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泰夢(たいむ)のお話:109

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怒りをあらわにするアロハシャツに、泰夢と華恋はどうするのでしょうか?
それでは、どうぞ!!

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 アロハシャツの手にぶつかったうでがジンジンとする。
 さっき消毒液をやった所じゃなくて良かったな、となぜだかいま起きていることとは全然ちがうことに頭が回る。
 と、あたりが急に明るくなった。
 泰夢(たいむ)とぶつかった手をさすりながら、アロハシャツが後ずさりをしたので、ふさがれていたげんかんに外の光が入ってきたのだ。
 スーッと風が抜けて泰夢のほっぺたをなでていく。
 まわりが明るくなったので、アロハシャツが今度はかげになった。
 きっとものすごくこわい顔をしているのだろうけれども、泰夢はそれを見ずにすんだ。
「━━ご、ごめんなさいっ!」
 かわいてパサパサになっている口をなんとか動かして、声を出す。
 出した声は自分のものじゃないみたいに上ずっていて、どうにものどのおくで引っかかるような気がして、それでもがんばって出そうとしたために、ビックリするぐらい大きくてかすれた声になってしまった。
 こんな風に、知らない大人の人をたたいたことは、今までない。
 家族でふざけっこをしている時に、父親にむかってパンチやキックをくり出すことはあるけれども、それは相手もわかっていることだから、わざとひっくり返ってくれたり、逆につかまえられてふりまわされたりするような、あくまでもお遊びだ。
 だから、あんな風に自分で思っていたよりも大きな、体にズンと来るようなしょうげきがあったり、それで相手がいかりをあらわにしたりするようなことは━━ただし、ふざけっこをしている最中に、横のおなかに泰夢のパンチがめりこんだり、足と足のあいだにけり上げたつま先が入ったりして、父親が見たことのないような顔をして体を丸めて動かなくなることは時々あったが、そのたびに泰夢は、どんな事があっても『たたいてはダメな場所』というのはあるんだなと、父親にごめんなさいと言いながら思うのだ━━泰夢にとって初めてのことだった。
 自分たちが出ていくのをじゃまするいやな大人だけれども、とても申しわけないことをしてしまったような気がして、そして、そのことをなんとか取りつくろわなくてはならないような気がして、カスカスになった大きな声で、自分の気持ちをアロハシャツに伝えようとする。
「あの…たたくつもりじゃなかったんです!
 でも、急だったからボクびっくりしちゃって、それに、
 頭とか手とか、体とかはさわらせちゃダメって……」
 そこまで言って息を少しすって、なんとかアロハシャツにわかってほしいと泰夢は言葉を続ける。
「水着や肌着でかくれるとことか、かたとかうでとか、
 そういう所はプライベートゾーンだから、
 他の人はさわっちゃダメだから、学校でもそう教わってて……」
 学校でもたん任の先生のオバジイが、帰りの会のたびによく言っている。
 プライベートゾーンは自分だけの場所なので、他の人がさわろうとしたらはっきりといやだと言っていいし、自分も他の人のプライベートゾーンはさわってはいけないのだ。
 だから、自分はとてもびっくりしたし、だからついたたいてしまったのだと、なんとかしてアロハシャツに伝えようとした。
 ちゃんと言えば、きっとアロハシャツだってわかってくれるだろう、もしかしたら、コッチが悪かったよ、と言ってくれるかもしれない。
 けれども、外の光の中で黒く見えるアロハシャツは、いままでいちばん大きなしたうちをならすと、
「ったく、ゴチャゴチャギャーギャと、
 うるっせぇクソガキだな━━いっそやっちまうか……」
 と、言った。
 よく通る声だった。でも小さな声だったので、泰夢は自分が聞きまちがえたのだと思った。
 けれどもそれは聞きまちがいではなかった。
「…………」
 デイパックのせなかごしに、華恋(かれん)が強くしがみついてきたのがわかった。
 さっきみたいに、持ったりつかんだりではなくて、本当にぎゅうっとしがみついていて、その体がふるえているのも伝わってきた。
 だから泰夢はハッキリと理解した。
 アロハシャツは、自分たちにきがいを加えようとする悪い大人だ。
(……華恋ちゃん)
 ここにはいま自分と華恋ちゃんしかいない……だから、自分がなんとかしなくちゃならない。
 目の前に立っている大人の体は大きくて、自分と比べたら倍ぐらいはあるかもしれない。
 それに、さっきはとつぜんのことだから仕方がないと思うのだけれども、自分の方からアロハシャツの手をたたいてしまったという気持ちもある。
 いま聞いたおそろしい言葉も、それが自分たちに向かって投げつけられた言葉なんだと思うと、もうそれだけでその場所にしゃがみこんで泣きだしてしまいたくなる。だが…
(オレがやらなくちゃ━━!)
 せなかに感じる華恋が、泰夢をふるいたたせる。
 ふと、泰夢の頭の中に、教室の黒板にオバジイがチョークでデカデカと書いた『いかのおすし』の文字がパッとうかんだ。
(いいか、知らない大人に声をかけられても、ついていかないことだ。
 そんな時は、かまわずに大きな声でさけんでいい。
 よし、それじゃあ、みんなでやってみるか! せぇーの━━)
「━━やめてくださいっ!!」
 泰夢の口から出た声はさっきまでとはちがい、うわずりもかすりもせず、華恋の家のアパート全部にひびきわたった。
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華恋から勇気をもらい、ついに泰夢が立ち上がりました!
では、次回もお楽しみに!

小林るい


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