泰夢(たいむ)のお話 その二:16
夏休みの宿題、早く終わらせてしまえば良いのですがこれがなかなか……
それでは、どうぞ!!
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夏休みの宿題には国語や算数のドリル帳やワークブックなどいろいろあるけれども、それ以外に大物の課題がある。
先のドリル帳なんかは、少しは考えたりするけれども、それでも学校で習ったことをくり返せばよい、いわば『いつもの宿題』の量が多いやつで、内容はそれほどむずかしい事もなく━━こうした宿題の一番のむずかしいところは、夏休みの終わりまでにやればいいや、とついつい考えてしまう部分で、毎日少しずつやっていけば良いのだけれども、まだ日にちがあるから明日にやろう! と、なまけている間にどんどんと夏休みが少なくなっていき、しまいにはとんでもない量の宿題を、残り少なくなった夏休み中になんとかしなくてはならなくなって、「毎日少しずつやっていけばよかった!」と、その時になって泣きながら後かいするところなのだ━━ただ、決められた分の宿題をやるだけの話だ。
それに比べて、大物の課題はこうした『いつもの宿題』のようなやつとはちがって、問題を解いたり書き取りをしたりしていればそのうちに終わる……というものではなくて、自分で考えて取り組んで、最後までやり終えなくてはならないから、とても大変なのだ。
自由研究、読書感想文、図画図工……こうしたものは探究学習(たんきゅうがくしゅう)などともよばれていて、長い夏休みの間を使って自分の考えや調べたものをしっかり表現することを学ぶために先生たちが用意する、そして、生徒たちにとっては、学校に行かずに自由に遊ぶ事ができる夏休みというとっておきの時間に、まるで冷水をあびせるような、まことにめんどうくさくて、やっかいなしろものなのだ。
泰夢(たいむ)と華恋(かれん)の学校でも、自由研究か読書感想文のどちらかを選んで、好きな方を一つ出すことが課題になっていた。
他の宿題は大変ではないけれども、実は華恋は、この自由研究や感想文というものがどうにも苦手だった。
もちろん、夏休みの宿題だから始業式のある日までには、きちんと終わらせるけれども、その他の課題は休みに入ってすぐに全部終わらせてしまうのに対して、この大物の課題にはなかなか手がつけることができず、夏休みの終わりごろまでずっとつまずいてしまい、「もう、なんでこんな事しなくちゃダメなの!」と、最後には泣きたい気持ちで、真っ白な原こう用紙やノートに文句を言うのがいつもだった。
一方の泰夢は、夏休みの間のいつかにやればいいじゃん、と毎日遊んでいるうちに終わりが来てしまい、あわててドリル帳なんかをやっつけて━━たくさんの宿題をまとめて一気にやっつけるので、すっかりとつかれてあきてしまい、最後の方は問題の答えを当てずっぽうで書いて終わらせる、というとんでもないやっつけ方をする始末だった━━なんとか終わらせたものの、かんじんの大物の課題の事はすっかりとわすれていて、始業式の日に先生から宿題を出すように言われてからようやくそのことを思い出し、真っ青になった事があった。
それからというもの、泰夢は夏休みの宿題や大きな課題は、友だちと協力して━━といっても、先にやった友だちのやつを、学習スクールの自習時間にみんなで写して回す、という少しも自分の勉強にならない方法だった━━終わらせる方法で、夏休みの宿題を乗り切るようにしていた。
そんな二人が、今年の夏休みは自分たちで力を合わせて自由研究をやろうとしているのだ。
最初にいっしょにやろうと言ったのは大きな課題が苦手な華恋だったけれども、今では泰夢もすっかりと乗り気だった。
実を言うと泰夢の夏休みの宿題は、あとはこの自由研究が終われば、それでおしまいだった。
華恋と二人で学習スクールに行って、帰ってきてからは祖母の家の二階でいっしょに宿題をやって……そんな毎日を過ごしているうちに『いつもの宿題』はすっかりかたづいてしまった。
泰夢にとってこれは信じられないことで、もちろん華恋に教えてもらったり、手伝ってもらったりもしたけれども、これまで夏休みの宿題に持っていた「苦手な気持ち」がすっかりと無くなって、「オレだって、やればマジで出来るんじゃん!」と、大きな自信になったのだった。
そして、それができたのは華恋がいつもそばにいて、自分のことを助けて━━もちろん、たくさんおこられたり注文をつけられたりもしたけれども、それも自分にとっては、とても大切な、たからもののようなことなのだと、言葉にするにはまだむずかしかったけれども、そう泰夢は感じていた━━くれたからだ。
(…………)
パチン、と重なった手はほんの少しの間だったけれども、体全体に大きく広がってひびいていくような、そんな感じがした。
華恋の笑っている顔が、パァッと明るく光ったように見えた。
もしかしたら、自分の顔も華恋ちゃんのようになってるのかな? と、思って、そしてもしそうだったらとてもうれしいなと、手のひらからひろがっていくその『ひびいていく感じ』が、自分だけじゃなくて華恋もそうだったら、本当にすてきなことだろうなと、そんな考えが泰夢の頭の中を、あのつり橋の川の上をふいてぬける風のように、心地よく走っていく。
「━━よかったね、泰夢くん!
うちの学校の先生も『いい』って言ってくれたから、
これで、自由研究をちゃんと進められるね!」
「うん……そうだね」
華恋の声に、ちょっとだけ言葉が出てこなかった。
(━━華恋ちゃんは、オレの勉強を見てくれて、
それで、やれば出来るってわかった……
もし、二人で自由研究やったら、オレ……もっとスゴくなる?)
合わせた手の向こうで、華恋が笑っている。
(…………)
なんだか心ぞうのあたりが急にドクドクとして、その場で飛んで回って大声でさけびたいような気持ちになった。
自分の中にある『何かスゴいもの』がバーンとばくはつして、体中に不思議な力がわいてくるような気がした。
けれども、飛び回りたいのをグッとがまんして、泰夢はその『不思議な力』のようなものをしっかりとつかまえて、ためておく。
「━━オバジイ先生!
うちの先生は他になにか言ってましたか?」
(…………)
質問する華恋の声が聞こえ、泰夢はかかえていた学習用タブレットを再びテーブルの上にもどす。
何となく……その『不思議な力』のようなものは、あまり他の人に見せてはいけないもののような気がして、その代わりに、自分の中にしっかりと大事にしまっておいて、これからもずっと、ずーっと大切にしておこうと泰夢は決めた。
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『不思議な力』という、自分でもよく分からない気持ちを得たようです!
では、次回もお楽しみに!
小林るい
