泰夢(たいむ)のお話:42
いよいよ新しいパートに突入! いったい泰夢はどうなるのでしょう……?
それでは、どうぞ!!
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シーン3-1:どうしても起きたくないベッドの上で
もう起きなくてはならない時間はとっくの前にすぎていて、そればかりか家を出なくてはいけない時間もこえてしまっている。
ずいぶん前に祖母から、朝ご飯ができたよぉと声をかけられたけれども、今日は食べたくないと返事をして、それきりだった。
もちろんおなかは空いているし、少しのどもかわいていて水かなにかを飲みたい気もする。
あみ戸になっているまどからは外の風が入ってきて、そいつをせん風機が部屋の中に広げているけれども、太陽が高くなるにつれて少しずつ暑さを感じるようになってきている。
それでも泰夢(たいむ)は、ベッドの上で横になったままじっと部屋の学習づくえを見ていた。
正確に言えばつくえではなく、つくえの上に置きっぱなしにしてあるデイパックの横にあるゲーム機を見ていて、電げんの入っていないまっ黒なゲーム機の画面には、上から下へとまるでかみなりが落ちたみたいなジグザグのヒビが入っていた。
「…………」
おなかの辺りでくしゃくしゃになっているタオルケットを、手と足で広げると、それを頭まですっぽりとかぶる。
ベッドのシーツの上にしいている緑色のゴザのにおいが鼻のおくまでして、さわやかな感じのするそのにおいがザワザワとする泰夢の気持ちを少し落ち着けてくれる。
泰夢が一人で祖母の家に来てからしばらくの日が過ぎた。
父からは毎日のように電話とスマホのSNSからメッセージがあり、それは泰夢が元気でやっているかの心配と、生まれてくる赤ちゃんのために入院している母の様子の報告がほとんどだった。
こっちに来て最初のうちは、その生まれてくる弟━━か、妹なのかもしれないが━━のせいで、自分は友だちやクラスの知り合いもいない場所で、一人ぼっちで夏休みを過ごさなくちゃならなくなった、と悲しい気持ちになったり、はらがたったりもしたけれども、いまではそういう感じになることもほとんどなかった。
祖母の家の近所━━と、言ってもそれは深い谷になっている川の向こう側の話で、泰夢の部屋のベランダから家そのものは見えるけれども、実際に行くには人ひとり通るのがやっとという橋をわたらなくてはならないらしいが、泰夢はまだこれをわたったことはない━━に住んでいる華恋(かれん)と友だちになり、ここから山を下った街にある学習スクールに通い、そうして夜は仕事の都合でおそくなる華恋の母の帰りを待ちながら、いっしょに祖母の家で勉強をしたり遊んだりする毎日を過ごす中で、そうした家のことなんかは泰夢の中ではだいぶ小さくなっていたのだった。
そうして昨日も、いつものように華恋とバスで待ち合わせをして学習スクールに行き、なぜせっかくの休みなのに『夏休み特別コース』なんてメンドウなもんを受けちゃったんだろう、これさえなければ毎日遊び放題なのになぁ……などと思いつつ、いつも大声ではりきり過ぎていて、スクールの生徒たちから『ハリキリー』とあだ名を付けられている室長や他の講師の長い授業を受けていたのだった。
(━━なんだ、アイツら。
こっち、チラチラみてくんなぁ……)
アイツら、とはこの学習スクールに通い始めた初日に顔を合わせた男子三人組のことだ。
一番に目立つのがカズくんとよばれている男子で、どうやらソイツがリーダー格だという事は、ここに来ているうちになんとなく分かった。
体が大きく、声も大きく、態度も大きい。
なにかあるとすぐに調子に乗っておちゃらけて、周りの笑いをさそったり冷ややかな目で見られたりしている。
自分が興味を持てば他人の都合なんかお構いなしにちょっかいを出してくるタイプで、なるべく一人で行動をしたいと思う泰夢とはとても相性が悪く、泰夢の中では『少し苦手の箱』を完全に通りこして、『苦手の箱』に分類されているヤツだった。
華恋が間に入っていろいろしてくれた事もあり、今の泰夢は、慣れない場所の慣れない学習スクールでも、軽いあいさつと勉強のことで言葉を交わす生徒たちがちらほらといる。
だが、『苦手の箱』に━━カズくんとやらはその箱だが、あとの二人についてはよく知らないので『少し苦手の箱』に分けられている━━入っている人間はなるべく関わり合いにならないと決めている泰夢なので、例えば他の生徒と話している最中に三人組が入ってきても一切しゃべらず、そのままスキをねらってその場所からはなれていった。
当然、泰夢のそうした態度をカズくん率いる三人組も感じ取っているようで、そのせいもあってか、なにかある度にニラんできたり、頭をつき合わせてはヒソヒソ話をしたりしていた。
(あー、めんどうくさい……)
授業中、ちょこちょこと後ろをふり返って見てくる三人組を気にしながら、なるべくそれを知られることがないように、ふつうの顔をしてノートを取ったり、教科書とにらめっこしたりする。
それもいつものことだったが、今日はいやに回数が多いような気がして、泰夢も三人組を注意して見ていたのだ。
通い慣れた自分の小学校のクラスなら、こうした事があっても周りに友だちがいるのでだいじょうぶだけれども、いまの泰夢は三人組から見ればよそ者であり、こっちは一人だった。
もちろんさっきの通り、少し話すぐらいの生徒はいるけれど、その程度では泰夢を助けてくれたりはしないだろうと思う。
「泰夢くん、だいじょうぶ?
もしかして、なにかあった……?」
「ううん、別に……
華恋ちゃんが気にするようなことって、なんにもないからさ」
そんな泰夢の様子をするどく感じたのか、授業の合間の休み時間に華恋が話しかけてきたが、泰夢はそう返事をした。
華恋だったら自分のことを助けてくれるだろうと思う。
でも、アイツらは男子で、自分も男で、華恋は女の子なのだから、こういうことにまきこんじゃダメなんだ、と泰夢は思っていた。
(━━やっぱ、華恋ちゃんにはさ、めいわくかけられないじゃん。
たぶんだけど、アイツらきっと『来る』と思うし……)
泰夢の予想は当たった。
午前中の最後の授業が終わって昼休みに入ったとき、
「ちょっと、話があんだけどよ━━」
と、三人組が取り囲むようにして泰夢の席にやって来たのだった。
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なんだか不穏な空気……泰夢と三人組はどうなるのでしょう?
では、次回もお楽しみに!
小林るい
