泰夢(たいむ)のお話 その二:9
泰夢と華恋の間に、一つの問題が持ち上がります。
それでは、どうぞ!!
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学習用タブレットの画面を見ながら泰夢(たいむ)がブルブルっと体をふるわせる。
イヤホンの入った耳から声が聞こえるたびに、なんだかこそばゆくてどうしようもなくて、ついクネクネしてしまう。
横にすわっている華恋(かれん)が、その様子にまゆ毛を上げる。
小学校のたん任のオバタ先生とは、自由研究の相談で何回かビデオ通話で話をしているけれども、どうにも泰夢はイヤホンが苦手だった。
いや、一人でするのは平気だ。
特に、夜中にこっそりとベッドの中にかくれてゲームする時には、イヤホンは絶対に欠かせない。
問題は華恋と二人で一つのイヤホンをしていることだった。
イヤホンはコードが付いていて、それがとちゅうで二つに分かれているタイプのものだった。
いつもはそれを両方の耳につけているから、当たり前だけれども音も両耳から入ってくる。
けれども、今はかた方にしかイヤホンをつけていないので、そちら側からしか音が聞こえてこない。
それが泰夢にとってはどうしても気になった。
ずっと耳元でヒソヒソ話をされているみたいで、せなかがゾワゾワっとするような気がして、なかなか話が頭に入ってこない。
そしてもう一つ━━
泰夢と華恋で一個ずつそれを耳に付けて使っているのだけれども、二人の間のコードがどうしてもブラブラして、それがちょっと耳を引っぱるような感じになるのも気になる。
「…………」
もうちょっと華恋の近くにすわって、体を寄せればいいのかもしれない。
けれども、それはやっぱりちょっとはずかしい気がする。
でも、はなれすぎると今度はコードがピーンとしてしまって、耳のこそばゆい感じがもっと強くなるので、それはそれでよろしくない。
そんなこんなで、オバタ先生こと『オバジイ』とタブレットで話をしている間、泰夢はずっとクネクネとし、そして時々ブルブルっとして、まったく落ち着きがなかった。
泰夢一人でモゾモゾやってもらう分には構わないが、そのイヤホンのもう一方を使っている華恋としてはたまらない。
もう通話も何回かしていて、いっしょに話もして少しは慣れてきたけれども、他の学校の先生の前にいるのだから、やっぱりちゃんとしていたいし、自由研究の話だってしっかり聞きたい。
それなのに、泰夢がずっと横でモゾモゾやっているから、華恋のイヤホンもそれに引っぱられたり動いたりして、ちっとも集中ができない。
そうして、とうとう華恋のいかりはちょう点に達して、ついにかんにんぶくろのおが切れた。
「━━ちょっと! もういいかげんにして!
泰夢くんがゴソゴソ動くから、
わたし、オバジイ先生のお話に集中できない!」
そこはおしゃべりをしてもいい談話室だったけれども、それでもちょっと周りがハッとするような声だった。
「華恋ちゃん……ごめんよ。
でもさ、どうしてもダメなんだよ。
耳んトコがモゾモゾ、コソコソしちゃって━━━━!」
言いながら華恋の方にふり向いた泰夢が、急に動かなくなった。
イヤホンのコードがあるので、それを引っぱらないように注意して泰夢はふり向いた。
そうしたら、華恋の顔が目の前にあった。
華恋の方もいっしょだった。
泰夢の言い分でも一つ聞いてやろうかと、コードを気にしながら泰夢の方を向いた。
同じように、泰夢の顔がすぐ近くだった。
二人が同時に顔をクルリとやったので、おたがいの顔がもうほとんどくっつくぐらいになったのだ。
「…………」
おたがいの顔をじっと見る。
それが長い間だったのか、ほんの短い間だったのかはわからない。
ただ二人には、時間が止まってしまったように思われた。
そのあまりの近さに耳の先まで真っ赤になり、そのかわりに頭の中は真っ白だった。
もちろん二人が出会ってからこっちはほとんど毎日、朝に学習スクールに行く時にバスに乗ってから、夜になって華恋の母親がむかえに来るまでの間ずっといっしょにいる。
だけれども、こんなに顔が近くなるのはこれが初めてだった。
「━━━━」
泰夢が華恋を見て、華恋が泰夢を見る。
何とかしなくちゃ……とは思うけれども、いろいろな考えがグルグルとしすぎてしまって、もうどうしていいのかわからない。
そうしてそのまま、しばらくじっとしていると━━
「わっはっはっは!
なるほどなぁ、泰夢くんと華恋ちゃんか……!
うんうん、いいじゃないか!」
と、それぞれのイヤホンから大きな笑い声が聞こえた。
「ビデオ通話をしている間はずーっと、
高原(たかはら)さんと寺田(てらだ)さんだったけど、
気にせずに、おたがいにそうよんだらいい……わっはっはっは!」
ようやくハッとして、二人が顔をそらす。
タブレットの画面の向こう側で、オバジイがうれしそうに笑っていた。
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愛すべき生徒たちの成長を優しく見守るオバジイでした!
では、次回もお楽しみに!
小林るい
