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泰夢(たいむ)のお話 その二:5

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すっかり上機嫌の泰夢ですが、華恋の気持ちはまだ惑いがあるようです。
それでは、どうぞ!!

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 学習スクールや図書館に行くときに、泰夢(たいむ)と華恋(かれん)はいつも乗っているバス。
 そのバスが山の上で折り返してくる所に、川をわたる大きな橋があるのだけれども、その丁度折り返すところにもバス停があって、そこから少し山を登った所に神社がある。
 華恋や泰夢の祖母が住んでいる辺りの人たちはみんな、例えば初もうでの時なんかは、この神社にお参りにくる。
 そしてなんと言っても楽しみなのが、夏のお祭りで華恋ももちろん、小学校の友だちといっしょにこのお祭りに行っていて、いつもは暗くなる前に帰らなくてはならないのだけれども、この日は親たちも重いこしを上げてお祭りに出るので、ともだちと待ち合わせをして夜の出店なんかで遊ぶのが、毎年の習いだった。
 一方の泰夢も、自分の住んでいる辺りでもお祭りがあるので、友だちと集まって遊ぶ。
 いつも歩いたり遊んだりしている街の路地や家の前、公園なんかに出店の屋台がズラーっとならんでいて、そこがまるで別の世界になったように見えて、泰夢はお祭りが大好きだった。
「オレさ、スッゲー楽しみなんだ!
 知らないところのお祭りって初めてだしさ、それにさ、
 華恋ちゃんといっしょに行くのだって、めっちゃ楽しみだしね!」
 泰夢が目をキラキラとさせながら言う。
「……でもさ、ホントにさ、
 自由研究、山とか川とかにしなくてよかったよ。
 最初はそれがいいと思ったけど、やっぱこっちの方が全然いいじゃん!」
「うん、泰夢くん、ずっと言ってたもんね。
 『つり橋がスゴいから、川と山をやろう!』って。
 えーっと…たしか河岸段丘(かがんだんきゅう)だっけ?」
 華恋の言葉に、泰夢がブンブンと首をたてにふる。
「うん! それそれ、河岸段丘!
 そっちも半分まで調べたんだけどさ、
 どうくつとかいろいろあって、面白そうだったんだよね」
 もちろん「半分まで調べた」というのは泰夢の言い過ぎで、本当のところは図書館の本だなから図かんを何さつか引っ張り出して、自習室のつくえに広げて見てみただけだった。
 それは図書館に来て初めての日のことだった。
 図かんの内容を写して書いて、カメラで本物の景色をとってプリントして使えば、それだけで十分にりっぱな自由研究になるだろうし、景色を取りに行った時に、もしかしたらまだ見つかっていないどうくつなんかも発見できるかもしれない。
 そう考えただけでも泰夢の気持ちはドキドキ、ワクワクした。
 でも、いっしょにつくえに広がった図かんを見ていた華恋には、あまりピンと来ていなかった。
(……うおおおおっ!
 なんだよこれ! スッゲェーっ!
 マジでさ、本物のつり橋じゃんか!)
 つり橋を見て泰夢がワーワーとさわいでいた時もそうだった。
 つり橋がない景色は想像できないし、そうしてずっとそこにつり橋があるということは、スゴいことなんだなぁと思いはしたけれども、でも、それだけだった。
 二人でいっしょにバスで学習スクールに来ていて、それも毎日のことなのに、泰夢はいつも熱心に一番前の席から見える景色をながめている。
 そうしてこれも毎回のように、どうやって川の流れが河岸段丘をつくったのか、同じように扇状地(せんじょうち)も水の力で出来たのだとか、一生けん命に話をする。
(……山は山だし、川は川だし、
 水が流れたらそこにある土だっていっしょに流れるだろうし、
 そんなのって、ふつうのことじゃないの……?)
 ウンウンとうなずいて泰夢の話を聞いてはいるけれども、華恋はいつもそう思っている。
 たしかにバスの大きなまどから見える景色はきれいだしとっても広くて、そこにある町や駅や線路、家なんかの全部がいっぺんに見下ろせるのは本当にすごいなぁと感じはする。
 けれども、だからと言ってこうした地形がどうやって出来たとか、だからこんな風になっているのだとか、そこまでは考えたことはなかったし、考えようとも思わない。
 だから自習室のつくえの上に、何さつもの図かんがバッと広げられた時は、ちょっとこまってしまった。
 自由研究をまとめるのが苦手なので、泰夢がどんどんとやってくれるのは、とてもたのもしいけれど、そのテーマが自分に興味がないものだと、華恋もやりにくい。
 二人で研究をしていく間はいいけれども、できあがったものを先生に提出する時には泰夢はいないのだし、テーマを決めた理由を聞かれたら、どう答えていいのかわからない。
 いっしょに研究をやった人が決めた━━なんて言ったら、まるで自由研究を丸写ししたみたいで、どうにもきまりが悪い。
 どうにかテーマを変えないといけない……と、そう思っていた時に助け船をだしてくれたのが、ミハシロさんだった。
(……泰夢くん、せっかくこっちに来てるんだから、
 このあたりに住む人たちの生活や習慣をテーマにしてみるのはどう?
 神社のお祭りも近いし、華恋ちゃんもやりやすいと思うの)
 さらにミハシロさんから、山や川の成り立ちをテーマにした自由研究はこれまでもたくさんある、と聞いた泰夢が、だれかがやっている自由研究じゃつまらない! と言いはじめてテーマが神社とお祭りになったのだ。
 いま考えると、ミハシロさんは自分がこまっているのを見て、アドバイスをしてくれたのだと思う。
(…………)
 むねのおくがまたクシュっとなる。
 泰夢が自由研究をちゃんと進めていたのを見て、ちょっと気持ちが楽になったけれども、それがまた元にもどっていくような気がした。
「━━ん、あれっ?
 オバジイから、メッセージが来てるじゃん!」
 またふさぎそうになる華恋を知ってか知らずか、泰夢が学習用タブレットをコツコツやりながら声を上げる。
「えーっと、なになに……
 『寺田さんの学校の先生とお話をしました。
  くわしい事を伝えたいので、連絡をください』……だってさ!」
「もう、泰夢くんってば……
 あんまりふざけてると、怒られるんだからね!」
 きっとオバジイがやってくれたんだ! と、手に持ったタブレットをヒラヒラふって、おどけておどり出す泰夢に、華恋が小言をいう。
(ミハシロさんは親切で優しい……
 泰夢くんも変わらない……
 だから、これはきっとわたしの問題なんだ)
 ふさいでしまう気持ちの正体はまだ分からない━━けれども、そうなってしまう原因はきっと自分の中にあるのだろう。
(…………)
 クシュっとなっていた華恋のむねのおくに、グッと力が入った。
 正体と原因……それが何なのかは、いつか必ずハッキリと分かる時が来るはずだ。
 だったらその時は、全てをしっかりと受け止めよう━━と、泰夢のヘンテコリンなダンスを見ながら、華恋は思ったのだった。
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はたして、オバジイ先生は一体なにをやってくれたのでしょうか!
では、次回もお楽しみに!

小林るい


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