Evangelineインタビュー / つながりから生まれる音楽——彼女のソングライティング、Vulfpeckコミュニティの現在地
KINZTOのDr.ファンクシッテルーだ。今回は「どこよりも詳しいVulfpeckまとめ」マガジンの、72回目の連載となる。
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LA生まれ、現在もLAで活動を続けているシンガーソングライター、Evangeline(エヴァンジェリン)。2024年からVulfpeckのライブにゲストとして頻繁に参加し、さらにバンドリーダーであるJack Strattonのプロジェクト「Vulfmon」でもコラボを重ねるなど、その存在感を急速に高めているアーティストだ。

一方でソロとしては、2022年のデビューシングル「Will」のヒットで注目を集め、2026年2月には初のデビューアルバム『Evangeline』をリリース。ソングライターとしての確かな個性と、どこかノスタルジックで親密なサウンドで、新たなリスナーを獲得し続けている。
しかし日本においては、彼女のバックグラウンドや、どのようにしてVulfpeck周辺のコミュニティと結びついていったのか、その実像はあまり知られてこなかった。
今回、日本初となるインタビューが実現。幼少期の音楽体験から、Jack Strattonとのコラボレーションの背景、そして彼を中心としたVulfpeckコミュニティの在り方まで、じっくりと語ってもらった。
また最新作『Evangeline』の制作過程や楽曲の生まれ方についても、多くのエピソードが明かされている。なお今回も通訳、また一部質問作成はヨウヘイさんにご担当いただいた。(ヨウヘイさんは日本でのVulfpeckファミリーの通訳兼マネージャー)。
彼らの音楽はどのようにして生まれ、人と人をつなげていくのか――そのヒントに満ちた貴重な証言を、ぜひ最後まで読んでいただきたい。
音楽をスタートしたきっかけ
――まず最初に、音楽を始めたきっかけを教えていただけますか?
私はLAのすごく音楽的な家庭で育って、家族みんなが楽器を弾いて、一緒に音楽を作っていたんです。私も三姉妹の一人として小さい頃からピアノを弾いていて、10歳の時にギターを始めました。家の中にはいつも楽器があったので、音楽を始めることはとても自然なことだったんです。
でも10歳くらいの時に、父が私たち姉妹に「うちの家族バンドのために曲を書いてみない?」と言ったんです。それが、私が初めて本格的に曲を書いたタイミングでした。
それ以来、ずっと作曲を続けられています。最初は父がくれた小さなお題みたいなものだったのが、そのままずっと続いていることになった――という感じなんです。
――なるほど。その時の作曲は、インストの曲だったんですか? それとも歌が入るようなものだったんでしょうか?
主に歌でした。父と私たち三姉妹、四人がみんなで歌う曲です。いつもは母も歌うんですが、なぜかその時は外されていて――どうしてだったのか分からないんですけど。
でも、みんなギターも弾いたしピアノも弾いたので、要するに家族のロック・バンドみたいな感じでした。
というのも、私はすごくフォーク・ロック寄りの家庭で育ったんです。家で聴いていた音楽は、The Beatlesとか、Paul Simonとか、Elvis Costelloとか、そういうものが多かったです。
――ずっとロックやフォーク・ロックの影響を受けてきたんですか?
はい。ずっとそれらのシンガーソングライターに影響を受けてきました。ロックそのものというより、「歌詞とメロディとハーモニーを大事にする人たち」という意味でのシンガーソングライターですね。
そこが私にとっていちばん重要な部分で、私が惹かれるのは本当に、偉大なシンガーソングライターたちなんです。
それは、Vulfmonとのコラボにも表れていると思います。私はたいてい、彼がコード進行や何かしらのメロディのヒントを持ってきて、そこに私が歌詞とメロディを書く、という形で関わることが多いんです。
――では最初に作曲した10歳の時の体験が、どうやって今のあなたにつながっていったのでしょう?
そうですね……あの時から現在まで、音楽に対する関わり方は大きく変わってはいないと思います。音楽は私にとって、人とのつながりによるもので、同時に自分自身を満たしてくれるものだから。
私が今でも音楽を作り続けているのは、それが自分や、大切な人たちとつながる手段だからだと思います。だから私がコラボするのも、友人や、一緒にいて楽しいと思える人たちだけにしているんです。
そして曲を書くときも、私は自分が向き合いたい感情、整理したいと思っている感情についてしか書きません。私の歌詞の多くは――とても個人的で、ある意味、告白のようなものなんです。
だから私にとって音楽っていうのは、ずっと人生の中で続けてきた、自分を満たしてくれるとても個人的な活動なんです。
――なるほど。ちなみに、活動の初期に「Will」の動画がヒットしたことは、どんな影響がありましたか?
あれは本当に偶然で、クールな出来事でした。あれがEvangelineとして初めてアップした動画だったんです。
動画がヒットしたおかげで、AWALというインディペンデント・アーティスト向けのディストリビューション会社と契約できて、最初の2つのEPを制作する資金も得られました。
Vulfpeckと同じで、私のプロジェクトも完全にインディペンデントなので、自分の音楽を所有したまま、信頼できる会社に流通してもらえるのはすごく嬉しいことでした。それと、あの動画がきっかけで国際的なプレイリストに入って、世界中で聴かれるようになったのも大きいですね。
ちなみに、Apple MusicやYouTube Musicの「最も再生された地域」のカテゴリーで、日本がよく上位に出てくるんですよ。だから今こうしてあなたたちと話しているのも、すごく不思議で嬉しいです。
広がるVulfコミュニティの輪
――先ほど、コラボするのは友人などに限定していると仰っていましたが、Jack Strattonとはどうやってコラボするようになったんでしょう?
実は私、もともとずっとVulfpeckのファンだったんです。大学生の時に、彼らの曲のひとつをCDのミックステープみたいな形で誰かにもらって、それ以来ずっと聴いていました。
そしてTheo Katzmanの曲も聴くようになって、彼のライブにも行っていたんです。そうやって、最初は本当に尊敬していた人たちが、そのうちLAの音楽シーンで見かける人たちになっていきました。
そこからコラボをするようになったのは、すごく自然な流れでした。私たちはみんな、価値観もユーモアもたくさん共有しているので。
実際にJackと親しくなったのは、TheoやJacob Jeffriesと友達になってからです。バンドの中でJack以外はだいたい知っていたんですけど、Jackに会ったら、そこからすごく仲良くなりました。
でも「一緒に曲を書こう」と最初から狙っていたわけでは全然なくて。ただ一緒に過ごすことが増えて、お互い音楽を作るのが好きだから、会っているうちに自然と曲が生まれ始めた、という感じです。
だから本当にすべてが自然で、偶然のように起きたことなんです。
――素晴らしいですね。Jacob Jeffriesにインタビューした時、彼も似たようなことを言っていました。NYのライブハウスでTheoを見かけて、その後LAで偶然再会して一緒に過ごすようになったって。とても面白い流れですよね。
そうですね。そして、それがLAのすごくいいところだと思うんです。
LAって、みんな競争していたり、自分を大きく見せようとしている場所だ、みたいな誤解があると思うんですけど……特にJackやTheoみたいな、本当に才能のある人たちって、すごく人として安定しているから、むしろすごくオープンなんです。何かを証明しようとしていない。
そういう、自分に自信があって、ただ人とつながろうとしているだけの人たちって、すごく付き合いやすいんです。何かを演じたりするんじゃなくて、ただ自然で、しっくりくるかどうか。それだけが大事という感じ。
だから、そういう人たちとはコラボもすごく自然に生まれるんです。お互いに「Birds of a Feather(気の合う仲間)」だと感じられるときに。彼らの言葉を借りるわけじゃないですけど、まさにそういう感じで。
本当に、素晴らしい環境だと思います。時々、自分でもそれを忘れそうになるんですけど――でも、彼らには絶対に忘れさせないようにしていて。彼らの音楽について話すときや、アドバイスを求められたときには、必ず「まずファンとして言うね」と伝えるんです。
だから私、判断役としてはすごく向いているんです(笑)。本当に心から彼らのファンだから。
――確かに外から見ると、ハリウッドやLAの音楽シーンってみんながピリピリしていて、みんなが成功のチャンスを奪い合って競争しているように見えますね。実際はどうなんでしょう?
まず私について話すと、音楽での競争心はあまりないんです。リビングルームだろうが、大きなステージだろうが、人に知られようが知られまいが、どうあっても私はずっとやり続ける……という感じで。いつかやめるかも、みたいな発想もありません。
これまでずっと普通に働いてきて、その中で音楽のキャリアも築いてこられました。それはいつもラッキーだなと思っています。
でも、もちろんいわゆるLAっぽい、競争心が強い人たちも確かにLAにはいると思います。
ただ、私がVulfpeckのことをすごく好きになって、一緒にやるのが楽しいと思うのは、彼らは私がこれまで会ってきた人の中でも、たぶん一番そういうタイプじゃないからなんです。彼らは本当に自分に自信があって、オープンで、気取ったところがまったくない。
それって、いくつか理由があると思っていて。ひとつは、みんな音楽の歴史をちゃんと理解していて、過去の先人たちに対して深い敬意を持っているから。みんなが本当の意味で、音楽そのものの生徒なんです。そういう姿勢ってすごく謙虚さにつながると思います。
それに加えて、本当に仲のいい友達同士で音楽をやっていること。そして、その友達と音楽を作ることを大事にしていること。
特にJackほど、それに徹している人は見たことがないと思います。私たちが出会って一緒にやり始めたときも、彼はコラボにおいて、ただ純粋に一緒に音楽を作ることを楽しめるかどうか、それ以外は何も重視していませんでした。
彼がコラボ相手を選ぶときのやり方もずっと見てきましたが、単純に自分が好きだったり尊敬している人たちばかりなんです。周りからどう見られるかとかはまったく気にしていなくて、すべてがすごく正直に、アーティストとしての彼自身から来ていて、自分に響くものを大切にしている。
彼が築いてきたバンドやプロジェクト全体も、まさにそういうものだと思います。バンドのメンバー(やゲスト)も昔からの知り合いだったり、大学時代に尊敬していた人たちだったりして。
それって私も同じで、私のバンドのメンバーも10年来の仲間だったり、大学時代から一緒にやってきた人たちなんです。
私たちはコミュニティを大事にする意識があって、制作のプロセスそのものが気持ちいいものであることを大切にしている。外側の何かを追いかけるような創作ではないんです。
「自分をインスパイアするものは何か」「一緒にいて一番楽しいのは誰か」っていう、その2つが基準なんです。
そうしていれば、自然と人にも伝わるものだと思います。私自身、ファンとして初めてVulfを見たとき、「ああ、この輪の中に入りたいな」と思ったんです。ただただ楽しそうに見えたから。そして実際に一緒に過ごしてみたら、本当にその通りだったんです。
――素晴らしいですね。その素敵なコミュニティはどんどん広がってきているように見えますが、それは友達がさらに友達を連れてきて……といった形で広がっているんでしょうか?
まさにそうですね。すごく自然な形で広がっていっています。そしてそれがVulfの中で起きているのを見ると、自分の人生でも同じことをやりたくなるんです。
結局、それは誰でもできることなんです。自分が尊敬している人や好きな人と音楽を作って、それを続けていく。それだけです。
Jackはいつも新しい人を見つけてきますし、私も含めてみんな、新しく出会った人やインスピレーションを受ける人と繋がっていく。それでどんどん広がっていくんです。

Tokyo Night
――「Tokyo Night」では、なぜ東京をテーマに選んだんですか? 歌詞は誰が書いたのでしょう?
あの曲は私とJacobで、彼のリビングルームで書きました。動画と同じで、ただジャムっていたら曲ができたんです。
私たちはすごく日本文化が好きなので、「どうしたら日本に行ける曲を書けるかな?」って考えたんですよ。「日本のデニムについての曲書く?」とか話していて。私は日本のデニムをたくさん持っているんです。それから「Tokyo Nightってタイトル、いいんじゃない?」みたいになりました。
ちょうどその頃「October in Osaka」っていう曲も書いていて(笑)、とにかく「日本に行ける理由になる曲」を考えていたんです。それくらい日本が好きで、憧れがあるんですよ。
――それは嬉しいですね。日本に来たことは?
まだないです。
――ぜひ近いうちに、「Tokyo Night」を日本で歌ってほしいですね。
ええ。ぜひやりたいです。
――「東京の夜」をイメージして曲を書いた時に、どんなものからインスピレーションを受けましたか?
日本に関するドキュメンタリーをたくさん見ましたし、日本のライフスタイル系の動画もたくさん見ました。
それと、ちょっと変な趣味なんですけど、Google Earthで日本の街を歩くのが好きなんです(笑)。だから実際に行ったときに、全部見覚えがあってドキドキしないかも……ってならないか心配なくらい、もう歩き回ってるんです(笑)。
あとは日本食も大好きで、ラーメンのドキュメンタリーとかも見ています。そういうイメージをもとに、「こんな夜だったらいいな」って想像して書きました。
終わらない夜みたいな感じで、カラオケにいて、時間の感覚がなくなって、「もう一軒行こうよ」って誰かを誘っているような……。そんな夜がずっと続く感じです。
Jackとの作曲について
――Jackについて……彼はファンクの人というイメージが強いですが、実際にはVulfmonでの活動のように、シンガーソングライターとしての側面もありますよね。あなたから見て、彼はどんなソングライターですか?
すごく面白いのは、私が最初に知ったVulfpeckの曲が「Wait for the Moment」だったことなんです。大学の頃に知って、本当に好きでした。
歌詞も大好きで、すごくおかしいんだけど、同時にとても誠実で正直。あの曲は表面のちょっと変わった感じに気を取られて、その奥にある、本当はすごく優しくて、どこか楽観的で、少しシャイな人物像を見落としてしまいがちなんです。
後から、あれを書いたのはJackなんだと分かって、そして彼をよく知った今となっては、「本当に彼らしい曲だ」と思います。
彼はユーモアを使って人の注意を引くけど、心の奥ではとても誠実なソングライターなんです。あと、すごく遊び心がある。
彼と一緒にやるのが楽しいのは、私自身も遊び心を持っていたいタイプでもあって、私たちは二人とも楽しい音楽を恐れないところがあるから。特にインディーミュージックでは、楽しさとか、ちょっとベタに聞こえることを避けようとする人もいると思うんですけど、私たちはどちらも、そういう楽しくて、少しおどけた感じの音楽が大好きなんです。
それと、彼はすごくリズム重視の人で、パーカッシブに考えるタイプなんです。それも私たちの相性がいい理由。私は言葉が好きで、言葉がリズムに乗るのが好きなんです。だから一緒に書いた曲はワードが多くて、言葉同士が流れ込むように重なっていくタイプが多いと思います。
――なるほど。Jacobとのインタビューでも、「How Much Do You Love Me?」の作曲について話してくれました。ジェイコブがトイレに行ったときに女性のような高い声のメロディを思いついて、ジャックが聞いて笑って、それがそのまま曲になったって。
それも面白いですね。私たちの例だと、「Got To Be Mine」という曲は、Jackが、Nate SmithとJoe Dartの演奏動画をループしたところから始まりました。
ドラムとベースの部分をループして、「ここ、すごくファンキーじゃない?」って言ってきて。私も「確かにすごくファンキーだね」って思いました。
その後ソファに座りながら、彼が曲の最初のパーカッシブなメロディのアイデアを出してきてくれたので、私はそこに乗る歌詞を考え始めました。
そうしたら家に帰って歌詞を考えているときに、前に見た夢をボイスメモに録音していたのを思い出したんです。そこでは「Seeing you, I swear there’s something so familiar」って歌っていて。
それで私がその夢のコーラスと、彼が出したパーカッシブなメロディのアイデアを組み合わせたら、とてもうまく行ったんです。
それで私たちは「これってもう曲になったね」「これは結婚式で流れる曲だよ」「まるでダンスフロアに人を連れ出すような曲だね」って話していました。
そんなふうに、すごく軽やかで、遊び心があって、リズミックに物事が進んでいくんです。
――Jackとの作曲はいつもそういう感じなんですか?「今日は曲を作ろう」みたいな事は?
「よし、曲を作ろう」と言って集まったことは一度もないと思います。いつもどちらかがちょっとしたフレーズを歌って送ったり、「これどう思う?」っていうところから始まるんです。
彼は常に、ピアノの短いフレーズを弾いているタイプの人。ピアノの前に座るたびに何かしらを弾いていて。それであるとき、「この2か月ずっと弾いてるそのピアノのフレーズに、こんなの思いついたよ」みたいな感じで進んでいくんです。
「Letting Things Go」もそうやって書きました。彼がずっとあのピアノのフレーズを弾き続けていて、ついに私が「そのピアノのフレーズに合わせて1曲まるごと書いたらどう思う?」って言ったら、彼は「いいね」って。
そんなふうに、どれも思いがけず形になったような曲ばかりなんです。
私は自分のソングライティングだと、時々「曲を書こう」と思って机に向かってしまうんですけど、彼はそういうやり方はしません。いつしか、私もその影響を受けるようになりました。
彼は本当に「無理にやること」に反対するタイプで、ボーカルも何テイクも録りたがらないし、何度もやり直したりしないし、曲の別バージョンも作ろうとしません。
自然に出てきたものこそが、そのままあるべきものだ、という考え方なんです。
それは自分のプロジェクトにとってもすごく刺激的で、大事にはするけど、考えすぎない、という姿勢を学びました。
MSGの想い出
――他にJackとの印象的なエピソードはありますか?
そうですね……JackとJacobは、本当に夫婦みたいに面白い二人です(笑)。
それと、マディソン・スクエア・ガーデン(MSG)で私が感じたことなんですけど、彼らが築いてきたプロジェクトがとても大きくなって、あれだけ多くの人が集まって感動している姿を見るのは、すごく現実離れした感覚でした。

でもバックステージに行くと、本当にただ彼らと、その家族や昔からの友達がいるだけで、雰囲気はずっと変わらないんです。規模がどれだけ大きくなっても、まったく同じコミュニティの集いなんですよね。
その週はみんなNYに集まっていたので、たくさんの人と会ったんですけど、その雰囲気って似たような空気の人を引き寄せていると思っていて。そういう人たちって、だいたい同じエネルギーを持っているんです。
だから、大きなスタジアムで大きなショーを見ているのに、観客もバックステージの人たちも、同じ人たちの集まりみたいに感じるんです。ただ友達同士で楽しんで、自分たちをインスパイアしてくれる音楽を聴いている、みたいな感覚。それが本当に印象的で。
それにBernard Purdieもバックステージにいて、彼と、素敵な奥さんとも話しました。そうしたら彼らも同じエネルギーを感じていて、みんなで彼らのファミリーの中にいるような感覚で、安全で心地いいと感じていたんです。

彼の奥さんが言っていたんですけど、こういう雰囲気って珍しいし、新しいものなんですって。彼はこれまでたくさんのショーに関わってきたけど、いつもこういう空気ではないから、って言っていました。
だからすごく特別で、素敵なことだと思います。
――つまり、彼らの家族がステージに出てこれるような感じですよね(笑)。

そう、まさにそんな感じです。
それと自分の経験から言っても、人生で本当に満たされるものは何なのかって、なかなか分からないと思うんです。一つ階段を上っても、さらにその先を見据えるあまり、思ったほど満足できなかったりすることもあると思います。
でも彼らから学んだのは、その成長していくプロセスを大切な人やコミュニティ中心にすることで、すべてがぐっと良くなるということなんです。
大きな瞬間を迎えたときも、まったく違う形でそれを感じられるし、孤独じゃないんですよね。
本当に、すごくインスピレーションを受けます。
――(ヨウヘイさん)個人的な話なんですが、フジロックでの彼らのライブでも同じことを感じました。
自分は20年以上フジロックで通訳として働いてきたんですが、25年来の友人であるCoryと一緒にバックステージにいて、彼がヘッドライナーとしてそこにいて、自分がバックステージにいるというのは、これまでのロックバンドやプロの現場とはまったく違う感覚でした。
去年のあの経験は本当に特別で、自分もショーやフェスの一部になっているような感じだったんです。
本当にそうですね。なんというか、そういった大きなイベントっていうのはすごく現実離れしている感じなんですけど、同時にとても身近に感じられるんです。
MSGのときも、ステージに出たあとに戻ってきて、警備員の人と話していたら、「これすごく楽しいね!」って言われて。「でしょ、楽しいよね」って。
あれって、大きなイベントだけど、怖い出来事っていう感じがしないんです。もちろん、バンドリーダーとして全体を動かしているJackにとっては大きなプレッシャーだと思うんですけど、私はただカラオケみたいな感じで、踊って「Tokyo Night」を歌っていただけなので、すごく楽しかったんです。

――実際にMSGで「Tokyo Night」を歌った時はどんな感じでしたか?
それでいうと面白いんですけど、先日、私のデビューアルバムのリリースで、LAのレコードショップでライブをやったんです。満員で売り切れだったんですけど、100人くらいの会場で。
でもそのライブのほうがずっと緊張していて、MSGのときは普通にリラックスしていたんです(笑)。
Jackもそれを理解していて、「分かるよ」って言っていました。
規模が大きすぎると、脳が処理しきれなくなって、「人に見られている」という感覚が消えるんですよね。ただポジティブなエネルギーの海みたいになるんです。
でも100人くらいの会場だと、顔も全部見えるし、ちゃんと100人に見られているって認識できてしまう。だから、その違いに気づいたのはすごく面白くて、不思議な体験でした。

デビューアルバム『Evangeline』
――では、次の話題に行きましょう。先日のデビューアルバムのリリース、おめでとうございます。今回の作品について教えてもらえますか? アルバムのテーマは何だったのでしょうか。
このアルバムは、基本的にはこの3年間の振り返りのようなものでした。「Evangeline」というプロジェクトを始めてから3年間、EPやシングル、曲を少しずつリリースしてきたので、それらをひとつにまとめたいと思ったんです。
この3年間で本当にいろんな経路から、たくさんの人に知ってもらいました。Vulfの活動を通して私を知ってくれた人たちがいますし、ライブに来てくれた人や、ツアーを通して知ってくれた人も。それから去年は映画(Winter Spring Summer or Fall)にも出演して、その中で私の音楽が使われていたので、そこから知ってくれた人もいます。
だから、このアルバムはこのプロジェクトの始まりと、そのスタートを形作ってきた曲たちを讃えるようなものにしたかったんです。それでタイトルも「Evangeline」にしています。
イメージとしてはThe Beatlesの最初期のアルバム、例えば『Meet the Beatles!』のような、初期のシングルや曲を集めた作品に近い感覚です。つまりイントロダクション的なアルバムで、次のアルバムはもっとコンセプトがある作品になると思います。
今回のアルバムは、私のサウンドがどういうものかを知ってもらうための良い入り口になると思っています。ジャンルとしてはシンガーソングライター的なインディー・ロックで、もしかしたら、次はもっとファンキーになるかもしれません。それはまだ分からないですね。
――なるほど、特定のテーマがあるというより、この3年間の活動をまとめた作品という感じなんですね。
そうですね。ただサウンド的には、ちゃんと統一感はあると思います。
私の曲たちには、ある種の共通したトーンがあるんです。テープを使って、生演奏でレコーディングしているから。それで全体的に、ノスタルジックなサウンドになっています。60年代や70年代の音楽が好きなので、そういう雰囲気がありますね。
だからすべての曲が同じ世界観の中にあるように感じられると思いますし、それがこのプロジェクト全体の雰囲気なんだと思います。
――なるほど。確かにアルバム全体を通して、ボーカルやサウンドがとても優しい印象がありますね。でも歌詞の世界では「Nothing I Can Do」の燃えるような恋心や、「Will」の切なさ、「Over」の悲しみだったりと、かなり幅広い感情が歌われています。このコントラストは意識して作曲されているのでしょうか?
とてもいい質問ですね。ありがとうございます。
実は私、いつも使っているモチーフがあって。「羽の生えた豚」なんです。重たさと希望が同時にあるような存在というか……予想外の組み合わせみたいなものが好きなんです。
音楽でもそういうバランスを大事にしていて、自分の歌い方はわりと柔らかいんですけど、その一方で歌詞は意外と強かったり、正直だったりするのが好きなんです。そういうコントラストがすごく好きで。
面白いことに「ささやくような歌い方のシンガーだ」みたいに言われることもあるんですけど、実際はもっとしっかり歌うこともできるんですよ。
でも今のプロジェクトでは、この親密で、居心地のいいような質感がすごく気に入っていて、それを表現したいと思っています。
だから、もしかしたら次のアルバムはシャウトするような、Whitney Houstonみたいな感じになるかもしれないですけど(笑)――今はこの雰囲気が楽しくて気に入っています。
――今作もMax Schragerがプロデューサーとして、またレコーディング・エンジニアリングやミックス、演奏でも参加されていますよね。その経緯や、彼が参加することでアルバムにどんな影響があったか聞かせていただいてもよろしいでしょうか?
私はずっと彼のファンだったんです。彼が高校生の頃に出した最初のアルバム『Thoughts Of You』がすごく好きで、彼自身や彼のバンド、The Shacksもずっと聴いてきました。
MaxはThe Shacksというバンドをやっていて、「Trip to Japan」という有名な曲があるんです。私たちはみんな、その曲の影響を受けているんだと思います。
彼の音楽はまさに私が好きなサウンドでした。彼は東海岸に住んでいて、あるとき私たちは別のアーティストのために曲を書くセッションに偶然一緒に入れられたんです。
それで二人でとても気が合って、そのまま一緒にたくさん曲を作り始めました。
当時彼はLAでスペースを借りていて、それはChicano Batmanというバンドのスタジオでした。そこでいろいろ実験的なことをたくさんやっていたんです。
彼はいつもテープで録音する人で、それが私にはすごく刺激的でした。というのも、テープだと使えるインプットが限られていてライブで録ることになるので、レコーディングに制約がかかるんです。でも、私はそういったやり方がすごく好きでした。
そうやって一緒に制作を始めて、それが私の2枚目のEP『When Demigods Go』になったんです。
それで今回このアルバムを完成させるとき、フルアルバムにする段階で、残りの曲も彼とやりたいと思って、ニュージャージー州プリンストンにある彼のところに行って、2週間一緒にレコーディングしました。
彼は本当に素晴らしいサウンドを持っていて、エンジニアとしてもとても優れています。ドラムもマイク1本だけで録って、それを一切動かさないんです。しかも高校時代からずっとそのままらしくて。そうやってあの音が生まれるんですけど、とにかくすごくいい音なんです。
――では今作の中で、特に気に入っている曲はありますか?
どの曲も好きじゃなかったらアルバムに入れてないと思うんですけど――でも正直、どれも嫌いになる瞬間もあったりしました。
リリースの数週間前に聴いていて、「これ全部ピッチ外れてない?」みたいに思ったこともあって。何度も聴きすぎると「全部外れてるんじゃないか」って思えてくること、ありますよね。
そのときJackにも「聴きすぎだよ、もう聴くのやめな」って言われました(笑)。
でもアルバムに入っている「Tarantula」という曲があって――最初はアルバムのタイトルもそれにしようかと思っていたくらいなんです。
最終的に収録したバージョンはほぼライブテイクみたいなもので、ミックスも、マスタリングもほとんどしていなくて、とても生々しいんです。それがすごく好きで。飾らない、ありのままの曲だと思っています。
あと、「What Are You Doing Later?」がアルバムの最後を締めているのもすごく好きで。これはこの数年で私にとっても、いろんな人にとっても大切な曲になりました。
このアルバムに収録できて本当に良かったですし、このアルバムの持つ、繊細さや脆さみたいなイメージを象徴していると思います。
日本のファンへメッセージ
――ありがとうございます。では5年後や10年後、どんなアーティストになっていたいと思いますか?
それは本当にシンプルで、「いいレコードを出し続けるアーティスト」でありたいです。
これからもずっとアルバムを作り続けたいし、みんながそれを持っていたくなるような作品を作りたい。今回、初めてのアルバムをヴァイナルにできたのもすごく嬉しくて。
私が好きなアーティストって、ずっと追い続けたくなる人たちで、アルバムが出るたびに楽しみで、全部コレクションしたくなるような存在なんです。
自分もそういう「ブティック的なアーティスト」でありたいと思っています。
たとえばレコードは500枚限定とかで、それを持っている人が嬉しくなるような。ライブも小さくて、でもいい席でちゃんと楽しめるような空間で。
作品の質も進化していくけど、常に丁寧に作られていて、大切にされている。そういうアーティストになりたいです。

――では最後に、日本のファンにメッセージをお願いします。
聴いてくれている皆さんに本当に感謝しています。そして、実際に会いに行けるのを楽しみにしています。私も、日本の大ファンなので。
もしよかったら、おすすめのジーンズのお店とか、ぜひ教えてください。いいデニムを買いたいので(笑)。それから、食べ物のおすすめも教えてほしいです。
あと、ライブハウスも知りたいです。どこでライブをやるべきか、どんなインディーロックのアーティストがいるのか、そういう情報も知りたいです。
――ご紹介しますよ。ちなみに、今後のプランは何かありますか?
今は次のアルバムを書いていて、今年の夏にレコーディングする予定です。それがすごく楽しみですね。それともし、日本ツアーの予定が組めたら、すぐにでも行きます!
今回インタビューの中で触れていたEvangelineのデビューアルバム『Evangeline』は、現在Diggers Factoryで受注生産の予約受付中。
この期間を逃すとご購入いただけなくなりますので、ご希望の方はお早めに!
通訳:ヨウヘイさん
◆インタビュー&著◆
Dr.ファンクシッテルー

宇宙からやってきたファンク博士。「ファンカロジー(Funkalogy)」を集めて宇宙船を直すため、ファンクバンド「KINZTO」で活動。「KINZTO」と並行して、音楽ライターとしても活動しています。
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