泰夢(たいむ)のお話 その二:3
お母さんの用事を終えた華恋、泰夢の待つ図書館へ急ぎます!
それでは、どうぞ!!
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線路をまたぐ陸橋を、華恋(かれん)が大またでわたっていく。
陸橋の上は周りに高い建物がないから見晴らしもよく、風が通りぬけて気持ちいいのだけれども、いまはそれを楽しんでいる時間はない。
「もうっ!
お母さんってば……こんな時に用事なんて、
ホっントにありえないから!」
ついつい口から文句がこぼれ出てしまう。
母親のつとめ先がある商業地区から、図書館がある行政地区へ行くには、大きく三つの方法がある。
一つは駅の中の連らく通路を通っていく方法。もう一つは線路の下をぬけている自動車が通る地下道の、そのわきにある歩道を使う方法。
最後の一つは、何回も折り返して続く長い階だんを上って、広い線路や電気を送る電線の柱をまたぐ、せの高い陸橋をわたる方法だった。
駅の連らく通路を通るとすぐに行政地区のある側に行けるのだが、そこから出て一番に近い建物は市役所で、華恋の行き先である図書館にはちょっときょりがある。
車の地下道はスロープになっているので、階だんを上ったり下りたりしなくてすむのだけれども、こちらも図書館からは少しはなれている。
となれば、なるべく早く着くことも考えると、この陸橋をわたるしか方法はないのだ。
(━━華恋ちゃんさ、一人でだいじょうぶ?
オレ、道とかわかんないけどさ、
何かの用事だったらさ、ぜんぜんついて行くじゃん!)
(うん、ありがとう!
でもね、道も知らない人が迷子になったらホントに大変だから、
わたし一人でいってくるね!)
朝に家を出て、泰夢(たいむ)といっしょに学習スクールに行き、午後からは図書館で自由研究の続きをやる予定になっていた。
学習スクールの授業を終えて、さあ電車に乗って移動をしようと言う時に、母親から華恋へスマートフォンに連らくが入った。
どうやらつとめ先でおすそ分けがあったらしく、たくさんのおつけものを持って帰ってほしいという事だった。
これを聞いた華恋は、それなら自分が家に帰る時でいいじゃないか、と言い返したのだが、それが泰夢の祖母が好きなおつけもので、今日の夜ごはんに間に合うように持って行ってあげたいと言うのだ。
泰夢のおばあちゃんを華恋は大好きだったし、いつもお世話になっている。だから、それを出されたらもう断ることはできなかった。
こうしてしぶしぶ母親の用事にかり出されることになった華恋だったけれども、そのおつけものは実は華恋も大好物で、そして泰夢はきっと食べたことがないだろうと思い、いまはかたにズッシリとくるおつけものが入った容器も、ちょっとうれしい重さだった。
(泰夢くん、ちゃんとやってるかな。
少しでも自由研究をすすめててくれると、うれしいんだけど……)
陸橋をわたり終えて、せの高い階だんを今度は下っていく。
右に左にと折り返す景色の向こうに、大きな図書館の建物が見える。
この陸橋は市役所や公園などがある場所にそのままつながっているので、階だんを下りれば、もう図書館は目と鼻の先だった。
あの建物の二階での自習室で、いまごろ泰夢はノートと図書館の本を前に、あくせんくとうしているにちがいない。
頭にうかんだ泰夢のそのすがたに、長いかみの毛をひっつめにして後ろに束ねた、メガネをかけた女性の顔が重なった。
「…………っ!」
足の回転のリズムがくるってちょっと足をふみはずした。
なんとか転ばずに立て直して、おどり場の手すりに手をおき、トートバッグから水とうを出して飲んで、息と気持ちを落ち着かせる。
(ミハシロさん……)
泰夢と図書館に来た初めての日に、声をかけてくれた図書館のスタッフの人だった。
図書館の使い方を教えてくれ、自由研究を二人でするのだと話をすると、ニッコリと笑いながら、いろいろなアドバイスをしてくれた。
過去の小学生の自由研究をまとめた本や資料も見せてもらい、自分の仕事もきっといそがしいのだろうけれども、いろいろとなやむ泰夢と華恋の相談にも、いやな顔ひとつせずに乗ってくれる大人の人だった。
(…………)
水とうのふたをしめトートバッグにボン、とらんぼうにつっこむと再び階だんを下りる。
ミハシロさんは、とても良い人だと華恋は思う。
自分たちの言葉もしっかりと聞いてくれるし、どうしたらいいかこまっている時は、こんなやり方もあるよ、といろんな方法を話してくれる。
泰夢と二人で自由研究をするのには一つ大きな問題があって、それは、ちがう学校の生徒同士で研究をして、それを自分の宿題として出してもいいのかどうか、ということだった。
この時もミハシロさんが、先生に聞いてみたら良いと思うよ、と泰夢の持ってきていた学校用のタブレットを図書館のワイファイにつないでくれて、そうして泰夢のクラスたん任であるオバタ先生とビデオ通話で話す━━もちろん泰夢はオバタ先生をあだ名の『オバジイ』とよび、そのうち華恋も親しみをこめて『オバジイ先生』とよぶようになっていた━━ことができたので、万事解決できたのだ。
だから……だから、ミハシロさんには好意をもっている、のだけれども、どうも華恋はミハシロさんが苦手だった。
どうして苦手と思うのか、自分でもよく分からない。
ただ、ミハシロさんがいっしょにいる時は、泰夢の態度がいつもと変わり、それは相手が大人だからそうしているのだろうと思うけれども、その自分といる時とはちがう感じにちょっとイライラする。
特に、泰夢とミハシロさんが二人で話をしている所にいると、自分だけが仲間外れになったような気持ちになる。
もちろん泰夢に悪気はないのだろうし、ミハシロさんだって自分たちに親切にしてくれているのもわかる。ただ……
(そっかぁー、教えてもらってよかった!
━━ねぇ、寺田さん!)
(うん……そうだね)
寺田さん、と泰夢によばれるたびに、むねのおくの深い所がクシュっとなるような気がしてしまう。
建物の自動ドアをくぐり中へ入るとすずしくてかわいた空気が、大急ぎで歩いて熱くなった華恋の体をヒンヤリと心地よくつつむ。
二階へ続く大きな階だんを上がって自習室の方へ向かうと、その先にカートをおしているミハシロさんと、その横にならんで歩きながら、楽しそうに話をしている泰夢が見えた。
(━━━━!)
とっさに、近くにあった観葉植物のうしろにかくれる。
かくれてから、なぜ自分はこんなことをしてるんだろうと思い、それがどうにもはずかしくなる。
(━━泰夢くん、
ミハシロさんとおしゃべりばっかりして、
自由研究やってないじゃない!)
空調はすずしいけれども、耳やほっぺたがカァッと一気に熱くなる。
自分の中に生まれたはずかしさを泰夢にぶつけるように、おつけものの入った重たいトートバッグの持ち手をかたに食いこませると、華恋は二人の前に飛び出したのだった。
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華恋ちゃんもいろいろな思いを抱えているようですね……
では、次回もお楽しみに!
小林るい
