、華恋が真っ直ぐ右手を差し出す。
「うん━━」
 今度は泰夢もおどろいたりせず、へんにきんちょうすることもなく、華恋の手をにぎりかえす。
「これからも、よろしくね!」
「うん、オレの方こそ!」
「ふふふ……そういえばコンビニであくしゅした時、
 泰夢くんってば、びっくりしてカチコチになってたよね」
「えっ、そ、そうだっけ……?
 でもだってさ、それはさ、ばあちゃんがさ、
 オレに華恋ちゃんのこと、何も言ってなかったからじゃんか!」
 最初から知ってたらもっとちゃんとしてた、とブツブツ小声になる泰夢をみて、たとえ知ってても、いや知ってたらきっともっと余計に、泰夢くんならわたしからにげてたんじゃない?とからかって笑う。
 そうして二人でテーブルを元の場所にもどすと、まだ残っている学習スクールの宿題をかたづけるために、さっき書いたり消したりしていた学習帳をもう一度ひろげて、えんぴつを走らせていくのだった。

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二人とも、ようやく勉強に戻りましたね!
では、次回もお楽しみに!

小林るい


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