見出し画像

マンジャロ薬価25%減にリリーが出した声明を読む

静かなはずの撤退が、声を出した

4月に書いた。参照国に明記された時点で、企業のパイプラインから日本が消え始めると。消えたことは誰にも数えられない。統計上は開発中にすら入らないからだ。PhRMAが2024年11月に中医協へ提出した資料では、2012年から2021年に欧米で発売された新薬225品目のうち108品目、48%が日本で開発に着手されていない。

8月3日、日本イーライリリーがマンジャロの薬価引き下げに対する声明を出した。文書番号EL26-36。普通は表に出ないものが、この日だけ文章になった。

マンジャロの薬価が下がったと単純に喜ぶ人もいるだろうが、問題はそこではない。


何を言ったか

声明の主語は価格ではない。予見可能性だ。

研究開発や製造への長期的な投資の継続、革新的な医薬品の導入、新たな治療選択肢への患者による迅速なアクセスを支えるには、予見可能で透明性の高い政策環境が不可欠である。そう書いた上で、近年の持続可能性特例価格調整を巡る動きが日本の薬価制度の予見可能性を損なうリスクを持ち、将来の投資判断にマイナスの影響を及ぼす可能性があると述べている。

日本では医薬品が上市された後に適用される薬価制度のルールが十分な予告なく変更されることが少なくない、とも。マンジャロの販売開始は2023年4月。持続可能性特例価格調整の骨子が了承されたのは令和7年12月26日だから、売り始めて2年8か月後にできたルールで削られたことになる。

引き下げが大幅に、かつ想定されていた時期よりも大きく前倒しで実施された、という一文もある。年1回の改定を前提に計画を立てていたら、期中で来た。

外圧ではなかった

4月と7月に書いたのは外からの圧力の話だった。MFN参照国に指定され、米国収益を守りたい企業が日本での安値を嫌う。関税が原薬の争奪を招く。日本の判断が外部要因に縛られる構図。

今回は違う。8月1日の25%は、厚労省が国内の財政論理で決めたものだ。制度上の根拠に米国は出てこない。

外圧がなくても同じことが起きる。この一点が、今回いちばん重い。

同じ5月13日の総会では、アムヴトラ皮下注25mgシリンジも市場拡大再算定で処理されている。1筒8,006,196円が6,834,558円へ、14.6%の引き下げ。トランスサイレチン型心アミロイドーシスの効能追加で市場が広がった超高額薬と、週1回打つ糖尿病の注射薬が、同じ議題に並んだ。

6月に長期収載品の話を書いた。Z2、G1G2、選定療養。矢継ぎ早の制度変更が先発メーカーに「早く逃げろ」というシグナルを送り続け、業界全体が長期収載品から退いた。あのとき削られたのは特許の切れた古い薬だった。

今回削られたのは、販売開始3年の新薬である。特許期間中でも、売れすぎたら削られる。

長期収載品には後発品という受け皿があった。先発が降りても、建前としては代替がある。特許期間中の新薬にはそれがない。

判定はレセプトで行われる

引き下げの根拠になった数字を確認しておく。

年間販売額が1,000億円超1,500億円以下で、基準年間販売額の1.5倍以上。この判定に使われたのはNDBデータ、12月診療分だ。

NDBはレセプト情報・特定健診等情報データベースの略で、保険診療の請求記録が集まっている。なぜこれが選ばれたか。年4回の機会で市場規模を掴もうとすると、薬価調査では間に合わない。日本全国のレセプトに基づく高い悉皆性という理由で、四半期ごとの把握にNDBを使う方針が定まった。速度を上げるために選ばれた道具である。

つまり判定に乗るのは保険で処方された分だけになる。自費のダイエット目的で打たれたマンジャロは、レセプトが発生しないので集計に入らない。

もうひとつ、令和8年度の改革では、企業の予見可能性を確保し国民負担の軽減と創薬イノベーションを両立する観点から、再算定対象品の類似品への連動適用を廃止すると明記されていた。予見可能性の確保は、改革側が掲げた目的でもあった。その改革で新設された制度の第1号適用が、予見可能性を損なうという声明を引き出している。

ここでもう一点、価格と関係なく動かないものがある。マンジャロは2型糖尿病治療薬として承認されており、肥満症治療薬としては承認されていない。適応外の使用で健康被害が出た場合、医薬品副作用被害救済制度は働かない。薬価が25%下がっても、この条件は変わらない。

そしてレセプト判定という一点が、この先で効いてくる。

ここから先は

3,034字
この記事のみ ¥ 280
Amazon Payで支払うと最大2%還元のチャンス! 9/30まで

メンバーシップは医療マガジン、有料日記を全部読めます。 僕を応援してください!お願いいたします! 毎…

医療マガジン閲覧プラン

¥500 / 月
あと9人募集中

ちょっと応援プラン(全部プラン②)

¥2,000 / 月
あと15人募集中

もっと応援プラン(全部プラン③)

¥3,000 / 月
あと31人募集中

どんと応援プラン(全部プラン④)

¥9,999 / 月

全部プラン

募集終了

過去に投稿した有料医療記事をまとめたマガジンです。 今後も順次追加していきますので、興味がありましたらよろしくお願いいたします。

医療コラムを順次追加していきます。

Amazon Payで支払うと最大2%還元のチャンス! 9/30まで

よろしければ応援お願いします!チップはnote更新用のPC購入費用に当てる予定です。よろしく!