【第三章】ガードレールに激突した日:私が「リセット」を決意し、アートの世界に足を踏み入れた瞬間
はじめに:楽しさの果てにあった虚無感
前回の記事では、私が保険会社から映像制作の世界へ飛び込み、仲間たちと刺激的で「堕落」した日々を送っていた様子をお話ししました。それは間違いなく楽しい時間でした。でもその楽しさの裏側で、私の心と体は静かに悲鳴を上げていたのです。
クライアントに合わせ、昼夜を問わず働く不規則な生活でした。毎日のようにファストフードを口にし、体重は増え続けます。「自分は本当に社会の役に立っているのだろうか」という虚無感が、心の中で渦巻いていました。「このままではいけない。」と漠然とした焦りを感じながらも、私は日常に流されるままでした。そんな私に、あまりにも強烈な形で「警告」のサインがあったのです。
運命の交差点:深夜のドライブと突然の衝撃
ある日の深夜、打ち合わせを終えて車を運転している時のこと。疲労はピークに達していました。次の瞬間、私の意識は途切れ、気づいた時にはガードレールに激突していました。
「疲れて車運転してて、私寝ちゃったんですよね。結構ガードレールに思いっきりぶつかって。車は大破しました。」
先輩から15万円で譲ってもらった、頑丈な作りの車でした。車は見るも無残に大破したものの、私自身は奇跡的にも無傷で済みました。一歩間違えれば命を失っていたかもしれません。その事実を前に、私はただ呆然とするしかありませんでした。
「このままじゃ、まずい」:無傷の体で誓った人生のリセット
事故の衝撃は、私の心に深く突き刺さりました。「これは単なる偶然ではない。このままの生活を続けてはいけないという、天からのメッセージなのだ」と直感的に感じたのです。
「このままじゃまずいなって、やばいなと思って。自分の人生このまま行ったら・・・とふと思ったんですよね。それで自分をリセットしたくなって」
私は会社に行き、先輩にすべてを話しました。「すいません。ちょっと一回自分をリセットしたいんで会社をやめさせてください」。
先のことは何も考えていませんでした。ただ、この堕落した生活から抜け出し、自分自身を立て直さなければならない。その一心でした。今思えば、あまりにも勝手で、先輩には申し訳ない気持ちでいっぱいです。でも当時は、どうしてもリセットしたかったのです。
新たな扉:父の画廊と「絵の面白さ」との出会い
会社を辞めた私は、父が経営する画廊「ギャルリー江夏」でアルバイトとして働き始めました。それが、私とアートとの本格的な出会いでした。
それまで泣きながら連れて行かれていた美術館とは違い、そこはアートが「商品」として躍動するリアルな現場でした。お客様が絵を買い、そして売れていきます。そのダイナミズムの中で、私は初めて「絵の面白さ」に気づいたのです。
特に、大きな絵が飛ぶように売れていく光景は圧巻でした。バブル経済の熱気がまだ残っていた時代。アートが投資の対象としても注目され、多くの人がその価値を信じていました。私もその熱気に触れる中で、一枚の絵が持つ力、人の心を動かすエネルギーに、日に日に魅了されていきました。アルバイトから正社員になり、私は本格的にアートの世界に足を踏み入れたのです。
時代の波:バブルの熱狂と、その後の静けさ
その熱狂は長くは続きませんでした。バブルが崩壊し、時代は大きく変わります。父の会社も、不動産の失敗などが重なり、少しずつ傾き始めていました。
あの華やかな日々は、まるで夢だったかのようでした。それでも私の中に灯ったアートへの興味の灯は、消えることはありませんでした。むしろ、時代の大きなうねりを目の当たりにしたことで、私はアートの本質的な価値について、より深く考えるようになっていきました。
この事故と、父の会社での経験がなければ、今の私はありません。人生のどん底で手にした「リセット」の機会が、私を新たな道へと導いてくれたのです。
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