泰夢(たいむ)のお話:24
子どもの世界だって、駆け引きはあるんです!
それでは、どうぞ!!
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トートバックをかたにしっかりと持って、華恋(かれん)がコンビニエンスストアから飛び出て行く。
それに連れられるように、泰夢(たいむ)もゆれるデイパックにふり回されながら、ひっしに駅にあるバス停に向かって走った。
もわんとした熱い空気が全身を包みこみ、冷えていた体を温めていく。
コンビニのまどから外の様子を見た時は、そこに華恋のすがたがうつっていたぐらい暗かったように思ったけれども、実際に外に出てみるとそれほど暗くはなっていなかった。
山の向こうの空はまだ明るさを残していて、これはたぶん山のかげに太陽がかくれたので暗くなったのだと思う。
「ほら、泰夢くん! いそいで、いそいで!」
田舎の駅前の景色に目をやっていた泰夢を華恋が急かす。
たしかにバスはもう駅の始発のバス停に着いていたようだし、あのせきこんでいるようなエンジンの音もするので、もうすぐ発車するんだろうなというのはよく分かる。
でも、バスまではもうそれほどのきょりではないし、ロータリーの植えこみのかげをぬければ、運転手さんからも自分たちが走っているのが見えるはずで、そういう時だったら━━こっちは子どもなんだし、いざとなったら大きく手をふりながらバスまでダッシュすれば、自分たちが乗りたいということもきっと伝わるはずだ━━わざわざ乗車客を置いて行ってしまうなんてことはないと思う。
(……なのに、なんでああやっていちいち言ってくんだろう)
母さんみたいなんだよな、女子って……と泰夢は思う。
「私のことホントに知らない?」
そうさっき華恋が言ったのを聞いて、泰夢は華恋のことを『少し苦手なヤツ』の箱にいれるのを保留にしていた。
そこから察するに華恋は、泰夢が自分のことを知っていると思って話をしていたのだから、それであれば、あのちょっとなれなれしい感じもわかる気がすると思ったからだ。
(でもなぁ……)
けれども、もしこれが続くようなら今度こそまちがいなくあの箱へ、もしくは『少し』を外して、絶対に関わり合いにならないように全力でにげ回るようにする━━『苦手なヤツ』の箱に入れてしまおうかと考える。
「ふうっ! なんとか間に合ったね!」
二人がバスに乗りこみ、運ちん箱の機械にスマートフォンをタッチをすると同時に、プシューッと音を立ててドアがしまる。
ゆっくりとロータリーを回りながら出ていくバスの中で、両方の手で手すりにつかまり、その大きくゆれてふり回される力をちょっと面白がるように笑いながら、華恋が言う。
「……そうだね」
そっけなく答えて、泰夢はバスの車内を見回した。
朝に乗った時よりも、バスのシートにはちょこちょこと他の乗客の人たちがすわっているのが見えた。
このまま他のお客さんが少なくなるまで立っていてもいいのだけれども、そうするとずっと華恋といっしょにいる事になるかもしれない。
(うるさそうだし、めんどうだし……)
もう一度ちらっと車内を見回して空いてるシートを確にんすると、
「あの、さ……空いてるトコにすわらない?」
と、そこに目線をやりながら華恋に声をかけた。
「えっ? うん、そうだね!
駅からだと私たちがおりるところまで遠いし、すわろっか!」
泰夢の方から話しかけられた華恋は、「まさか!」というような表情をうかべ、うれしそうにそう声を上げると、泰夢がさっき見ていた二列になっているシートにこしを下ろす。
バスに乗っている時間は三〇分ぐらいあるから、ゆっくり泰夢と話をして事情を説明する事ができるかもしれない。
そう思った華恋は、シートがせまくならないようにトートバックをむねにかかえて、まど際の方にしっかりと体を寄せると、泰夢がすわるためのスペースを作った。
けれども、華恋の思いとは裏はらに泰夢はそこを通り過ぎ、
「すわれてよかったね、寺田さん。
それじゃあ、ボクはあっちにいくから」
と、そのままスタスタと歩いていき、華恋からはなれた前の方のシートにすわってしまった。
「━━━━っ!」
すわる直前に、チラッとこちらを確にんするような泰夢のそぶりを見て、華恋は自分がわざとそのシートにすわらされた事に気づき、ちょっとムッとしてほほをふくらめる。
一方の泰夢は、華恋がしっかりと席にすわっているのを見ると、安心してシートにすわり、せなかのデイパックを空いているスペースに置いた。
(よっし、上手くいった!)
自分の計画が成功した事を確信し、泰夢の顔に思わず笑みがこぼれる。
華恋がおりる停留所は、朝の時に見てわかっている。
このまま行けば、自分のほうが先にバスからおりる事になるはずで、そうすれば泰夢は、この後はもう華恋と顔を合わせないですむ。
もちろん明日も学習スクールがあって、そこでまた顔を見ることになるから、ひとつ問題ではある。
けれど、これだけしっかり態度を決めておけば、たぶんもう今日のようにうるさくは言ってこないはずだと思うったのだ。
(これで、あの華恋ってヤツともおさらばだ!)
満足そうにデイパックをひっかきまわし、イヤホンを耳につけてアニメソングを流す。
━━なので泰夢は、「ああ、そうなんだね……」と、ものすごい目で華恋がにらんでいるとは、もちろん知らなかったのだ。
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どうやら泰夢は華恋を怒らせてしまったようです……
では、次回もお楽しみに!
小林るい
