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「1万時間の法則」と「石の上にも三年」究めて感じる「働く幸せ」


「幸せ」は自己実現から、自己実現は仕事から

どんな仕事でも、一定期間の修練を積んで初めて到達できる水準、達観の境地があり、そこで「自己実現」もはっきりと自覚できるに違いありません。

「自己実現」は「働く幸せ」の最も重要な要因であることは、多くの人の実感として賛同いただけると思いますが、私(イーハピネス社)の調査でも統計的に裏付けられます。

人生の中で「仕事」には大半の人が最も多くの時間を費やしており、マインド的にも「仕事」が多くを占めることから、個人の「幸福」全体に及ぼす影響も極めて大きいものとなります。

それでは「自己実現」を確信するほど仕事を極めるには、どれほどの期間が必要なのでしょうか。

「1万時間の法則」(10,000-hour rule)

マルコム・グラッドウェルは、ある分野で一流になるには、約1万時間の集中的な練習が必要と述べています。
(出典: Malcolm Gladwell 『Outliers: The Story of Success』Little, Brown and Company, 2008,pp. 35-68)

この法則は、心理学者アンダース・エリクソン(K. Anders Ericsson)の研究に着想を得たものだそうです。(注*)
ただし、エリクソン自身は「1万時間」を厳密なルールとはみなしておらず、グラッドウェルが一般向けに簡略化したものです。

「1万時間」は目安にしても、特定のスキルや専門性を習得するためには、質が高くて実践的な時間の投資が必要なことは確かです。

私は音楽ではジャズとクラシックが好きなので、知り合いのプロの音楽家に「1日どれくらい練習してますか?」と今まで聞いたところでは、短い人で四時間、長い人で「寝ているときと食事、トイレ、移動の時間を除き全て」でした。ジャズ、クラシック問わず、6~10時間の人が多い印象です。

「石の上にも3年」との類似性

「1万時間の法則」と似た言葉に、日本の「石の上にも3年」ということわざがありますね。冷たくて硬い石の上に三年間座り続ければ、暖かくなるという意味で、忍耐強く努力を続ければ、必ず成果や報われる時が来るという教えです。

江戸時代以前から使われていたとされることわざで、日本の農耕社会や仏教的な忍耐の価値観に影響を受けたものでしょう。

農業や職人文化では、時間をかけて成果を出す姿勢が重要視され、こうした価値観が受け継がれたと考えられます。

明治以降、ことわざとして普及し、教科書や文学作品、教育の場で引用されるようになりました。普遍的な教訓として現代まで受け継がれています。

三年という具体的な期間が例示されていますが「三日三月三年」という言葉もある通り「三」という数字は象徴的な表現です。

しかし、8時間労働制が定着する以前の江戸時代から明治期の労働時間で推計すると、三年間では労働時間の累計が1万時間前後と考えられ「1万時間の法則」と同じ時間に収斂するのは興味深いですね。

「石の上にも3年」は精神的な姿勢であり、抽象的で普遍的な教訓であるのに対し、「1万時間の法則」は具体的な行動(訓練)、特定のスキル習得に焦点を当て、科学的・実証的な裏付け(エリクソンの研究など)を基にしたという違いがあります。

「自己実現」できている人は10%

どんな仕事でも、その世界でプロフェッショナルとして一流と自他共に認める存在になれば、間違いなく「自己実現」を果たし、心の底から「幸福」だと実感できるでしょう。

ただ、残念なことに「自己実現」(Self-actualization)という言葉を世に広めたマズローは「自己実現」の夢をかなえる人は少数派であり、割合で言えば10%にとどまると述べています。(出典:A.H.マズロー『人間性の心理学- モチベーションとパーソナリティ-』小口忠彦訳,産能大学出版部,昭和62年,p83)関連記事↓

「自己実現」を果たし得る最低の条件である「1万時間の法則」は、プロフェッショナルとして一流の域に達するための厳しいハードルということです。

天賦の才に恵まれている人でも、それだけの長期間の集中的訓練に耐えるには、精神的に「石の上にも三年」という覚悟が必要でしょう。

両者を組み合わせることで、精神的な強さと実際の努力が調和し「自己実現」への可能性が高まります。

「1万時間の法則」「石の上にも三年」という「和魂洋才」

より多くの人が「自己実現」できるといいですね。
そういう意味では「1万時間の法則」と「石の上にも三年」という言葉は、新しい「和魂洋才」として、いい組合せだと思います。


(注*)参考文献
エリクソンの論文「The Role of Deliberate Practice in the Acquisition of Expert Performance」(Psychological Review, 1993, Vol. 100, No. 3, pp. 363-406)が理論的背景。


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