人は“楽をしたい”と“意味を見出したい”の間で揺れている──変化を支えるということ
はじめに:「もっと主体的に動いてほしい」の背景にあるもの
「もっと主体的に動いてほしい」「自律型社員を育てたいんです」
これは各社共通の願いです。
変化のスピードが速く、過去の成功体験が通用しない時代。
指示を待つだけでは、組織が前に進まない。
だからこそ「もっと自律的に」と願う気持ちは、とてもよくわかります。
けれど現場に目を向けると、違う景色が見えてきます。
社員たちは、別に自律(自立)したいと思っていない。上の意見に従っていれば、思考停止していられる。
むしろ「今のままでいたい」という空気すらある。
防衛本能としての「変わりたくない」
給料は安定していて、出世にも魅力を感じず、責任はなるべく持ちたくない。
言われたことだけやっていれば、大きなリスクは回避できる。
そう考えるのは、怠慢でも甘えでもなく──ごく自然な、防衛反応です。
人間の脳は、そもそも「変わらない」ことを安全と感じるようにできています。(=心理的ホメオスタシス)
新しいことはエネルギーを使うし、結果が読めないぶん怖い。
だったら今のままでいた方が安心できる。それはごく正常な反応です。
「もっと自律的に動け」と上から言い続けても、
その“変わりたくない”という本音を否定し続ける限り、心は動きません。
まずは、その気持ちがあること自体を受け入れることから始めた方がいい。
誰の中にもある、本能的な側面として。
人は「意味を見出したい」とも願っている
一方で、人にはもうひとつの面もあります。
本質的に持っている、「意味を見出したい」という感覚です。
自分の仕事に誇りを持ちたい。
誰かの役に立ちたい。
自分が生きてる意味を感じたい。
これは、マズローの欲求5段階説で言うと、最上位の「自己実現欲求」あるいはその上に追加された「自己超越(Transcendence)」の領域に該当します。
なお、先程の変わりたくないという防衛本能は、マズローの欲求、5段階説の中では下の2段に該当します。
第1段階:生理的欲求(Physiological Needs)
第2段階:安全の欲求(Safety Needs)
※組織とマズローの欲求5段階説の関連性については、また明日記事にしていこうと考えています。
量子のように“ゆらぐ”人間の内面
この両面性──「楽をしたい」と「意味を見出したい」が同時に存在していること。
私はそれを、量子の“ゆらぎ”のようなものだと捉えています。
量子物理学の世界では、粒子はひとつの状態に固定されず、
複数の可能性のあいだを“重ね合わせ”の状態で存在しています。
人間もまた、「変わりたくない」と「変わりたい」のあいだで揺れている。
どちらに振れるかは、そのときの状態や関係性、信じていること(ビリーフ)、
その瞬間に大切にしている価値観など、さまざまな条件によって変わります。
行動は“タイプ”ではなく“場面”に依存する
よく「うちの社員は受け身なタイプなんです」といった声を聞きます。
けれど、私の経験では、人の行動パターンは固定されたタイプではなく場面に依存しています。
ある人が、ある場面では主体的に動き、ある場面では慎重に様子を見る。
変化を積極的に起こすときもあれば、あえて守りに入るときもある。
それは、今の状況や信念、自分が何を大切にしているかによって変わる、
いわば“揺れ動くプロファイル”のようなものです。
iWAMのようなプロファイルも、あくまで「今の状態の傾向」を測るツールにすぎません。
人は、本質的に流動的で、ゆらいでいるもの。
だからこそ、「この人はこういうタイプ」と決めつけるのではなく、
今どんな状態にあるのか/どういう関係性や環境であれば変わるのかを見ていく必要があります。
ゆらぎの中で現れる、小さな変化を見逃さない
この“ゆらぎ”の中で、もし本人が少しでも変わろうとした瞬間があったなら──
その兆しを、見逃さないことがとても大切です。
たとえば、ふだん意見を言わない社員が会議で発言したとき。
いつも受け身だった人が、自分のアイデアを出してきたとき。
その行動が、周囲からスルーされたらどうなるでしょうか?
脳は「やっても無駄」と判断し、元の行動に戻ろうとします。
変化を起こす事は、生物にとって勇気とエネルギーが必要なことなのですから。
一方で、「それ、すごく良かったよ」「ちゃんと見てたよ」と声をかけられたら、
その行動は無意識レベルで“意味のあるもの”として記憶され、次につながっていきます。
私が教えているNLP(神経言語プログラミング)には、「フィッシュカード」という行動変容を促進するツールがあります。
イルカの調教理論からヒントを得たもので、好ましい行動が現れた瞬間に、
すかさず承認するというシンプルなしくみです。
でもこれが、行動変容の定着にとても効果があるんです。
変化の兆しをスルーしない組織文化
これは組織にもあてはまります。
何か新しい取り組みをしたとき。
変化を起こそうと動き出したとき。
その挑戦を、組織としてどう承認するか。
自分たちで言語化して意味づけるのもひとつ。
上席者が明確に「見ていたよ」と気づきと承認を言葉にするのも大切。
組織文化とは、こうした“反応の連鎖”でつくられていくものだと思います。
変化を見て、反応して、承認する。
それを繰り返すことで、「変わってもいい」「変わる価値がある」というメッセージが広がっていくのです。
結び:変化は、小さな選択の連続
人は、矛盾した感情を同時に抱えて生きています。
「変わりたくない」も「変わりたい」も、どちらもその人の一部。
そして、変化とは、劇的なジャンプではなく、
日常の“ゆらぎ”の中で芽吹く、小さな選択の連続だということ。
その芽を見つけ、育てていく。
それが、人と組織における“本当の変化”なのだと思います。
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