なぜ、組織の中で自分を出せなくなるのか──安全と自分らしさのあいだにある壁
前回の記事の続きとして、
マズローの欲求と組織の関係について解説していきます。
▼前回の記事
変化が激しく、過去の成功体験が通用しづらい今、
「自律的に動ける人材」はますます求められています。
一方で、現場では”なかなか主体性が育たない”という悩みを抱えています。
どうしてこのギャップが生まれるのでしょうか。
マズローの視点で見る、“欲求の偏り”
人間には、マズローが提唱した5つの基本的な欲求があります。
• 生理的欲求:食事、睡眠など生存のための欲求
• 安全の欲求:安定した生活や、危険を避けたいという欲求
• 所属と愛の欲求:仲間に受け入れられたいという欲求
• 承認の欲求:認められたい、尊重されたいという欲求
• 自己実現の欲求:自分らしく生きたい、可能性を発揮したいという欲求
(後年には「自己超越」という6段階目も加えられています)

本来、これらはすべて人間の中に備わっているものです。
ですが、組織の中に入ると、
「安全でいたい」「余計なことはしたくない」といった気持ちばかりが、強く表に出てくることがあります。
こうした欲求は、マズローの5段階欲求のうち「生理的欲求」や「安全欲求」を指します。
すなわち、「生活を維持するための安定した収入が欲しい」「失敗して評価を下げたくない」「波風を立てずに日々を無難に過ごしたい」といった、リスクを避けて現状を維持しようとする防衛的な欲求です。
それはなぜなのか?
組織構造が“基礎的な欲求”を強化してしまう理由
■ 1|評価制度が「失敗しない」ことを重視している
多くの企業では、「挑戦したか」よりも「成果が出たか」「問題を起こさなかったか」で評価されがちです。
この設計では、多少チャレンジしても、成果が出なければ評価されないし、
むしろミスをしたらマイナス評価になる。
だったら、リスクは避けて無難に仕事をこなす方が合理的。
「変わらない」ことが、最適解になってしまうのです。
■ 2|上下関係が明確で、“従うこと”が暗黙の前提
特に日本の企業文化では、「指示に従う」「和を乱さない」が美徳とされやすい。
自分の意見よりも、空気を読むことが優先される。
上司がこう言っているから、その通りに動く。
これでは、自分の想いや意志を出すことが“リスク”になってしまいます。
■ 3|心理的安全性が十分にない
「これを言ったらどう思われるか」
「失敗したら立場が危うくなるんじゃないか」
そうした不安があると、人は自然と保身を優先します。
たとえアイデアがあっても、黙っていた方が安全。
自己実現よりも、「ここにいても大丈夫か」の方が優先されてしまうのです。
■ 4|組織の“目的”が共有されていない、共感できない
「会社としての理念はあるけれど、日常業務と結びついていない」
「そもそも、掲げられたパーパスに実感がない」
そんな状態では、「自分の仕事に意味を感じたい」という内発的な欲求は刺激されません。
意味が感じられない仕事は、やがて“作業”になります。
それでも、“高次の欲求”が引き出される組織はある
一方で、すべての組織がそうではありません。
たしかに、高次の欲求──「意味を感じたい」「可能性を発揮したい」
そういった意欲が、組織の中で自然に引き出されている場も存在します。
そうした組織には、いくつかの共通点があります。
• 失敗が許容されている文化がある
→ミスを責めるよりも、挑戦したことが称賛される
• 日常的な対話とフィードバックがある
→意見を言ってもいい、安心して話せる空気がある
• 個人の「やりたい」と組織の「目的」が重なっている
→理念が“現場の言葉”で語られ、腑に落ちている
• リーダーが問いかける存在である
→答えを与えるのではなく、考える余白をくれる
• 小さな挑戦に気づき、承認する文化がある
→ちょっとした変化を「見てたよ」と伝えてくれる
こうした組織では、社員の中にある“上位の欲求”が自然に引き出され、
「もっとこうしたい」という意志が育ちやすくなります。
「制度×関係性×意味」の三層設計で、自発性が育つ組織へ
人の欲求は、もともとすべて備わっているものです。
しかし、組織という場の中では、何が強化され、何が抑圧されるかが大きく左右されます。
だからこそ、「自発性」を引き出すには、組織そのものの設計を変える必要があります。
■ ハード(構造):「下位欲求の強化」から脱却するために
• 評価・報酬制度の見直し:成果だけでなく、挑戦・学習・提案といったプロセスを評価(制度を変えなくても運用でカバーできる事が多い)
• 意思決定構造の見直し:トップダウン一辺倒ではなく、現場の意思を活かす余地を設計
• 裁量と責任の可視化:どこまで任せるかを明示し、考えて動ける余白をつくる
■ ソフト(関係性・文化): 日々のコミュニケーションを変える
• 上司の問いかけ・承認・フィードバックの質を高める:コーチングマインドのインストール
• 変化の兆しに対する“即時承認”の文化づくり:NLP的アプローチを活用した行動変容支援
• 社員同士の対話と共感を生む“余白の場”をつくる:社内対話、ナラティブ共有、内省の習慣化
■ 意味の接続:“パーパスとWill”が重なると、人は自走する
• 組織のパーパス(存在意義)の明文化:社員が“顔色を伺う”のではなく、“パーパスに照らして判断する”文化へ
• 社員一人ひとりのWill(個人のパーパス)を引き出す:原体験や価値観を丁寧に言語化
• 個と組織の重なりを発見し、自走の起点にする:組織の未来と、個人の未来を“接続”する対話の設計
外部支援者の役割とは?
コンサルタントやファシリテーターの役割は、単に施策を導入することではありません。
構造・関係性・意味の三層すべてに働きかけながら、「育てたい文化」を内側から立ち上げていく支援者であること。
それが「変わらせる」ことではなく、
“変わりたくなる構造”と“自ら育ちたくなる文化”をつくることなのです。
著者プロフィール:
Effica株式会社 代表取締役
全米NLP協会認定トレーナー
柳下早紀
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