見出し画像

組織にコーチングを導入する前に、知っておいてほしい“リスクと覚悟”

要旨

・利害関係の中にコーチングは存在し得ない
・企業がコーチングを導入したい場合、
 型よりもマインドセットを優先するべき


はじめに

コロナ以降、社内で1on1ミーティングを導入する企業が一気に増えました。
離職防止とか、自主性を引き出したいとか、理由はさまざまです。

実際、リクルートマネジメントソリューションズの調査(2022年)では、
全体としても約7割の企業が何らかの形で1on1を制度化しているとのことです。

1on1は、上司との定期的なミーティングの場ですが、実際は業務報告よりもコーチング的な関わり方が求められるのが一般的です。
ですから、ここではコーチングと同義で語らせていただきます。

そして、私は、導入を検討する企業には慎重になっていただくことを求めたいと思います。

形や仕組みから入ったことで、現場で起きていた悲惨な状況を何度も見たことがあるからです。

ときには、“育てたい”という善意が、相手を追い詰めることもあります。
無理に自己開示を求める場になってしまったり、パワハラの温床になったり。
そんな現場にも、実際に立ち会ってきました。

だから今回は、「組織にコーチングを導入することの危うさと覚悟」について書こうと思います。
少し長くなるかもしれませんが、大事な話なので、よかったら読んでみてください。


実例:それは「育てたい」という善意から始まった

ある企業で、部長職の方が「部下との1on1を始めたい」と言い出したことがありました。
会社としての正式な制度ではなく、あくまでその方の個人的な判断でした。
当時、私はその件に対して口を出す立場ではなかったのですが、
それまでのお二人の関係性や性格を見ていて、リスクの方が大きいと感じていたので、
懸念についてはやんわりとお伝えしました。

ですが、結局
「この部下を、なんとか育成したい」
そういう想いから、毎週の1on1を始めたんです。

対象となった方は、社内でずっと「成長に課題がある」と見られていた方でした。
実際、周囲の評価としても、求められるレベルに届いていないという声が多くありました。
ただ、本人にその自覚はなかったんですね。
「自分はちゃんとやっているのに、会社がわかってくれない」と言っていた。
そういう認識のズレが、最初からあったんです。

にもかかわらず、部長は「なんとかしてこの人を成長させる」と熱意を持って、
毎週月曜、個室で1on1を行っていました。
でもそれは、部下にとって“詰められる時間”にしか感じられなかったようです。
言われるのは業務の進捗や、できていないことへの叱責ばかり。
部下のための場ではなく、呼び出されて報告し、叱られる時間になっていた。
というか、最初からそういう場として意図されていたのでしょう。
二人の関係はより悪化していきました。

やがてその部下は、上司をハラスメントで訴えました。
結果的に、上司は昇進の機会を逃し、会社への不信感から数ヶ月後に退職。
一方、部下も心を病み、長期休職を経て会社を去ることになりました。
1on1の導入から1年半後には2人ともいなくなっていました。

関係性が整っていないまま、コーチング的な関わりを導入してしまったことが1番の問題でした。
そして上司も全くスキルを学んでいないので、完全なる自己流でした。これも問題です。
1on1を形だけ導入して、運用は現場任せになっている企業や、1on1が形骸化してしまっている企業でも、こういった事は起こります。


コーチングの本質は、「関係性」と「信頼」にある

本来のコーチングというのは、クライアントが主役です。
話したいことも、クライアントが決める。
そしてその場には、信頼関係=ラポールが前提として必要です。
守秘義務があり、どんなことも安心して話せる関係だからこそ、
心の奥にある“本当の思い”がようやく言葉になります。

ですが、企業の中で「上司がコーチになる」と、その前提が崩れます。
上司には評価権限があり、育成の義務があり、指示命令も出す立場です。
そんな相手に、弱音や不安を正直に話せるでしょうか。

たとえば、「最近、やる気が出ない」と感じていたとしても、
そんなことを上司に言えば、評価が下がるかもしれない。
そう思ったら、無難なことしか言えなくなるのは自然な反応です。

でも本来のコーチングでは、まさにそこに触れることが大切なんです。
やる気が出ない。疲れている。納得できない。
そういった“言葉にならなかったもの”が出てくることで、
初めて深い気づきや変容が起きるのです。

一般のコーチングとは違うからこそ、企業に導入する際には、気をつけるべき点があるんです。


コーチング=「型」だと思っていませんか?


企業がコーチングを導入する際、「まず質問スキルを学ばせましょう」というケースが多くあります。
決められたフレームに沿った質問。
でもそれで、コーチングができるようになるわけではありません。

コーチングは、“型”ではなく“在り方”です。

関係性が築けていないまま、スキルだけを使えば、
それはコーチングではなく“詰問”になります。
相手を信じる気持ちがないままの問いは、ただの圧になります。

だからこそ、まず必要なのは「信頼の目で相手を見ること」。
相手以上に相手の可能性を信じられること。

それが、スタートラインなんです。


上司に求められる“信頼の目”と、二刀流の視点

当然上司には、「評価する目」も必要です。
今、何ができていて、何が足りないのか。
現実を見て、適切なフィードバックをすることは大事な役割です。

でもそれだけでは、人は伸びません。
同時に必要なのが、「信頼の目」です。

“今”を見て適切なフィードバックをする一方で、
“未来”の可能性を信じて関わる視点を持つこと。
信頼の目は、非言語レベルで“エネルギー”として相手に伝わります。
身体性を持って届くからこそ、言葉以上に深く影響します。

この“二刀流”のまなざしこそが、育てる上司の条件です。

実際、アメリカで行われた「ピグマリオン効果」と呼ばれる実験では、
教師が「この子たちは優秀です」と伝えられた生徒の方が、実際に成績が伸びたという結果が出ています。
(※ローゼンタール&ジェイコブソン 1968)
もちろんこの実験には再現性などの議論もありますが、
「人の可能性を信じて関わることで、相手の変化を引き出すことがある」
という本質的な示唆には、大きな価値があると私は感じています。


結論:導入するなら、徹底的に。覚悟がないなら、手を出さない

組織にコーチングを導入したい。
その気持ちは、よくわかります。
上司と部下の関係をよくしたい、自主性のある社員を育てたい――
それは、どの会社も共通して持っている願いだと思います。

でも、もしその導入が「流行っているから」「他社がやっているから」なら、
やらない方がいいです。
型だけ、仕組みだけを入れるのは、逆効果になるリスクのほうが大きい。
関係性が整っていないまま、スキルだけを使おうとすれば、
それはコーチングではなく、ただの“管理”になってしまいます。

では、どうすればいいのか。

私はまず、「型」ではなく「関わり方」から始めてほしいと思っています。
関係性を築くスキル――たとえばラポール形成の技術。
そして、相手を“信頼の目”で見るというマインドセット。
このふたつが土台として根づくまで、1on1やコーチングの「形式」は導入しなくていい。

上司が、信頼の目を持って部下を見られるようになること。
それはマネジメントというより、むしろ“生き方”に近い自己成長です。
人の可能性を、本気で信じて関われる自分になれるかどうか。
そこには時間も、覚悟も必要です。

でも、それができるようになったとき、組織は変わり始めます。

コーチングって、劇的な変化を起こす特別な手法だと思われがちです。
でも実際は、もっと地道で、地味なものです。
在り方、関わり方が変わることで、人が少しずつ変わっていく。
その積み重ねが、やがて組織を変えていくんです。

私はEffica株式会社としてコンサルに入るとき、
コーチングを導入しているというよりは、
コーチング的なコミュニケーションスタイルを組織に根付かせています。
初級と中級では、まずあり方と信頼関係構築スキル、人間を理解する力、観察する力を鍛え、
コミュニケーションにおける柔軟性を高めます。
その土台ができた段階で、初めてコーチングの質問力であったり、フレームを上級編としてお渡しさせていただいています。

どうかこの順番と優先順位を間違えないでいただきたいと思います。
時間はかかりますが、その覚悟を持って徹底的に導入していきましょう。
あるいは、大企業以外であれば、社外のビジネスコーチの力を借りるのも1つの選択肢です。


明日はコーチングとは?のそもそも論に触れていこうと思っています。

著者プロフィール:
Effica株式会社 代表取締役
全米NLP協会認定トレーナー
柳下早紀

◾️ Effica公式サイト
◾️ Effica NLP Academy 公式サイト
◾️ 体験会情報はこちら ←随時更新

▼関連記事はこちら

いいなと思ったら応援しよう!

柳下早紀@Effica よろしければ、応援お願いします!いただいたチップは、クリエイターとしての活動費に使わせていただきます!