『一人だけど独りじゃない。少しずつ、一人で進もう。』
最近患者Aさんは私とすれ違う時、
目を合わせずピシっと直立し90度お辞儀をして、
そのままスタスタ歩いて行ってしまう。
彼の中で今はこれがブームなのかもしれない。
患者Bさんは少し元気になったようで、
私に「頑張ってください」と応援してくれた。
私は「頑張ります。ありがとうございます。」
と言った。
午前中患者Cさんの脳波をとった。
電極をつけている最中、
私の目をずっとみて追っていて、
ずっと目があってる感じがして面白かった。
シンさん(上司)に
電極のつける位置もOKもらえて、
「もう一人でも取れると思うわ」
とお墨付きをもらえた。
私が脳波の電極をちゃんと
決まった位置につけられてる実感がなくて、
ちゃんとできてるか不安だと相談したら
「ある程度あっていれば大丈夫。
心電図もちょっとずれてても
取れないことはないじゃない。
だからそんなに気にしないで
慣れでできるようになってくるから」
と教えてくれた。
今まではシンさんがサポートしてくれていたが、
だんだん少しずつ一人でできてきるように
なっている気がする。
午後から患者Dさんの心エコーで
左室収縮能の計測をした。
シンさんに見守られながら、
はじめて一人でやってみた。
時間はかかってしまったけど
いい感じにできた気がする。
シンさんは主治医の先生に
「ユウ先生(循環器の先生)が診る前に、
私たちで一度検査して
答え合わせをする段階なんです」と説明し、
看護師さんにも同じように伝えていた。
患者さんには、こんなふうに話していた。
「明日ね、心エコーって検査をするんだけど、
やったことある?
その前に、ダブルチェックのために
私たちが少しだけ見せてもらいたいの。
今回はお金はかからないからね。
検査させてもらっていい?」
ちなみにユウ先生もその声掛けに了承している。
シンさんはほんとうに
患者さんとの接し方が上手で
見習わなければいけないところはたくさんある。
脳波の時も、
「お風呂って何曜日なの?一人で入れるの?
よかったじゃあおゆでこのベタベタ
おちるからしっかり落としてね。」
とにかくやさしい。
心エコーの結果をまとめた。
所見の書き方をシンさんが見せてくれたので、
それを参考にしながら書いた。
帰りに病棟へ寄ると、
脳波を取った患者Cさんが
「脳波〜、どうだった?」
と聞いてきた。
私はこう答えた。
「今度、脳波を読む先生が
しっかり見てくれるので、
それまでは私からは何とも言えないんです。
私たちは“取る”役割なので。
先生が見て、何かあったら
教えてくれると思います。」
すると患者さんは、
「わかりました。ご苦労さまです」
と言ってくれた。
シンさんやユウ先生の、
迷いのない検査手技を見ながら、
「次は自分の番だ」という感覚が、
少しずつ現実味を帯びてきた時期でした。
見ているだけではいられない。
そろそろ本当に、
自分の手でやれるようにならなければならない。
そう肌で感じ始めていました。
本当に一人になったとき、
もしトラブルが起きたら、
どう対処すればいいのか。
常にそんな緊張感がつきまとっていました。
なんとかやりきれたときの達成感と、
終わったあとに訪れるホッとした気持ちは、
今でもはっきり覚えています。
【今日の学びポイント】
完璧でなくても“成立する幅”を知ることが、
現場の安心になる
多少のズレが許容される理由を知ると、
怖さが実務に変わる。
不安を抱えたままでも、人は一歩前に進める。
✔︎人は、見て学ぶ時期から、
手を動かして学ぶ時期へ移行する瞬間がある
その境目は静かだけれど、
内側では大きな変化が起きている。
✔︎不安や緊張は、成長の手前に必ず現れるサイン
怖さがあるのは、無理をしているからではなく、責任を引き受け始めている証拠。
✔︎「できた」という実感は、あとから自信として残る
そのときの達成感や安堵は、
次に進むための確かな支えになる。
『はじめてのひとり業務』
―焦った時ほど、教わる姿勢が大切―
『不安は“予測不能が嫌い”なだけ』
―安心を与えるには、自分の基礎が固まっていることが前提―
『はじめまして。精神科に勤める臨床検査技師ですー今を生きる“あなた”へー』
※登場する人物や会話は、心の記録をもとにした創作です。
