泰夢(たいむ)のお話:13
泰夢とお父さんの思い出のお話。
それでは、どうぞ!!
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バスの先頭のシートにゆられ、大きなまどガラスの向こうにある広い景色を見ながら、泰夢(たいむ)は父親のことを考える。
ここは、父の生まれ育った場所だ。
いま来ているのは父の母親、つまり父方の祖母の家で、父にとっては自分が子どもだったころに住んでいた家であり、泰夢は夏休みの間ずっと━━母の話では、赤ちゃんはもうすぐ生まれるらしいので、おそらく半月ぐらいの間なのだろうけれども、泰夢にとっては夏休み中に感じられた━━そこで過ごす事になっていた。
(父さん、いっつもいそがしそうだもんな…)
泰夢がそう思う通り、父はいつもいそがしかった。
平日はもちろんだけれども、休みのときにも自分の部屋で本を読んだり何か書き物をしていたり、たまにゆっくりしているかと思えば、リビングのソファの中で大きなイビキをかいている父しか、最近は見ていない。
家に帰ってくるのは毎日夜おそくで、たぶん泰夢がねている間に帰ってきているのだと思う。
だから、顔を合わせるのはいつも朝だった。
ねむたそうな目をこすって、ボサボサのかみの毛でせん面所の鏡の前で歯ブラシをモゴモゴさせる父の横で、いっしょに歯をみがくのが毎朝の泰夢の日課だった。
起きたてはそんな感じではあるけれど、家を出る時までにはあのボサボサだったかみの毛をしっかりとなでつけ、シャツとスーツをシャキっと着こなす父になり、そうして先に家を出る泰夢を見送ってくれる。
「お父さんはね、人を助けるお仕事をしているから、どうしてもいそがしくなっちゃうのよ」
日曜日にずっとねている父を見て、泰夢は母に文句を言ったことがあり、その時の答えがこれだった。
他の人を助けるんだったら、いっしょに遊びたいと思ってるこっちの気持ちも助けてほしいもんだと、いつも泰夢は思っていた。
(前に思いっきり遊んだのって、いつだったっけ……)
毎日がいつもそんな様子なので、泰夢には父と二人で遊んだ記おくがあまりない。
もちろん、父のことは大好きだし、特に朝のカッコいい父のすがたは泰夢にとっては自まんではある。
もうずっと前、泰夢が低学年だったころに、近所にある河原の公園にいっしょに行った事があった。
父はずっとニコニコとしていて目がキラキラしていたなと、泰夢は目の前に広がる河原の様子を見ながら、ふと思い出す。
その時は父親というよりは、大きなお兄さんに相手をしてもらっているような感じで、何をするにもおおさわぎをして、キャッチボールや泰夢の知らない遊びをたくさん教えてくれた。
そうして、あたりがいつの間にか暗くなるまで二人で遊んで、心配になってさがしに来た母に、ドロだらけになっているのをおこられた。
しかし、二人そろって鼻の先までまっ黒になっているそのすがたよほどおかしかったのか、母はおこっている最中にぷっとふき出してしまい、そしてそのままおなかに手を当てて笑い転げはじめた。
それを見た父と泰夢も、てっきりもっときびしくおこられるのものだと思っていたので、声を上げてわらい続ける母を前にどうしていいのか分からくなって顔を見合わせ━━そうして最後は家族みんなで、夜が始まりはじめた空の下、ずっと笑っていた事があったのだ。
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ふとした時によみがえる在りし日の光景…
では、次回もお楽しみに!
小林るい
