パーパスをどう活かすか──ブランディングの3つの視点(復元記事)
はじめに──「パーパス」はなぜブランディングに効くのか
パーパス(存在意義)という言葉が、ビジネスの世界に定着し始めてから、すでに数年が経ちます。
かつては一過性のトレンドと見られたこの概念も、いまや経営の軸として定着しつつあります。
特に近年では、「パーパスを掲げる」こと自体よりも、それがいかに“効いているか”“機能しているか”が問われるようになってきました。
パーパスは、単なるスローガンでも、会社案内に載せる定型文でもありません。
それが「誰に、どんな価値を届けるのか」という社会との関係性をつなぎ直す問いであり、ブランディングにおいても極めて実用的な視点です。
本記事では、パーパスを“ブランディングの観点から見たときの3つの実用的なメリット”として整理します。
1. 顧客や投資家といった外部のステークホルダーを惹きつける
2. 若い世代(とりわけZ世代)の採用競争力を高める
3. 既存の社員の誇り・定着・エンゲージメントを強化する
この3つは、いずれもブランディングにおける「信頼」「共感」「継続性」に直結する要素です。
それぞれの章で、実例や仮説も交えながら整理していきたいと思います。
1. 共感を生む“ブランドパーパス”──顧客と投資家を惹きつける力
パーパスには、企業の内側に向けた意味づけだけでなく、外部に対して「共感される存在であるかどうか」を決定づける力があります。
その代表的な効果が、顧客や投資家といった外部ステークホルダーを惹きつけるブランディング効果です。
わかりやすい例が、Patagonia(パタゴニア)です。
この企業は創業当初から「地球環境の保護」を掲げ、商品や事業活動のあらゆる面でその信念を貫いてきました。
たとえば2011年に展開した広告キャンペーンでは、「Don’t Buy This Jacket(このジャケットを買わないで)」という大胆なコピーを打ち出し、過剰消費への問題提起を行っています。
その姿勢は一過性のキャンペーンではなく、2022年には創業者が全株式を環境保護団体に譲渡するという決断にも表れています。
このように、パーパスが明確で行動と一致している企業は、単なる顧客以上の“共感者”を生みます。
これは消費者に限らず、投資家や取引先にとっても大きな判断軸となりうる要素です。
短期的な利益ではなく、「この会社を応援したい」「共に未来をつくりたい」という文脈での関係性が構築されるのです。
いまは、商品スペックや価格の競争だけでは選ばれない時代です。
企業の存在意義そのものが、ブランド価値の核になっています。
言い換えれば、パーパスは企業ブランディングの“土台そのもの”として機能しうるのです。
2. 採用競争力を高めるパーパス──Z世代が求める“社会的意義”
近年、特にZ世代(1995年頃〜2009年生まれ)の採用現場では、「給与や福利厚生」よりも、
“社会にどんな価値を生んでいる企業か”が注目されるようになってきました。
「意味のある仕事がしたい」
「世の中の役に立っている実感がほしい」
採用支援や若年層のキャリア観に関する調査では、こうした価値観が年々強まっていることがデータでも示されています。
たとえば、Deloitteの調査ではZ世代の77%が「企業は社会的課題の解決に関与すべき」と考えており、Franksの国内調査でも7割以上が「社会的意義のある企業に魅力を感じる」と回答しています。
これは決して一部の理想主義ではなく、世代全体として“社会との接点”を重視する傾向が、確実にキャリア選択に影響を与えている証拠です。
なぜ「社会的意義」がここまで重視されるのか?
これは私の仮説ですが、背景には主に2つの要因があるのではないかと考えています。
① 日本が物質的に豊かになったこと(マズロー的背景)
戦後復興や経済成長の時代、人々の関心は「生活を安定させること」に集中していました。
しかし、現在の若者たちは、生まれたときからインフラや安全が確保された社会に育っています。
結果として、「食べていけるか」「生き延びられるか」という基盤的な欲求よりも、
「何のために働くのか」「どう社会に役立てるのか」といった、上位の欲求に意識が向きやすい構造が生まれています。
② 教育・情報環境におけるSDGs・サステナビリティの刷り込み
もう一つの背景は、学校教育や社会全体での“価値観の形成”です。
Z世代は、小中高・大学を通じてSDGsや環境問題、ダイバーシティといったテーマに多く触れてきました。
いわば、“SDGsネイティブ世代”とも呼べる層です。
就職先を選ぶときも、「どれだけ有名か」「どれだけ稼げるか」ではなく、
「この企業は社会にとって良い存在なのか」という基準を、無意識に持っている若者が少なくありません。
採用現場への示唆
こうした背景を踏まえると、企業のパーパスが「社会的意義の明確化」を含んでいるかどうかは、
Z世代に選ばれるかどうかの分かれ目になりつつあります。
パーパスは、「意味」を求める世代にとっての“共感のフック”です。
これを備えていない企業は、これからますます採用競争力の弱体化に直面するかもしれません。
3. 既存社員の“誇り”と“定着”につながる──内なるブランディングの効果
パーパスの効果は、社外に向けたメッセージや採用競争力だけにとどまりません。
むしろ、最も深く、長期的な影響を与えるのは社内、つまり“インナーブランディング”の領域です。
とくに、すでに組織の中で働いている社員にとって、
「自分がどんな価値のある仕事に関わっているのか」を明確に認識できるかどうかは、
日々のモチベーションや誇り、ひいてはその企業への定着意志に大きく影響します。
パーパスは「誇れる組織かどうか」を決める軸になる
社員がその職場に「誇り」や「意味」を見出せているかどうか。
自分の仕事が社会のどこかに影響を与えていると実感できているかどうか。
こうした心理的な充足感が、定着やエンゲージメントのベースになっていきます。
だからこそ、「なぜこの会社は存在するのか」「何のために働いているのか」というパーパスが社内で共有されていることが、働く意義の再確認につながるのです。
一方で、そうした共有がなされていない場合。
パーパスは掲げられていても、社員はそれに触れる機会がほとんどない。
業務とも紐づいておらず、自分との関係も感じられない。
そうなると、「私はいったい何のためにここにいるのだろう」という感覚がじわじわと広がっていきます。
そしてこれは、目に見える離職だけでなく、静かに熱量が失われていく“心理的離脱(いわゆるQuiet Quitting)”にもつながりかねません。
そうなった結果、社員は、給与や福利厚生といった条件だけを求める状態となります。
インナーブランディングは、企業の“内なる強さ”をつくる
「ブランディング」と聞くと、どうしても“社外に向けたイメージ戦略”だと思われがちです。
たしかに、広告やPR、広報戦略といった要素もブランディングの一部です。
けれど、実際にはブランドの強さを決めるのは、“内側”にどれだけ浸透しているかどうかです。
社員が自社のパーパスを理解し、日常の判断や行動の中で自然とその軸に沿って動いている状態。
たとえば、目の前のお客様に対して、自分で判断し、行動する際に「自社が大切にしているもの」を無意識に参照している状態。
この“内側からにじみ出る一貫性”が、ブランドに厚みと信頼感を与えていくのです。
そしてそれは、スローガンの唱和や理念研修ではつくれません。
共感・内省・対話・実践というプロセスを通じてこそ、インナーブランディングは機能しはじめます。
エンゲージメントは「意味の共有」からしか生まれない
多くの企業が「エンゲージメントを高めたい」と言います。
ですが、制度や報酬、ツールの導入だけでは限界があります。
社員が“意味”を感じているかどうか、つまり、
「自分の働きが、社会にとって価値のあることにつながっている」
「この仕事は、自分なりの信念や価値観と重なっている」
そう感じられるかどうかが、エンゲージメントの本質です。
そしてこの“意味”を言語化し、組織全体で共有するものこそが、パーパスです。
社員一人ひとりが、「自分の行動が、組織の存在意義とつながっている」と実感できたとき、
人は“雇われている”のではなく、“共に創っている”という感覚を持てるようになります。
それは、単なる定着を超えて、自律性や創造性を引き出す源となり、
結果的に強い組織文化と持続的なブランド価値を支える土台となっていきます。
おわりに──ブランディングの観点から、パーパスを再評価する
パーパスという言葉が経営の中で広く使われるようになり、一定の時間が経ちました。
単なるトレンドとしてではなく、今や多くの企業が自社のパーパスを定義しようとしています。
本記事では、そうしたパーパスの中でも、「ブランディングの観点からどんなメリットがあるのか」という実用的な視点で整理を試みました。
1. 顧客や投資家といった外部ステークホルダーとの共感関係の構築
2. Z世代を中心とした採用競争力の強化
3. 社員との意味の共有を通じたインナーブランディングと定着率の向上
これら3点は、いずれも企業が持続的に信頼され、選ばれ続けるために欠かせない要素です。
ブランディングとは、「どう見られるか」だけでなく、「何を信じられているか」を問う営みでもあります。
そう考えたとき、パーパスはロゴや広告コピー以上に、企業の根幹にあるブランドの“信頼資産”として機能しうる。
そしてそれは、役員会でなんとなく決めた言葉では、到底たどり着けない世界でもあります。
ブランドとしてのパーパスの可能性に、改めて目を向けてみてはいかがでしょうか。
本記事は、操作ミスで削除してしまったため、再アップしました。以前コメントやシェアをしてくださった皆様、本当にありがとうございました。
著者プロフィール:
Effica株式会社 代表取締役
全米NLP協会認定トレーナー
柳下早紀
公式サイトはこちら:https://effica.co.jp
▼前編はこちら
参考資料・出典一覧
■ 外部ファン獲得・ブランド信頼に関する事例
• Patagoniaの環境保護活動・株式譲渡に関する事例
出典:Investopedia「Why Patagonia’s Marketing Strategy Works」
• ブランドと社会的使命の関係性
出典:Brand the Change「Patagonia Case Study」
■ Z世代の価値観・SDGs意識・採用傾向に関する調査
• 『SDGs就活白書 2024』(Franks株式会社)
• 「サステナブル就活意識調査」(PR TIMES)
• 『Gen Z and Millennial Survey 2023』(Deloitte Global)
■ インナーブランディング・エンゲージメントに関する調査・理論
• 『State of the Global Workplace 2022』(Gallup)
• 名和高司『パーパス経営──“志本主義”の時代へ』(東洋経済新報社)
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