泰夢(たいむ)のお話 その二:33
母親から呼び出された華恋。母親の話は本題にうつりますが……
それでは、どうぞ!!
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テーブルの上にあるコップに、すずしげな音といっしょになって麦茶がそそがれていく。
コップがいっぱいになるのを見計らって、華恋(かれん)が麦茶入れのフタを回してしめようとすると、横からもう一つコップが出てきた。
「えへへ……
お母さんのもお願い!」
したを小さく出して目配せをする母に、イーッとアゴをつき出してから、そのコップにも麦茶を入れる。
(話があるって言ってたんだから、
早くすればいいのに……)
入れたばかりのつめたい麦茶をおいしそうに飲む母の顔を見て、自分もコップに口をつける。
今日はもう、布団に入ってゆっくりしたかった。
お夕飯を泰夢(たいむ)の祖母の家で食べて、そのあと少しゆっくりしながら母親がむかえに来るのを待っている間に、シャワーも浴びさせてもらった。
そうしてそのまま自分の家に帰ってきたので、さっさと服をねる時のやつに着がえて、あとは布団に入るだけのつもりだったのだ。
(…………)
自分が見ているのを知っているのか知らないのか、母はだまったまま、まだ麦茶を飲んでいる。
「━━あのさ、
さっきの話があるって、なんのこと?
何もないんなら、わたし、もうねたいんだけど……」
「あ、うん……ごめんね」
華恋がそう言うと母はちょっと目をふせて、それからコップをテーブルの上に置いた。
なんとなく、いやな予感がする。
いつもとちがう感じがして、いや、もっとハッキリと言うと『いつもとちがう感じ』ではなくて、『いつもとちがう事をしようとしている母親の感じ』が、その動きや仕草、言葉、声の高さなどから伝わってくるのだ。
「━━あのね、
ほら、華恋も夏休みでしょう?
せっかくだから、どこかにお出かけしない……?」
母がこっちを向くような気がしたので、華恋はソファの中におさまった体を横にそむけて、そっちを見ないようにする。
「…………」
小さなため息のような音がした気がしたけれども、それでも華恋はふり向かない。
何を言おうとしているのかが、わかるからだ。
「お母さんも、その時はお仕事をお休みにするし、
だから、どこか遠くの海とか━━あ、温せんもいいわね!
ホテルにとまって、あの人と三人で……」
「━━行かないよ」
せなかから聞こえる母親の声に、そっぽを向いたまま答える。
「わたし、勉強あるから。
もし行くなら……
わたしぬきで行ってきたら?」
「…………」
母と二人で行くのならいい。
海は絶対に面白いし、温せんだって楽しそうだし、ホテルにとまるのだってうれしくってたまらない。
でも、いやだった。
なぜなら『三人』で行かなくてはならないからだ。
━━『あの人』と三人で。
本音を言えば、母が二人だけで行くのもいやだった。
さっき、自分ぬきで行ってきたらいい、と言ったのは、言葉の勢いから出てしまっただけだ。
自分と母、母と父、父と自分……
それが華恋の家族だ。
ずっと変わらない、絶対のことなのだ。
だから、その家族の中にちがう人間が入ってこようとするのは、華恋はたまらなくいやで、とてもたえられない。
母はまだ、だまったままだった。
きっと、なにかうまい言い方をさがしているのだろう。
どうにかして言いくるめようと、いろいろ考えているのかもしれない。
(なんで、アイツが━━)
赤いアロハシャツのニヤニヤした顔が、華恋の頭にうかんだ。
おでこのあたりが、カァっと熱くなっていく。
耳の後ろで、ゾワンゾワンと音が聞こえる気がする。
麦茶のコップをかた手で持ち、もう一方の手でクッションのソファをギューっと強くにぎる。
「わたし、本当に行かないから。
もうすぐお祭りだし、泰夢くんとそのことを自由研究にするって……
これって、前に母さんにも話したよね?」
「うん……
もちろん、知ってるわよ」
「━━だったら、そういうことだから。
話がそれだけなら、
わたし━━もうねるから」
そう言って華恋がソファから体を起こそうとした時、カタン! とすこし大きな音がした。
ふいに部屋にひびいたその音に、華恋の動きが止まる。
それは母がテーブルにコップを置いた音だった。
「……ねぇ、華恋。
お母さんの気持ち、わかってくれないかな……」
「…………」
「華恋が言いたいことは、お母さんもわかるし、
だからお母さんも、どうしたらいいかいろいろ考えて、
せいいっぱい、やっているつもりよ」
「だけど……あなたはいつもいっしょじゃない。
会わない、行かない、見たくない……
お母さんはどうしたらいいの? どうしたら、わかってくれるの?」
「━━わからないよっ!」
声が、のどのおくから飛び出す。
ソファからはね起きて立ち上がり、母をにらみつける。
転がったコップから麦茶がこぼれて、華恋の足をぬらした。
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華恋とお母さんの言い合い……刺すような緊張感があたりに漂います。
では、次回もお楽しみに!
小林るい
