泰夢(たいむ)のお話:108
泰夢と華恋の前に立ちはだかるアロハシャツ……これはピンチです!
それでは、どうぞ!!
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パンツのポケットに両方の手をつっこんだアロハシャツが、ぐっと首をのばして泰夢(たいむ)を見下ろしている。
(ダ、ダメだった……?)
ていねいな言葉づかいでしっかりとお願いをすれば、大体の大人の人は自分たちの言うことにも耳をかたむけてくれる。
だが、どうやらアロハシャツは『大体の大人』ではない方の大人らしい。
さっきはピンチからうまくだっしゅつできたと思った。
アロハシャツとげんかんのすきまから見えるその景色が、まぶしく光って見えていたけれども、それはもう黒いパンツにふさがれてしまって見えなくなってしまった。
(どうしたらいいんだ……)
自分でもわかるぐらいに、むねの辺りと耳の後ろのところでドクンドクンと音がする。
それがどんどんと大きくなっていき、ひざやこしがガクガクしはじめて、このままでは立っていられなくなるような気がした。
(…………!)
でもそうならなかったのは、せおっているデイバッグが急に重たくなったからだった。
きっと後ろにいる華恋(かれん)が、バッグをつかんだんだと思う。
こわいからしがみついたのか、ちゃんとしなさい!と言いたくてそうしたのかは泰夢にはわからない。
でも、ここにいるのは自分ひとりだけじゃないんだということに気がついて、すこし足がしっかりとしてくる。
「━━泰夢くん。
キミ、マジでエラいわ。
華恋ちゃんにちゃんとあやまって、マジでスゲー」
アロハシャツの声がして、泰夢が頭を上げる。
下から見えるアロハシャツの顔は、さっきと変わらないニタニタとした笑顔だったけれども、こうしてしっかり見てみると目の周りにクシャクシャっとしたシワがたくさんあって、それが似合っている気がした。
それに、自分のことをちゃんとほめてくれた。
足ですきまをふさいで通れなくしたのは、こっちの思いちがいで、本当はただ足の位置を直したかっただけなのかもしれない。
泰夢もずっと真っ直ぐに立っているのが苦手だからよく分かる。
足のうらがジリジリしていたくなるような気がして、ななめにしたり前後にひらいたり、足の外側の部分だけで体を支えてみたりといろいろするので、いつも母親から「クネクネしないの!」とおこられるのだ。
(……もしかしたら、
アロハシャツってさ、そんなに悪いヤツじゃないかも?)
そんな考えがふとうかんで、あわてて頭をふって追いはらう。
デイバッグをつかんでいる華恋のことを考える。
お小言がキツいなぁと思うこともあるけれども、いつも笑っていて、元気で、こっちのことを考えていてくれて、そんな華恋ちゃんがあんな風に手をギュッとにぎりしめてがまんするぐらいだから、きっと本当にいやなヤツ、悪いヤツなのだ。
(だまされるもんか……)
そう考え直してアロハシャツを見てみると、その顔にはやっぱりニタニタ笑いがはりついていた。
しかも、いつの間にかアロハシャツは一歩前に来ていて、さっきまでげんかんの外の通路の所にいたのに、かた足の半分が土間に入ってきていた。
泰夢は少し後ずさり、後ろにいる華恋に当たってそこで止まる。
もうこれ以上は、後ろに下がることはできない。
━━急にこわくなった。
すぐ目の前に、大人の男の人がいる。
ただひとつのにげ道であるげんかんをふさいで、近づいてくる。
アロハシャツが本気になれば、泰夢と華恋をまとめてつきとばして、ドアのカギをしめることぐらいきっとかんたんにできるだろう。
(…………)
泰夢の頭の中がとつぜんグルグルと回り始める。
アロハシャツにとじこめられたら、自分たちはどうなるのか……。
こわい考えしかうかばなかった。
部屋の中に入ってしまったら、大声を出したって聞こえないだろう。
まどから外に出たとしても、二階からではにげることはできない。
ここに来て泰夢は、自分が失敗してしまったんだということを本当に思い知った。
「━━そんな風にあやまれるのって、スゲーコトなんだぜ?
ホント、わすれちゃうってコト、あるもんなぁ。
オレもついわすれちまって、それを取りに来ただけなんだよ」
ニタニタ笑いでしゃべりながら、アロハシャツがズイっと前に出る。
半分だけだった足が、完全に土間に入った。
実際はほんの少しの前に来ただけだったけれども、泰夢にはまるでアロハシャツが鼻の先までせまってきたように感じた。
勝手に体がすくんで、うつむいてしまう。
その頭の上から、アロハシャツの声がふってくるみたいに聞こえる。
「なぁ、泰夢くんさぁ……
キミからも、華恋ちゃんに言ってやってくれよぉ。
ちょっとだけ、中に入れてくれってさ━━」
その声がすぐそばで聞こえたような気がして、泰夢が顔を上げると、目の前に大きな男の人の手があった。
「━━━━っ!」
びっくりした泰夢が思わずうでをふりあげると、バチン! という大きな音がして、泰夢のうでとアロハシャツの手がぶつかった。
気が動転して、何がなんだかわからなかった。
それでも当たった所がビリビリとしていたから、かなり強くぶつかったのだと思う。
「…………」
アロハシャツが口をあんぐりとさせて、前にのばした方の手のひらを、もう一方の手でおさえている。
どうやら泰夢の頭をなでようと手をのばしたところへ、思わぬはんげきを食らったようだった。
ニタニタしていたアロハシャツの顔がみるみるうちに赤黒くなる。
さっきまであったクシャクシャっとしたシワはもうどこかへ消えてしまい、今はおそろしい目で泰夢をギロリとにらみつけていた。
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アロハシャツと泰夢と華恋、事態はますます悪い方向へ……
では、次回もお楽しみに!
小林るい
