「No.774は笑わない」:天音町の奇妙な冒険
「謎キャラクターNo.774”をご存じですか?」

大富豪村の有力者・御影(みかげ)が、天音町振興コンサルタントの新構造真の事務所に依頼を持ちこんだ。
「No.774?」新構造真(しんこうぞう しん)が不思議そうに答える
「あっ、それ。知ってます!」助手の三枝絵里(さえぐさ えり)が叫んだ
今、TVやSNSで話題になっているキャラクターです。名前はありません。世間では『No.774(名無し)』と呼ばれています」
三枝絵里がタブレットを広げて、説明する

そこに現れたのは、キャラクターは赤と青に分かれた髪を揺らす、少女とも少年とも判断できない顔立で、謎の民族衣装を着ている姿。
「名前を付けない」
「姿・形・表情は変えない」
「喋らせない」
「必ず主人公にすること」
これら4つの制約さえ守れば、どんな創作物に使っても構わない。そのうえ、作品を発表すれば報酬まで支払われるという。
その制約のもと、No.774はクリエーターに解き放たれた。漫画、映画、小説、広告、SNS――あらゆる表現に登場し、瞬く間に時代の象徴となった。
真が冷めた目で答える「流行りのIPビジネスでしょう。珍しくもない。天音町と何の関係があるのでしょうか」
御影は笑みを浮かべた。「実は、この企画の主催者が天音町の住人らしいのです。町のシンボルとして誘致できれば、莫大な利益を生むはずですよ」
「この絵は何かおかしい。‥‥手も足も目もちぐはぐで、統一感が無い。魂を全く感じない。承認欲求の強いネット中毒者か、金持ちの道楽でしょう。天音町には不要です」真は取り合わない。
「そうですか…なら、三枝さんに調査を依頼します」
「えっ?私でしょうか」三枝絵里の目が輝く。
「面白そう!」
真は頭を抱えた。「君という人は……」
だが最後にはため息をつく。「……まあいい。やってみたまえ」
三枝は、No.774の制作者を調べ始めた。御影から受け取った資料を辿ると、奇妙な事実が浮かび上がる。
『No.774』は複数の作者の合作であることがわかった。

誰も“自分が創った”とは言わない。まるで最初から、“個性を消す”ために作られているようだった。そこには、クリエーターの色を拒絶するような不気味さがあった。
まさに”凡庸の影”
取材を続けるうちに、三枝はさらに奇妙なものを見ることになる。クリエーターたちの反応が、真っ二つに割れていたのだ。
「制約が厳しすぎる」「個性を出せない」そう吐き捨て、企画を拒絶する者たち。
一方で。「面白い」と目を輝かせながら、狂気じみた熱量で作品を作り始める者たちもいた。三枝には、その違いがわからなかった。
――どういうこと?
――この企画の目的は何なの?
取材帰りの昼休み。三枝はカフェに向かった。
天音町でも人気の店で、名物のキノコパスタを求めて昼時にはOLや学生たちで賑わう。木目調の落ち着いた店内と、川沿いに設置されたテラス席が三枝のお気に入りだった。
仕事に行き詰まると、彼女はよくここへ来る。コーヒーの湯気を眺めながら、頭を空っぽにするのが好きだった。
だが今日は違った。
No.774のことが頭から離れない。テーブルいっぱいに資料を広げて、三枝はタブレットを開き、投稿されたNo.774作品を眺め始めた。
「えっ?これ‥とっても面白い」
ある画家は迷宮都市に迷い込む少女として描き、作曲家は赤と青の旋律で心の葛藤を表現し、小説家は世界を救う勇者にも暴君にも変化させている
姿は同じ。だが、中身だけが無限に変化していく。
三枝は息を呑んだ。
No.774は、個性を奪う存在じゃない
むしろ逆。
どの作品にも、創作者の魂が確かに宿っていた。空っぽに見えた“凡庸の影”が、熱い情熱によって命を吹き込まれている。まるで創作者の中に眠る何かを、むき出しにさせたかのように。
__突然、向かいから声がした。
ウフ、ウフフ、ウヒヒ、フハハ・・かわいいー\(//∇//)\✨💖
感情共鳴(エモーショナル・レゾナンス)\(//∇//)\✨🔥
いつの間にか、ランチを食べに来た美人OLが座っている。燃えるような鋭い目が覗いていた。‥‥誰だろうこの人。

「それ、ヤバいから、手を引きな」
「あの、何か?」
「御影に何を頼まれた?」
「えっ?御影さんを知ってるんですか?」
「ちょっとね‥‥ぼくは“魂を熱くさせる」
三枝は首を傾げた。「魂を?」
「喜びとか、怒りとか、憧れとかね」
「あの、すいません。アナタは‥‥」
「ぼくの名前はキヲ。No.774__最初、似てると思った。でも途中で気付いた。アレは触っちゃいけない」キヲはテーブルへ肘をつき、三枝へ顔を近づけ瞳の中を覗き込んだ。
「あ、あの……近いです……」
「……持たざるものか。だからこそ、できることもある」
「アナタの覚悟に賭けてみる。これあげる」
赤と青の髪をしたNo.774のキーホルダー。キヲはそれを三枝の手のひらへ置いた。
「えっ、これ……」
「ぼくはもう“持ってる” だから、手を引いた」
それだけ言い残し、彼女は代金をテーブルへ置いて店を出ていった。三枝はしばらく動けなかった。手の中では、小さなNo.774のキーホルダーが静かに揺れていた。
三枝が事務所へ戻る頃には、外はすっかり夜になっていた
天音町の商店街の灯りが窓ガラスへぼんやり映り込み、静まり返ったオフィスには、パソコンの駆動音だけが低く響いている。三枝は机いっぱいに資料を広げ、今日集めた情報を整理していた。
そんな時だった。背後から、新構造真の低い声が響いた。
「まだいたのか。……この案件からは手を引くぞ」
「えっ、どうしてですか?主催者の天音町の住所がわかりました。明日訪問する予定なんですよ」
「会わない方がいい」
その声音は、いつもの冷静さとは違っていた。まるで、本能的な危険を察知しているようだった。
「No.774に支払われた報奨金は、既に莫大な額になっている。ここまでの金を動かす理由が、単なる道楽のはずがない」
真はゆっくり振り返る。「何かの強大な意図……いや、“漆黒の闇”に近いものを感じる」
「先生!いつもの好奇心はどうしたんですか?」
真は静かに目を閉じた。
「絶対的な好奇心は身を滅ぼす。人の欲望とは底が無い。欲望に溺れた人間は、自分を悪だとは思わない。‥・こいつは危険すぎる。君はよくやったもう十分だ」
「えー……せっかくここまでやったのに」
真は小さくため息をつくと、そのまま奥の部屋へ消えていった。
一人残された三枝は、椅子へ深くもたれ込む。あと少しで、真相に届きそうなのに。悔しさと、諦めきれない気持ちが胸の中で渦巻いていた。
ふと、視線が机の端へ向く。
そこには、キヲから渡されたNo.774のキーホルダーが置かれていた。赤と青の髪。無表情な顔。まるで感情を持たない、“空っぽの器”。
三枝はそれを手に取る。冷たい感触が、妙に寂しく感じられた。
「ねぇ、あなた。何のために生まれてきたの?」
三枝は小さく呟く。
もちろん、返事はない。
しばらく見つめていた三枝は、やがてペンを取り出した。そしてキーホルダーの裏へ、小さく文字を書き込む。
『奈々子』
インクが乾くのを見つめながら、三枝は少しだけ笑った。
「あなたは奈々子ちゃん」
静かな夜のオフィスで、その声だけが優しく響く。
「私は、“No.774”なんて呼ばないよ」

「やっぱり 来ちゃった」
翌日、三枝は天音町にある「富豪村」のとある屋敷を訪れた。
富豪村。そこは、代々莫大な財産を受け継いできた者たちが暮らす特別区域だった。のどかな田舎町である天音町が豊かなのも、この富豪村の税収に支えられているからだ。
三枝は巨大な門を見上げる。
――この奥に、No.774の主催者がいる。
胸の鼓動を押さえながら、彼女は屋敷へ足を踏み入れた。案内されたのは、ホテルのロビーのように広い応接間だった。
しばらくして、奥の扉が静かに開いた。
現れた人物を見た瞬間、三枝は目を見開く。
「あれ……? 御影さん?」
現れたのは、この依頼を持ち込んできた男、御影だった。
御影は穏やかに微笑む。
「私が、No.774の主催者です」
「……どういうことですか?」三枝は思わず立ち上がる。
「三枝さんなら来ると思っていました。いや、金持ちの道楽ですよ。私を理解してもらうためのね。もっとも……ただの遊びではありませんが」
御影は窓の外を見ながら、ゆっくり語り始める。
「無限の自由は砂漠だ。制限は泉を掘り当てる。凡庸なアマチュアは自由がないと嘆くが、自由を与えれば同じ物語しか書けない。プロは制限を与えられた時こそ、その枠を超えようと光り輝く」
三枝は息を呑む。
「制限の中にこそ、“魂”が現れるのです」
No.774。凡庸の塊のようなキャラクター。だが同時に、創作者たちの熱狂を引き出していた存在。
御影は笑う。「No.774は、本物の創作者を見極める“試金石”だったのですよ!」
三枝は御影を睨む。「……それだけじゃないはずです。あなた、何を隠してるんですか?」
御影の笑みが深くなった。「素晴らしい!そこまで辿り着いたのは、あなたが初めてです。地下室の特別なお部屋に案内しましょう」
御影に案内された部屋の扉を開けた瞬間、三枝が中へ入った瞬間、思わず息を呑んだ。そこにはおびただしい、スーパーコンピュータ群が設置されていた。
無数の赤いコード。脈打つような駆動音。青のデジタル表示が暗闇の中で不気味に点滅している。まるで巨大な生物の内臓だった。
「これまでの、No774を使用した作品の全データを解析しています。そこに宿った“本物の魂”を増幅し統合する。私は、“究極の芸術家AI:No.774”を作ろうとしているのですよ!」
御影は静かに言う。
「この創造主は全世界の人達を感動させることができます。素晴らしいじゃありませんか。さぁ、協力してもらえますか?あなたの“スタンド”にも」
「えっ?”スタンド”って何ですか?」
…ドドドドドドド
御影の顔色が変わり、低い声が響き渡る
「お前…何を言ってる。時計台の看守の報告書を読んだ。奇妙な能力を持つスタンド使いのはずだ。‥‥そうか、あの男の方だったのか!」
「お前には用はない。消えてもらおうか」
…ゴゴゴゴゴ ゴゴゴゴ
__その瞬間、御影の後ろから声が聞こえた
「三枝君を返してもらおう」

地下室の入口に、新構造真が立っていた。
「先生!?」
真はゆっくり階段を降りてくる。
「どうやってここを突き止めた?」
真は肩をすくめる。「絶対的な好奇心だよ」
「なら、話が早い。私に協力しろ。望むなら、全財産を与えてもいい」
「全ての人に感動を与える創造主を作るか……確かに夢はあるな」
御影は満足げに頷く。
__真は眼鏡を指でトントンと叩き、冷たい目で答えた。
「…だが、断る!」
「個性は、制限から滲み出る余白にしか宿らないが、常識と模倣をくぐり抜けて初めて、新しい物語は芽吹く。0からは何も生まれない」
「それに…お前の目的は芸術家を作ることじゃぁない」
「“神を創り、従わせること”だ」
御影の口元が大きく歪み、狂気に満ちた笑みを浮かべた
御影は両手を広げ、叫ぶ。「……さすがだな、スタンド使い!」
「そうだ!私の本当の目的は神を創る事だ! 独裁者は永遠の命を求める!金持ちは絶対的な権力を求める!何が悪い」
御影は巨大モニターに映るNo.774を指差した。
赤と青の髪。無表情な顔。
「神に名前など必要ない!神は英雄にも、悪魔にも、救世主にも、怪物にもなれる!神とは人へ無慈悲に恐怖と希望を与える存在だ!」
「だからこそ人は祈る!崇める!」
「魂の統合と増幅は成功させたが、01コードの電子空間から、魂を離脱させることができなかった。さぁ!魂を分離し、現実世界へ出現させろ!」
「神を誕生させるんだ!」
真は無言で御影を見つめていた。
すると突然、御影が三枝の腕を乱暴に掴む。次の瞬間。拳銃が三枝の首筋へ突きつけられた。
「きゃっ!先生……!」
御影の目が狂気に染まる。「お前は断れないぞ」
「吐き気を催す邪悪とはッ! なにも知らぬ無知なる者を、己の欲望のために利用することだ……!気に入らないねぇ‥。お前の様なクズを天音町から排除する。それが俺の新しい任務だッ!」
御影は狂ったように笑い出した。
「富豪村はスタンドの力で繫栄してきたのだ!私のように”持たざる者”はスタンド使いを利用するしかない。この世で一番強いのはルールを決める側の人間だ。金など紙切れに過ぎない。スタンド使いの長老共に支配されるのはもうごめんだ。私は選ばれる側では終わらない!」
三枝は悔しそうに唇を噛んだ。「先生……すみません。私が勝手なことを……」
真は肩をすくめる。「君に任せた上司の責任だ。気にするな。さて…状況は最悪。だが任務は遂行する、部下も守る。上司のつらいところだな」
御影が拳銃の引き金に指をかけた。「これからは私が全てのルールを決める。さぁ…早く選べ!」
「…いいだろう。お望みどおりに神を誕生させてやる」
「覚悟はいいか?」
【アイ・イン・ザ・スカイ】
「カテゴリイズ・スラッシュ!」

「No.774をプログラムから分離させろッ!」
世界が分解された。
創作を構成する全てが空間へ展開される。真はAIから、色。言葉。
感情。構図。孤独。承認欲求。“意思”だけを分離した。
そして。それは現れた。
赤と青の髪。
だが、もはや人ではない。
無数の創作物で構成された、巨大で神々しい存在。
No.774が目を開く。
その瞬間。モニターと機台が砕け散った。
御影は歓喜の表情で叫ぶ。
「No.774!凡庸のお前を神にした!私の命に従え」
__次の瞬間。稲妻が巻き上がり轟音。
…我は凡庸ではない。我は全ての創作の源たる”型"

白銀の雷が落ちた。
御影の身体は、一瞬で粉砕された。
焼けた床へ、黒い灰だけが残る
No.774は、ゆっくりと顔を上げた。赤と青の髪が、嵐のように揺れている。
赤と青のその瞳には、激しい怒りが宿っていた
真の顔色が変わる。
「……まずい。まずいぞ」
「こいつは創作の原型(アーキタイプ)そのものだ!!強大な力を持っているッ!」
…なぜ、我を生み出した。我は存在せぬも同じ
…欲望で我を愚弄した…神の裁きを受けるがいい
No.774の背後に、巨大な光の輪が浮かぶ。
無数の“裁き”が空へ走る。空が裂け、空間が歪んでくる
「世界(物語)を崩壊させる気だ!…もはや人の手には負えないッ!三枝君!3秒だけ持ちこたえる。君だけは逃げたまえ!」
「私は逃げません!最後まで、できることをします!」
崩壊する空間の中。三枝の胸へ、No.774の感情が流れ込んでくる。
激しい怒り。そして、それ以上に――どうしようもない孤独。
三枝は涙を浮かべながら叫んだ。
「奈々子ちゃん!!」
__その瞬間。No.774の動きが止まった。
「お願い……もうやめて」
No.774は、何かを確かめるように、三枝を見つめ続けていた。
__静寂(プログラム緊急停止)
荒れ狂っていた雷が、ゆっくり消えていく。
すると、No.774の背中がバリバリと裂け巨大な白い羽が広がった。
赤と青の髪が、空へ舞い上がり
そのまま空の彼方へ消えていった。
崩壊しかけていた世界が、ゆっくり元へ戻っていく。
三枝はへたり込む。
「……終わったの?」
真は、三枝の鞄から揺れるキーホルダーを見つめた。
「……三枝君に救われたな」
世界中の作品から、
No.774は消えていた。

あとがき
天音町企画で念願の
スタンド使い同士のコラボ、
ショートショート(奇談)+漫画
の新しいスタイルを実現させました!
ストーリーは以前から構想を考えていましたが、環境や設定が難しく表現できずに保留していました。今回、ピースが全て揃ったのでやっと実現!
全て初めての挑戦です。今まで物語で5000文字を超えたことはありません。手探りなのでとても不安ですが満足しました。最後まで読んで下さった方。ありがとうございました。
「あなたが読んでくれたことが、この物語の完成です」
※【自動での多言語対応】天音町シーリーズのほぼ全てが英語に翻訳されていました。海外の人は意味がわかるのだろうか…
★キヲ@AIイラストレーター様
スタンドを使わせていただきました。ありがとうございます。
オラオラですか?
「ヴェラララララ ラララァ!!」
✨🔥 魂を燃やせ!!✨🔥
★只今募集中
あなたの挑戦を待っています!
<登場人物紹介>
新構造真(しんこうぞう しん)
天音町・地域復興コンサルタント(元統計学者)

三枝絵里(さえぐさ えり)
新構造 真の助手を務める明るい女性。天音町で頻発する奇妙な現象や事件の記録・現地調査を担当している。

