泰夢(たいむ)のお話:23
ついに『例の女子』との直接対決です!
それでは、どうぞ!!
===============
「━━━━ん?」
泰夢(たいむ)のおどろきの声に、例の女子が顔を上げる。
読んでいた本をとじてテーブルの上に置くと、泰夢の方にふりむいた。
「ゲーム、もう終わったの?」
「…え、あぁ、うん。お、終わった。終わったよ…」
いきなり話しかけられた泰夢は、しどろもどろになりながらそう答える。
こうして面と向かってハッキリと女子に話しかけられたことは━━もちろん、男子と女子が混ざってみんなで遊んでいる時と、学校の授業でグループごとに分かれて課題をやらなければならない時は別として……そして、その時も泰夢はだいたいの事は他の男子にまかせている━━ほとんどなかった。
自分の口が自分のものではないみたいに、思わず声がつっかえて、そしてそれがなんだかはずかしいのとイライラするので、ついつっけんどんになってしまう。
「━━それで、だからなに?」
その泰夢の様子に、女子がくすっと笑ったので、それが余計に気になってしまい、自分でもマズいなぁと思いながらも、口から勝手に言葉が飛び出ていってしまう。
「オレがどこで何しようと、そっちには関係ないじゃんか!」
「……なによ、そんなにキツく言わなくてもいいでしょ?
それに、べつに『なに』ってことはないわ。
ただ、いつ終わるのかなぁって思ってて…なかなか終わらないから、本を読んでただけよ」
「…………」
ゲームが終わらないから本を読んでいた、というその言葉がよくわからず思わずだまってしまった泰夢に、女子はやさしい笑みをうかべると、イスに横向きにすわって、しっかりと泰夢の方に向き直る。
「……なんで? って顔してるよね。
どうして私が話しかけたのか気になるの?」
だまって泰夢がうなずくと、女子はちょっと顔を近づけて今度はちょっと意地悪そうに言う。
「だって、同じ学習スクールに通ってるんだもん。
あの時だってちゃんと目が合ったのに、どこかに行っちゃうし…
だったら、ここで話しかけてもいいじゃない」
(こいつ、むちゃくちゃだ…)
たまたま通っている学習スクールが同じで、いっしょに授業を受けたとしても、だからといって、こんな風に話しかけてくるのは、泰夢の中ではありえないことだった。
ちょっと考えてみても、自分の学校やあっちの学習スクール、もちろん他の場所であっても、そんな事で話しかけてくる人に、泰夢は出会ったことがなかった。
しかしそんな事はお構いなしの様子で、ぽかんとしている泰夢を前にして、女子の話はなかなか止まらなかった。
「……それに、そうそう、バスの時もそうだった!
終点の駅に着いてるのに、なかなか起きなかったもんね。
私がつっついて起こそうとしたの、わかった?」
(つっついて、じゃなくてすごく強くゆすった、だろ……)
あの時、バスが停まって終点のアナウンスをしても起きなかったぐらい、しっかりと泰夢はねむっていたのだ。
それを起こすぐらいだから、きっとかなりらんぼうにゆすったにちがいないと、泰夢は思った。
目の前で話を続けるこの女子を、泰夢が自分の中にある『少し苦手なヤツ』の箱━━他にも仲のいいヤツ、物を貸してもだいじょうぶなヤツ、近くに来たらすぐににげた方がいいヤツなど、泰夢の中にはいろんな『箱』がある━━に入れようとしたとき、女子の言葉が耳に飛びこんできた。
「……えっ?
もしかして、私のことホントに知らない?」
「知らない……」
ポツリと言った泰夢のその言葉を聞いて女子はしばらくだまっていたけれども、しばらくして大きな目をクルリと一回しすると、何かをなっとくしたように深くうなずく。
「そっか、それじゃ━━」
と言いい泰夢の方にまっすぐ右手を差し出した。
「えっ、なに?」
おどろいて身構える泰夢に、
「なにって、初めましてのあいさつでしょ。
私の名前は寺田華恋(てらだ・かれん)っていうの。
初めまして、よろしくお願いします!」
「あ、うん。
オレは━━じゃなくて、ボクは高原泰夢(たかはら・たいむ)です。
……あの、えっと、その……よろしくお願いします」
その女子━━華恋のとつぜんのあいさつに面食らいながら、それでも差し出された手をにぎってあくしゅをする。
どんな力加減で手をにぎっていいのかちょっと分からなくなってしまい、強くしたらいたいかもしれないと、そっとにぎった華恋の手は少し冷たくて、そして、思っていたよりもあたたかかった。
顔を上げて華恋の顔を見、そして思わず目をそらす。
そんな泰夢の様子を見た華恋が、あのやさしい笑みをうかべながら、そっとやさしくにぎられた手を、ぎゅっと強くにぎり返す。
「よろしくね、泰夢くん!
これでもう『初めまして』じゃないから、だいじょうぶだよね!」
正直なことを言えば、なにがだいじょうぶなのか泰夢には分からなかったけれども、華恋の方ではそれで『良し』ということになったらしい。
テーブルの上に置いてあった本をひったくるように取ると、自分の席の横に置いてあった大きなトートバックの中に放り投げる。
その様子を見てポカンとしている泰夢に、
「ほら、急いで!
もうすぐバスが出発しちゃう!
これをのがしちゃったら、あと30分は来ないんだから!」
と、まるで母親のような口ぶりで、華恋が声をかけた。
===============
はたして寺田華恋は何者なのか…
では、次回もお楽しみに!
小林るい
