見出し画像

泰夢(たいむ)のお話:8

← ◆前のお話へ


興に乗って局地的大雨のお話も……
それでは、どうぞ!!

===============
 自分が黒板に書いた「局地的大雨」という字を見て、オバジイこと小畑(おばた)先生はその出来栄えに大きくひとつうなずくと、手に持ったチョークを置いて生徒たちの方にふり返った。
「みんなも『ゲリラ豪雨(ごうう)』というのを聞いたことがあるだろう。
 あれは新聞やテレビがつけたあだ名みたいなもんでな、本当は『きょくちてきおおあめ』と言うんだ」
 そのあだ名のほうは泰夢(たいむ)も聞いたことがあった。
 最近ニュースなどで急な大雨により道路が河のようになってしまい、車が水につかったり、流されてしまったりしているのをよく見かける。
 泰夢の近所でも、道路が電車の線路の下を通っているところがあるのだが、そこが雨ですっかり池のようになったので母といっしょに見に行ったことがあった。
 それらを引き起こしている局地的大雨というものも、このヒートアイランド現象が原因のひとつだと言われているんだぞと、オバジイは話を続けた。
 例のアスファルトやコンクリートで温められて上に行きたい空気と、空の上の方にあって下にさがりたい冷たい空気がおたがいにぶつかりあって、大気の状態が不安定になり、積乱雲(せきらんうん)という大きな雲を生み出すらしい。
 これは入道雲などともよばれていて雲の高さは一万メートルをこえるそうで━━日本で一番に高い富士山が三千三百メートルぐらいで、その富士山を三っつたてに重ねたよりも高いのだからおどろきだ━━大雨やカミナリ、ときには竜巻(たつまき)などをもたらすのだ。
(ホントにちがうんだな……)
 朝の空気の冷たさをはだで感じて、まわりの景色を目で見て、泰夢はそう思った。
 もしあの暑さが局地的大雨の原因のひとつだとしたら、祖母の家のあるここではたぶんそんな事は起こらない気がする。
 青々とした畑が少しずつ下がっていきながら、目の前に広がっている。
 そこにはもちろんコンクリートのビルの山もないし、地面をうめつくすアスファルトもない。
 泰夢の目線の先の先もずっとゆるやかにしゃめんが果てしなく続き、いろいろな家や建物、小山や森などをしたがえながら広くくぼんだ景色になり、その一番低いところに長くすじに見えるのは、たぶん広い河だろう。
 そのさらにずっと先の地面はかすんでいてよく見えず、その上の青い空との境目はあいまいで、そのずっと先のおくの方には黒々とした高い山のいただきが連なって見える。
 低いところのすじ━━つまり河をたどって目線をこっちにもどしてくると、泰夢の前の道路の向こう側に流れているがけの下の川につながっているので、高台のこっちが川上で、低くなっているあっちが川下ということになる。
 川をはさんで向こう側は、同じ様なしゃめんと畑と森になっていて、バス停がある道路のはしに立つ泰夢のせなか側、つまり祖母の家のすぐ後ろにも、川むこうにあるのと同じような畑と森がある。
 つまりここは、山の中にある川が作った谷なのだ。
 泰夢は、かなり年季の入ったバス停の古びた木材とさびて変色したトタン板でできた雨よけの下から出て、朝の太陽を体中に浴びながらせなかのデイパックからゲーム機を取り出してイヤホンをつけた。
 開いた画面をそうさしてお気に入りのアニメのオープニング曲をかけてデイパックにしまうと、今度はくしゃくしゃに小さく折りたたまれた紙をひっぱり出して目の前に広げる。
 そこには学習スクールの授業わりと、授業が行われる教室までの地図がプリントされていた。
===============

プリントの地図を見て、思いを馳せる泰夢なのです。
では、次回もお楽しみに!

小林るい


◆次のお話へ →