人材不足の時代に、企業は何を経営資産として残すべきか。現場知識を利益と成長につなげる、ディーシステムの考え方
手順書はあるのに、障害時の判断が引き継がれない
夜間帯に引き継いだのは、緊急性の高いジョブ異常への対応でした。
担当者は、すぐに再実行の操作へ入ったわけではありません。まず、日勤帯でどこまで確認が終わっているのか、関係チームへの連絡は済んでいるのか、上位者からの判断待ちなのかを整理しました。
データを作り直しても異常は解消しませんでした。確認を重ねる中で、削除したはずの情報が残っており、それが再実行時の異常につながっていることが分かります。上位チームの指示を受け、必要な処理を行い、監視を続けたうえで再実行し、正常終了を確認しました。
障害対応としては完了です。
ただ、後から日報を見返すと、別の課題が残っていました。
誰に何を伝え、どの返答を受けて次へ進んだのか。何を確認して「復旧した」と判断したのか。その記録が十分には残っていなかったのです。
対応した本人には分かっている。けれど、次に同じ場面へ入る人が、同じように判断できるとは限りません。
企業で失われやすいのは、作業手順そのものではなく、こうした判断です。
ディーシステムが目指す「現場知識を経営資産に変える」仕事
人材不足、離職、属人化、AI活用。
企業が抱える課題として、こうした言葉を目にする機会は増えました。ただ、現場で起きていることは、もっと具体的です。
ベテランが異動すると、後任者は手順書を見ながら定型作業はできる。それでも、障害時に誰へ確認するのか、どの連絡を優先するのか、利用部門へ何を伝えるのかは書かれていない。
若手が問い合わせに対応できるようになっても、なぜその回答になったのかを次の人へ説明できない。顧客とのやり取りで積み上がった前提や、過去の例外対応が、メールや会議の記憶の中に散らばっている。
担当者が変わるたびに、組織は同じことを学び直します。
その結果、教育に時間がかかり、顧客対応が遅れ、管理職に相談が集中する。人が足りないから育成できないのではなく、育成に使える経験が、個人の中に閉じたままになっていることが問題になる場合もあります。
ディーシステムが取り組んでいるのは、現場で積み上げられた経験や判断を、個人だけのものにしないことです。
次の担当者が使える形へ変え、次の改善へつなげ、顧客価値や人材育成へ戻していく。
システムを導入すること自体ではなく、現場で起きていることを整理し、仕事が続く状態をつくること。そのための支援を行っています。
人材不足は、採用人数だけでは埋まらない
人が足りない現場では、残った社員に業務が集まります。
すると、教える時間が取れなくなる。手順を説明するより、自分で対応した方が早い場面が増える。若手は作業を覚えても、その背景まで理解する機会を失いやすい。ベテランはさらに忙しくなり、例外対応や判断が一部の人へ集中していきます。
中小企業白書でも、人材不足の事業者ほど定着率が低い傾向が示されています。採用した人を定着させることは、採用活動とは別の課題ではありません。現場で役割を広げ、成長の実感を持てる状態をつくれるかどうかとつながっています。
たとえば、L1監視の仕事を経験した社員が、アラートを確認して連絡するだけで終われば、次の役割へ進むきっかけは生まれにくくなります。
一方で、障害時にどこまで確認したのか、なぜその順番で連絡したのか、何をもって復旧と判断したのかまで振り返れば、その経験はL2運用、ジョブ管理、帳票運用、PMO支援へ進む土台になります。
必要なのは、経験年数を増やすことだけではありません。
経験を次の判断へ変える仕組みです。
離職で失われるのは、一人分の工数だけではない
厚生労働省の雇用動向調査によると、2024年の常用労働者の離職率は14.2%でした。
もちろん、離職率だけで個別企業の状態を判断することはできません。
ただ、担当者が一人抜けるとき、企業から失われるのは人数だけではありません。
顧客がどの点を気にするのか。どの障害が業務影響へつながりやすいのか。どの部署へ先に確認すると話が進むのか。過去に何を試し、なぜ採用しなかったのか。
こうした情報が残っていなければ、後任者は作業を引き継いでも、判断を引き継げません。
採用コストや教育コストは見えやすい一方で、経験の消失による負荷は数字に表れにくいものです。けれど実際には、顧客への説明、障害時の対応、管理職の確認、若手の立ち上がりに少しずつ影響します。
離職を完全になくすことはできません。
だからこそ、人が変わることを前提に、知識と判断が残る運用をつくる必要があります。
AIを導入する前に、整理しなければならないものがある
生成AIを活用すれば、文書作成、情報検索、問い合わせ対応、データ分析といった業務は速くなります。
ただ、AIに何を参照させるのかが整理されていなければ、答えの質は安定しません。
古い手順書と現在のルールが混ざっている。過去の障害記録に完了判断が残っていない。顧客ごとの例外が口頭でしか共有されていない。問い合わせ履歴はあるが、解決策の根拠や判断条件が残っていない。
この状態でAIを導入しても、情報を速く探せるようになるだけで、組織の判断が強くなるとは限りません。
IPAの「DX動向2025」では、日本企業の85.1%がDXを推進する人材の不足を感じているとされています。
人材が足りないからAIを使う。その方向性自体は自然です。
ただ、その前に確認したいことがあります。
その会社には、何を基準に仕事を進めてきたのかを説明できる記録があるか。例外が起きたときの判断を、次の人へ渡せる状態になっているか。現場の情報が、部門や担当者ごとに分断されていないか。
AIは、整理されていない現場知識を自動で整えてはくれません。
情報を集め、使える形にし、更新し続ける人と仕組みがあって初めて、AIは現場の力を広げるものになります。
手順書だけでは、運用品質は引き継げない
ディーシステムは、ERP、IT運用、ヘルプデスク、アプリケーション開発、AI・データ活用などの領域で、顧客の現場を支援してきました。
こうした仕事では、画面操作や手順書だけでは引き継げないものがあります。
問い合わせを受けたとき、どこまで確認してから回答するか。複数の部署で認識が異なるとき、何を根拠に整理するか。障害時に、技術的な復旧と業務上の影響をどう分けて説明するか。
特に品質や文書管理、業務継続性が求められる領域では、「作業が終わった」だけでは十分ではありません。
誰が見ても同じ判断にたどり着けるか。あとから経緯を確認できるか。次の担当者が迷わず進められるか。そうした状態をつくることが、品質を守ることにつながります。
現場で起きたことを、作業報告で終わらせない。
問い合わせ内容、障害対応、顧客からの指摘、改善の試行錯誤を、次の仕事に使える知識へ変える。
この積み重ねが、顧客にとっては運用品質や業務継続性につながり、社員にとっては次の役割へ進む足場になります。
日報と週報は、報告のためだけにあるものではない
現場の経験を残すために、ディーシステムでは日報や週報を重視しています。
ただし、作業を並べることが目的ではありません。
ある障害対応では、担当者が状況把握から関係チームへの連携、原因の切り分け、復旧確認までを記録していました。以前より、対応の流れは見えるようになっていました。
一方で、フィードバックでは次の課題が残りました。
誰に何を伝え、相手からどのような返答があり、何をもって完了と判断したのか。その部分が十分に記録されていなければ、次の担当者は同じ判断を再現できません。
そこで、次の報告では「連絡・確認・完了判断」を一組で残すことを目標にします。
なぜその時点で連絡したのか。相手は何と答えたのか。どの確認結果で復旧と判断したのか。
こうしたフィードバックを繰り返すことで、社員は「対応できた」段階から、「判断を説明し、次の人へ渡せる」段階へ進んでいきます。
DSC(D-system Cycle)は、日報を採点するためだけの仕組みではありません。
現場で起きたことを振り返り、本人がまだ言葉にできていない判断を見つけ、次の実務で試せる行動へ変える。その循環をつくるための仕組みです。
標準化は、人を減らすためではなく、役割を広げるために行う
大規模なクラウド移行後の運用では、定型的な監視業務を標準化し、オフショア化や自動化を進める場面があります。
そのとき、国内の担当者を減らすことだけを目的にすると、運用品質も人材育成も弱くなります。
重要なのは、定型作業を移管したあと、国内で経験を積んだ人材をどの役割へ進めるかです。
監視業務で対象システムの動きや障害時の連携を理解した社員が、L2運用保守、JCLスケジューラ運用、帳票運用、PMO支援へ進む。異動先で必要な知識や報告の水準を確認しながら、任せられる範囲を少しずつ広げていく。
この設計がなければ、標準化は単なるコスト削減で終わります。
一方で、定型業務を整理し、判断基準を残し、次の役割まで設計できれば、顧客にとっては品質を保ちながら体制を最適化する選択肢になります。
社員にとっては、現場で得た経験を、その場限りで終わらせず、より専門性や責任が求められる仕事へ変える機会になります。
企業に残すべきものは、システムだけではない
人材不足、離職、属人化、AI活用。
これらは別々の問題に見えます。ただ現場では、つながっています。
人が足りないから、教育の時間が取れない。教育の時間が取れないから、経験が個人に残る。経験が残らないから、異動や離職のたびに立ち上がりが遅くなる。情報が整理されていないから、AIを導入しても使いどころが定まらない。
この連鎖を断つために必要なのは、立派な制度を一つ増やすことではないかもしれません。
障害対応のあとに、判断の根拠を残す。問い合わせのあとに、次の人が使える回答へ整える。顧客からの評価を、本人の次の成長課題へつなげる。現場で起きた小さな出来事を、次の改善へ戻す。
その積み重ねが、知識を組織に残します。
ディーシステムは、システムを動かすだけではなく、現場で積み上げられた経験や判断を、次の人、次の顧客、次の利益へつなげる仕事に取り組んでいきます。
さらに詳しく知りたい方へ
現場で得た経験を、個人の中だけで終わらせず、次の育成や顧客価値へつなげる取り組みを紹介しています。
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参考データ・出典
中小企業庁「2025年版 中小企業白書」
厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況」
IPA「DX動向2025―AI時代のデジタル人材育成」
