見出し画像

泰夢(たいむ)のお話 その二:17

← ◆前のお話へ


共同研究で夏休みの課題をすることになった泰夢と華恋ですが……
それでは、どうぞ!!

===============
 今度は泰夢(たいむ)に代わって、華恋(かれん)がタブレットをのぞきこんだ。
 もちろん、泰夢とちがってオシリをうしろにつき出すような失礼なことはしない。
 談話室のソファにこしを下ろしたまま少し浅くすわると、スッとしなやかに体を前にたおして画面に顔を近づける。
(……そっかぁ、
 あーいう風にやっとけばさ、
 オレもオケツをペチンとやられずにすんだじゃん……)
 なんだか大人がするみたいな格好いい動きに感心して、泰夢もまねをして同じように体を前にたおすけれども、華恋よりも身長が小さい分だけどうしても画面までのきょりが足りない。
「……もうっ!
 泰夢くんってば、モソモソしないで!
 わたし、オバジイ先生のお話をしっかり聞きたいんだから」
「ゴメン……」
 そのままのしせいで、オシリを左右にウネウネとふりながら足りない分だけ前に出ようとした泰夢を、華恋がジトっとにらみつける。
(ちぇーっ!
 オレだって聞きたいんだからさ、
 そんなにおこらなくたってもいいじゃんか……!)
 ふたたび前を向いた華恋にアッカンベーをしてお返しすると、ちょっとおしりを持ち上げてすわる位置をあわせた。
「……うんうん、
 二人の顔がよく見えるようになったなぁ。
 それじゃあ、手紙の事と合わせて、少し話をしようか」
 オバジイはそう言うと、華恋のたん任の先生と自分の考えを合わせて、自由研究の説明を始めた。
「まず最初にだが……
 『まとめノート』を作るか、もぞう紙に書いて提出するにしても、
 二人の名前と、それぞれ学校名を書くことが必要だなぁ」
「オレと華恋ちゃんの名前と、学校の名前?
 ……あぁ、そっか!
 そうじゃなきゃ、二人でやったって分からないからだ!」
「うんうん、そういう事だなぁ。
 せっかくの『共同研究』なんだから、
 研究した人の名前は、きちんと書いておかなくちゃな」
「そっか、名前かぁ……
 泰夢くん、だいじょうぶ?
 わたしの名前といっしょに書いて……その、イヤじゃない?」
 少しだけ泰夢の方に顔を向けて華恋が言う。
「ほら……さ、よくあるでしょ?
 女子といっしょだと、いろいろと言われちゃうのかなぁ……って。
 泰夢くんがイヤじゃないなら、わたしはいいんだけど━━」
「えーっ、なんで?
 オレ、華恋ちゃんと名前いっしょに書くの、
 ちょっとカッコいいなぁ、って思ってたんだけど?」
「えっ、そうなの?
 なんで、どうして……?」
 まるで夕ご飯のおかずが山もりのアツアツのコロッケだった時みたいなニコニコ顔の泰夢に、華恋が目を白黒させる。
 華恋の学校のクラスでも、男子と女子はちょっと張り合っている感じがあるし、学習スクールの友だちから聞いた話によると、他の学校でもどうやら同じ様子だった。
 だから、女子の……しかも、ただの女子ではなくて他の学校の女子といっしょに自由研究をして、それを発表したら、いろいろと言われるのではないかと、華恋は思ったのだ。
 自分も、きっと何か言われるだろうと思う。
 それでも、華恋と同じ学校やクラスから学習スクールに通っている生徒がいるし、その生徒たちは泰夢のことを知っているから、いっしょに自由研究をしたとしても、それほど大きなさわぎにはならないだろう。
 けれども、泰夢はちがう。
 夏休みが明けたら、みんなの知らない学校の、知らない女子といっしょにやった自由研究を、クラス全員の前で発表することになるのだ。
 きっといろいろと聞かれるだろうし、その事を面白おかしくはやしたてる生徒だって出てくるだろう。
 ひょっとしたらクラスの中には泰夢の事が好きな生徒もいて、その名前がいっしょになっているのを見て心をいためる━━その事を考えると、なぜか華恋のむねのおくの方もクシュっとするような気がして、それ以上はあまり想像しないようにした━━かもしれないのだ。
 そんな華恋の心の中を知ってか知らずか、当の泰夢はカラカラと明るく笑っている。
「どうしてって……そんなの当たり前じゃん!
 だってさ、華恋ちゃんってマジでスゴいじゃんか!
 頭良くて勉強もできるし、空手だって最高にカッコいいし……」
「…………」
「あとさ、せだって高くて、足もビューンって速くってさ、
 華恋ちゃんのお母さんに似てて、キレーだし……
 何かあるとすぐにギャーっておこるけど、ホントは……親切だしね!」
「あ、ありがとう……」
「えーっ、それってオレの方だって!
 だって華恋ちゃんはさ、
 オレの最高よりもっと上の、めっちゃ最高の友だちじゃんか!」
「…………」
「だからさ、オレ……
 自由研究に、華恋ちゃんといっしょに名前を書けるのってさ、
 マジで『カッコいい』って思ってるんだよね!」
 と、いつもの様に親指をグイッっと上にしてニッコリと笑う泰夢に、耳の先まで真っ赤になった華恋が小さくうなずく。
(泰夢くんって……
 わたしのことを、そんな風に見てくれてるんだ……)
 泰夢が自分をどう見ているのか……気にならないわけではない。
 しかし、いつも『ヘン』な泰夢くんだから何も考えてないんだろうなぁ、とぐらいにしか思っていなかった。
 スゲー、スゲー! とはよく言ってくれるけれども、あらためて考えてみると「泰夢が自分のことをどう思っているのか」をしっかりと、ハッキリと聞いたのは、今が初めてのような気がする。
(…………)
 談話室の空調はとてもよく効いているはずなのに、全身がカァーっとしてとても熱くて、まっすぐにタブレットを見ているのに、なぜかクラクラと目が回っているみたいで、ソファにこしを下ろしているのに、むねの真ん中からフワフワ、ドキドキとする感じが広がっておさまらなくて、この場所にいるのも全部、まるで夢の中の出来事みたいな気分だった。
 ━━だから、オバジイと泰夢がなにか熱心に話をしていたのだけれども、それはもう、華恋の耳にはほとんど入ってこなかったのだ。
===============

泰夢とオバジイは、いったい何を話しているんでしょうか……?
では、次回もお楽しみに!

小林るい


◆次のお話へ →