泰夢(たいむ)のお話 その二:6
オバジイとの連絡に、泰夢が学習用タブレットをスイスイと使います!
それでは、どうぞ!!
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自習室のつくえの上に無造作に広げられた図かんや本を、一さつずつ手に取ってとじて、わきの方に重ねて置いていく。
何をどうしたら、こんなにつくえを散らかす事ができるんだろう、と華恋(かれん)は思う。
ちょっとわざとらしくバタバタと音を立てて本をかたづけてから、チラリと横目で見ると、となりにいる泰夢(たいむ)が、何食わぬ顔で学習用タブレットを指ではじいている。
どうやらクラスたん任のオバジイと、さっきのことで連らくを取り合っているようだった。
(━━もう!
泰夢くんって、いっつもそう。
こういうの、しっかりかたづけなくちゃダメなんだよ!)
どうにもこっちを気にする様子が無い泰夢に、華恋のほっぺたがプゥっとふくらんだ。
口の中でそうブツブツ文句を言う華恋だが、華恋の周りにいる男子の中では、まだ泰夢はマシな方だった。
初めて泰夢と会った時は、あの男子特有の全体の動きや小さな行動がらん暴でがさつで、なんでも急に初めたり、いきなり終わったりする感じはあったけれども、それでも、華恋の通う学校や学習スクールの男子と比べると大ちがいで━━例えば泰夢は、ペンケースにえんぴつや消しゴムなんかの筆記用具をしまうときでも、えんぴつの一本一本の入れ場所をそれぞれ決めていたし、消しゴムを無くしたと言っていた次の日に新しいのを買った時も、ていねいにビニールの包みをハサミで切って、消しゴムのカバーに合わせて使っていた━━だから華恋はあの泰夢と初めて会った日には、見知らぬ男子が近くに来る事にとてもけいかいしていたし、そうして来たのがこんな感じの泰夢だったから、安心してすぐに打ち解けることができたのだ。
そういうわけで、泰夢本人はまったく知らないけれども、華恋からちょっとした八つ当たりを受けていたのだった。
あらかたの本をかたづけ終えて、泰夢が一生けん命にノートを付けていたイスにこしを下ろす。
少しおしりをうかせて、つま先で前の方にイスをずらして位置を整えると、もう一度泰夢の書いたノートを見て、そしてそれからノートの前に置いてあった本を手に取る。
(…………)
そこには写真と細かな文字が書いてあって、どうやら泰夢はここからさっきの自由研究の、神社の本殿(ほんでん)や拝殿(はいでん)のことを調べたようだった。
ページをパラパラとめくりながら読み進めていくうちに、華恋のほっぺたも少しずつしぼんでいき、そのうちに「うーん、スゴいなぁ」と、うなるようになった。
いつも泰夢といっしょに勉強をしていると、すぐに答えを丸写ししたがったり、何度も「ヒントちょうだい!」と言って最後にはちゃっかり答えを聞き出したりする。
だから、自由研究と言っても、てっきり本をそのまま写して書いているのかと思っていた。
でも、泰夢の書いていたノートと、いま華恋が見た本とでは、同じ文が一つもなかったのだ。
しかも書いてあったことは本の中身とほとんどいっしょで、そこから考えると泰夢は本の内容を読んでから、それをきちんと整理してまとめて、自分の言葉にして書いているらしかった。
(泰夢くん……
本当は、やっぱりスゴいのかも)
そう思いノートから顔を上げると、鼻のあなに指をつっこんでグリグリとやっている泰夢が見えた。
「ちょっと、泰夢くん!
鼻、ほじったらきたないでしょ!
タブレットだってよごれちゃうから、ちゃんとティッシュでふいて!」
「━━うわぁっ!
ご、ごめんなさい!」
華恋のほっぺたがまたもやプゥっとふくらみ、やっぱりスゴくない! と今度はまゆ毛までいっしょにグッとよってしまう。
そのまま本の続きをパラパラとやっていき、ふと華恋の手が止まる。
開いたページには『遷座(せんざ)』と書いてあった。
(…………)
華恋のむねの中になつかしい思い出がふっとよみがえる。
遷座とは神様が引っこしをすることで、これは父から教えてもらった。
父といっしょに空手の道場に通っていた華恋は、近くの神社で行われた奉納演舞(ほうのうえんぶ)という、空手の型を神様におさめる式に出たことがあった。
この時の式が、その場所に神社が建てられた日を記念して行われた『遷座の式年大祭』というものだった。
それからしばらくして華恋の一家は今のアパートに移ったので、自分も神様と同じように引っこしをしたのだとおおはしゃぎし、それが頭の中に強く残っているのだ。
神社の石だたみの参道に、道場の他の生徒たちや父といっしょにならんで、「お願いしますっ!」と大きな声を出し、がんばって練習した型をひろうしたのがパァっとよみがえる。
遷座の事が書いてあるページを読んでいくと、神様が引っこしをしたあとには『元宮』という小さな社や祠(ほこら)が建てられることもあるらしく、華恋が空手の型をおさめた神社にも、もしかしたらどこかに元宮があるのかもしれなかった。
(お父さんと、もう一度神社で空手の型をしたかったな……)
本を開いたまま、父のことを思い出す。
毎朝、父を想いながら部屋でやっている形の練習の時よりも、こうした毎日の中の小さなきっかけで思い出した時の方が、父をより身近に感じるような気がする。
そうして本をとじ、まゆ毛のシワとほっぺたのふくらみがすっかり無くなって、かわりに口元に笑みをうかべた華恋に━━
「ねぇねぇ、華恋ちゃん!
いまさ、オレたちとオンラインで話したいって、
オバジイからメッセージが来たんだけどさ、華恋ちゃん、平気?」
と、泰夢が声をかけた。
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なかなか出てこないオバジイ……オンラインで登場するかもしれません!
では、次回もお楽しみに!
小林るい
