「みんなで決めた」ら不幸に〜集団思考の弊害
【記事概要】
「単独よりも集団の合議の意思決定の方が的確」と思いがちだが、現実には集団ならではの判断の誤り、不適切な意思決定を犯しがちなことを歴史は物語る。しばしばそれは組織、国全体で大きな不幸をもたらす。本記事では集団思考の弊害と具体例を挙げ、最大多数の最大幸福を獲得する予防策を解説する。
「三人寄れば文殊の知恵」とは限らない
「三人寄れば文殊の知恵」という
言葉があるように、
衆知を集めて、合議による意思決定をすれば
一人で物事を判断するより
良い意思決定ができるはず。
確かに多様な人々が集い、
完全に平等で自由な発言、相互に理性的な態度
が保たれれば、そういう場合が多いのですが、
現実に生身の人間同士では、
そうも行かないのが実態です。
なまじ、
「衆知を集め合議しているのだから」
という無謬信仰さえ生まれ、
集団ならではの落とし穴にはまることを
見落としかねません。
集団思考(Groupthink)の弊害
集団ならではの合意形成、意思決定の落とし穴を
集団思考(Groupthink)と言います。
集団思考(Groupthink)とは、心理学者
アーヴィング・ジャニス(Irving Janis)が
1972年に提唱した概念です。
集団内の合意形成や結束を優先するあまり、
批判的思考や現実的な判断が
損なわれる現象を指します。
集団思考は、特に
高圧的なリーダーシップ
強い集団結束力
外部からの孤立
が存在する場合に発生しやすく、
誤った意思決定や非倫理的な行動
を引き起こす可能性があります。
【集団思考の主な弊害】
a.批判的思考の欠如:
集団の調和を保つため、
反対意見や疑問が抑圧される。
b.情報の偏り:
集団外の情報や異なる視点が無視され、
偏った意思決定が行われる。
c.過度な自信:
集団の決定が正しいと過信し、
リスク評価が不十分になる。
d.倫理的問題:
集団の目標達成のために、
倫理に反する行動が正当化される。
e.リスキーシフト:
集団での議論が個人よりも
リスクの高い選択を促す現象。
集団思考による失敗例
ベイ・オブ・ピッグス事件(1961年):
ケネディ政権下のCIAキューバ侵攻計画は、
集団思考による情報不足と批判の抑圧が
失敗を招いた(Janis, 1972)。
チャレンジャー号爆発事故(1986年):
NASAの意思決定過程で、
エンジニアの懸念が無視されたことが
爆発事故の原因(Moorhead et al., 1998)。
今の既成政党をめぐる
政治状況も現在進行形の例
そのものだと感じます。
集団思考は「サンクコストの罠」と合併し、多くの人を破滅的不幸に巻き込む
「集団思考」は、しばしば
「サンクコストの罠」と結びついて
個人の日常生活、会社の事業経営
国家政策等の意思決定に影響を及ぼし、
多くの人が破滅的不幸に巻き込まれます。
サンクコストの罠とは
サンクコストの罠とは、
すでに投資した資源(時間、資金、労力など)
が取り戻せないにもかかわらず、
それらの「埋没費用(サンクコスト)」
に基づいて意思決定を続けてしまう
心理的な傾向を指します。
経済学的には、
サンクコストは将来の意思決定に
影響を与えるべきではないが、
人々は
「これまでの投資を無駄にしたくない」
という感情から
不合理な選択をすることがあります。
特徴:
過去の投資を正当化しようとする心理、
損失回避傾向(Loss Aversion)、
認知的不協和の解消。
例:
企業が失敗が見えているプロジェクトに
追加投資を続ける(例: コンコルド開発)。
個人が面白くない映画を最後まで見てしまう
(「チケット代を払ったから」)。
不採算事業を
「これまで投資したから」と継続する。
サンクコストの罠のメカニズム
心理的要因:
人は損失を過大に評価し
(プロスペクト理論、Kahneman & Tversky, 1979)
過去の投資を無駄にしたくないと感じる。
社会的圧力:
集団思考との関連で、集団内で
「これまでの努力を無にしない」
と同調圧力がかかる。
リスキーシフトとの関連:
サンクコストの罠は、集団での議論が
リスクの高い選択を助長する
リスキーシフトを強化する場合がある
例: 集団が「投資を続ければ成功する」と過信。
【研究実績とエビデンス】
Kahneman & Tversky (1979):
サンクコストの罠は、損失回避
(損失を利益よりも強く感じる傾向)
に根ざしている。
人は損失を避けるため、
失敗した投資を続ける。
出典: Kahneman, D., & Tversky, A. (1979). Prospect theory: An analysis of decision under risk. Econometrica, 47(2), 263-291.
Staw (1976):
エスカレーション・オブ・コミットメント
サンクコストの罠は
「コミットメントのエスカレーション」
とも関連し、個人が過去の投資に固執し、
さらなる資源を投入する傾向を示した。
例: 失敗プロジェクトへの追加投資。
出典: Staw, B. M. (1976). Knee-deep in the big muddy: A study of escalating commitment to a chosen course of action. Organizational Behavior and Human Performance, 16(1), 27-44.
集団思考がサンクコストの罠を増幅
集団思考がサンクコストの罠を
増幅する場合があります。
集団が
「これまでの努力を無駄にできない」
と一致団結し、
リスクの高い継続を選択する
(例: ベイ・オブ・ピッグス事件)。
企業の新規事業撤退の遅れにも、
非常に事例が多いですね。
日本の敗戦に至る道、
これは先達が血であがなった道だけに
軽々に論ずるのは憚られますが、
日中戦争から破滅的敗戦への経過も、
こういう側面があったのは否めません。
独断専行の推奨ではない
「集団思考の弊害」を述べてきましたが、
独断専行を推奨するものではありません。
「衆知を集める」判断、意思決定や、
民主主義に基づく政治には
かけがえのない意義があります。
それを尊重した上で
集団の盲信を避け、
「集団思考」の弊害を防止して
集合知や民主主義の成果の最大化
を図るべきです。
衆知を集める合議のメリットを活かし「集団思考の弊害」発生を防ぐには
1.集団思考の弊害を防ぐ対策
ジャニス(1972)や後続研究に基づき、
集団思考による意思決定の失敗を
軽減するための実践的アプローチです。
①多様な視点の導入
方法: 外部の専門家や利害関係者以外の意見を取り入れ、集団の視野を広げる。異なる背景のメンバーを意思決定プロセスに含める。
効果: 情報の偏りや同調圧力を軽減し、代替案の検討を促進(Janis, 1972)。
例: NASAがチャレンジャー号事故(1986)後に外部監査を導入し、技術的懸念を積極的に取り上げる体制を構築(Moorhead et al., 1991)。
出典: Janis, I. L. (1972). Victims of Groupthink. Houghton Mifflin.
②批判的議論の奨励
方法: リーダーが中立性を保ち、反対意見や疑問を歓迎する文化を醸成。例: 「悪魔の代弁者(Devil’s Advocate)」を任命し、意図的に反対意見を提示。
効果: 批判的思考の欠如を防ぎ、過度な自信を抑制。リスキーシフトのリスクも低減(Turner & Pratkanis, 1998)。
例: 企業で意思決定前に「プレモーテム分析」(失敗を想定した議論)を実施。
出典: Turner, M. E., & Pratkanis, A. R. (1998). Twenty-five years of groupthink theory and research. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 73(2-3), 105-115.
③匿名での意見収集
方法: デルフィ法や匿名投票を用いて、個人の意見を同調圧力から保護。ブレインストーミングで自由な発言を促す。
効果: 自己検閲や反対意見の抑圧を防ぎ、多様な視点を引き出す。
例: 組織での戦略会議で、匿名フィードバックツールを使用(例: Google Formsや専用ソフト)。
出典: Dalkey, N., & Helmer, O. (1963). An experimental application of the Delphi method to the use of experts. Management Science, 9(3), 458-467.
④リスク評価の構造化
方法: 意思決定前にリスクと利益を体系的に分析(例: SWOT分析、コストベネフィット分析)。明確な撤退基準を設定し、サンクコストの罠を回避。
効果: 過度な自信やリスキーシフトを抑制し、客観的な判断を促進(Arkes & Blumer, 1985)。
例: プロジェクト管理で「ストップロス基準」(例: 損失が一定額を超えたら中止)を事前に設定。
出典: Arkes, H. R., & Blumer, C. (1985). The psychology of sunk cost. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 35(1), 124-140.
⑤リーダーシップの改善
方法: リーダーが自身の意見を最初に表明せず、メンバーの自由な議論を促す。強圧的なリーダーシップを避ける。
効果: 同調圧力を軽減し、集団思考による倫理的問題を防止(Sims & Brinkmann, 2003)。
例: エンロン社の失敗後、企業がリーダーシップ研修でオープンな対話を重視。
出典: Sims, R. R., & Brinkmann, J. (2003). Enron ethics (or: Culture matters more than codes). Journal of Business Ethics, 45(3), 243-256.
⑥集団の結束力の管理
方法: 過度な集団結束を避けるため、定期的にチームを再編成したり、外部からのフィードバックを導入。
効果: 「無敵意識」やリスキーシフトを抑制し、客観性を維持。
例: 軍事作戦での意思決定で、外部の戦略家をアドバイザーとして招聘。
出典: Janis, I. L. (1972). Victims of Groupthink.
2.サンクコストの罠とリスキーシフトへの対処
サンクコストの罠: 過去の投資を切り離し、将来の利益とリスクのみで判断するルールを設ける(Staw, 1976)。例: プロジェクト評価時に「過去のコストは無視する」と明確に宣言。
リスキーシフト: 集団での議論前に個々の意見を記録し、集団極化を防ぐ(Myers & Lamm, 1976)。例: 会議前に個別のリスク評価を提出させる。
出典:
Staw, B. M. (1976). Knee-deep in the big muddy. Organizational Behavior and Human Performance, 16(1), 27-44.
Myers, D. G., & Lamm, H. (1976). The group polarization phenomenon. Psychological Bulletin, 83(4), 602-627.
3. 実践例
企業: Googleや3Mでは、心理的安全性を高める文化を構築し、従業員が自由に意見を述べられる環境を整備。
政府: 米国政府は、ベイ・オブ・ピッグス事件後、政策決定に複数のシナリオ分析を導入し、集団思考を軽減。
プロジェクト管理: アジャイル手法で短いスプリントを採用し、定期的に進捗を評価することでサンクコストの罠を回避。
まとめ
職場、仲間、企業、国家は、集団ならではの判断の誤り、不適切な意思決定を犯しがちであり、大きな不幸をもたらす。
集団思考は、高圧的なリーダーシップ、強い集団結束力、外部からの孤立が存在する場合に発生しやすい。
【集団思考の主な弊害】
a.批判的思考の欠如、b.情報の偏り、c.過度な自信、d.倫理的問題、e.リスキーシフ
集団思考は「サンクコストの罠」と合併し、多くの人を破滅的不幸に巻き込む。集団思考がサンクコストの罠を増幅する。
衆知を集める合議のメリットを活かし「集団思考の弊害」発生を防ぐ対策
①多様な視点の導入、②批判的議論の奨励、③匿名での意見収集
④リスク評価の構造化、⑤リーダーシップの改善、⑥集団の結束力の管理
最後まで記事をご覧いただき、
誠にありがとうございました。
今後も幸福に関連する記事を
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イーハピネス株式会社 代表取締役 松島紀三男*プロフィール*
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