「HRBPが注目される今、改めて問いたいこと」― 理論と現場、約20年間の実践から見た本質
はじめに:HRBPが注目される今、改めて問いたいこと
近年、日本でも「HRビジネスパートナー(HRBP)」という役割が注目され、戦略人事の担い手として期待が高まっています。多くの企業が導入を進めているものの、その実態は企業によって大きく異なり、「名称はHRBPでも、実態は従来の人事担当の延長線」というケースも少なくないようです。
HRBPの本質のひとつとして「人と組織の戦略的な課題解決を通じて事業や組織の成長に貢献すること」にあります。経営戦略・事業戦略と人・組織の接続点に立ち、経営と現場の間を行き来しながら共に未来を描き、その実現に向けて変革を伴走する存在と言えるのかもしれません。
私は9年間の営業職の経験を経て、2005年から独系製薬会社の採用チームでHRのキャリアをスタートさせました。その後、2008年に社内で新設された HRBP部門のManagerとして「HRBP機能立ち上げ」に関わる機会を得ました。まだ「HRBP」という言葉さえ国内では一般的でなかった時代です。そこから、米系消費財企業の日本法人HRBP責任者、さらには、英系消費財企業の日本法人HR責任者としての経験を重ねてきました。また、2023年3月には自身の会社を設立し、「組織開発・戦略人事・コーチング」を主軸に、国内外の複数企業に日々伴走をしております。その中には、「HRBP機能立ち上げ」や「現役CHROやHRBPの方々の伴走」の依頼も複数ございます。
本記事では、HRBPに関する「理論」も少し交えながら、私自身の「実体験」から得た学びや視点を主軸に、今だからこそ伝えたい「HRBPの本質」について綴っていきたいと思います。
第1章:HRBPとは何か ― 定義を再構築する
「HRBPとは何か?」という問いに対し、明快な答えを持つ方はどれほどいるでしょうか。人によっては「経営に近い人事」「戦略人事の実践者」といった言葉で語られるかもしれませんが、それだけでは不十分かもしれません。
多くの企業が参考にしているのは、デイビッド・ウルリッチ(Dave Ulrich)氏によるモデルです。そのモデルでは、戦略人事の役割は以下の4象限に分類されます:
1. 戦略的パートナー:経営戦略・事業戦略と人事戦略を整合させる
2. チェンジエージェント:組織変革の推進者となる
3. 従業員のチャンピオン:従業員の声を代弁し、働きがいを向上させる
4. 管理のエキスパート:制度設計や人事業務の一貫性や効率化を担う
このフレームワーク自体は非常に有用ですが、そのまま当てはめると違和感がある日本企業も多いのが現実かもしれません。特に、HRBPが「何を任され、誰に何を期待され、何を評価されるか」が曖昧なままのケースでは、その存在価値が見えづらくなってしまいます。
私自身の経験にはなりますが、最も重要なのは「HRBPは役職という枠ではなく、経営と現場の間に立つ “スタンス” である」という点に尽きると思います。世の中や環境の変化・ニーズをアジャイル(俊敏)に察知し、人と組織に真正面から向き合い、ビジネスの成否に戦略性を持って介在する覚悟を持つ。これはどの企業でも、どの国においても共通するHRBPの本質だと確信しています
次章では、私が初めてHRBPに就いた2008年、独系企業での経験を振り返りながら、「HRBPの原点」についてお話しします。
第2章:HRBPとしての原点 ― 「事業の一員」としての衝撃
2008年、採用チームから異動し、私が初めてHRBPとしてのキャリアを歩み始めたのは、ある独系製薬企業でのことでした。当時はまだ日本国内において「HRBP」自体がほぼ浸透しておらず、その言葉にピンと来る人もほとんどいなかった時代です。しかし、その役割には、従来の「人事担当」とは全く異なる視点と責任が伴いました。
それは、“事業側の本部長・部長陣とともに意思決定の場面に戦略的に関わる” という、まさに「戦略人事」の原点とも言える体験でした。
人事が“事業側の経営会議に出る”という良きカルチャーショック
配属初週、私は正直戸惑いました。新任HRBP Managerである私が、事業側の戦略会議に出席することから始まりました。当日の議題は、売上や利益、将来のポートフォリオ、マーケット戦略など、明らかに “ビジネスそのもの” の議論。
その中で、人事が何を語るのか?
人事としての情報は持っている。採用や研修の実務経験と制度やポリシーの一定の知識もある。でも、それをどう「事業の言葉」に変換して語ればよいのか分からない。この時に強烈に実感したのが、「人事の専門性だけでは、HRBPは務まらない」ということです。
「機能」ではなく「組織構造や背景」に目を向ける
それまで私は、「機能」起点で物事を推進する人事経験を積んできましたし、実際、多くの事業会社の人事部門はそうだと思います。採用や異動調整、社内研修、制度運用など、機能単位での対応が多かったのです。ところが、このHRBPという立場においては、そのような「機能分断」では事業側との議論はかみ合いません。
たとえば:
営業部の生産性が落ちている → 単に “人財が足りない” のか、“組織設計が不適切” なのか?
若手が辞めていく → “上司の育成スキル不足” なのか、“社内キャリアの道筋が不透明で機能していない” のか?
こうした「問い」を立てながら、事業側と並走しながら解いていくのが、HRBPの仕事でした。
つまり、「表面的な現象」ではなく「構造」、さらには「背景」や「意図」を見抜く視点が問われる。そして、そこに対して、人事としての仮説と想定される解決の選択肢を提示し、先回りしてアジャイルに(俊敏性持って)動き、時にはヘルシーコンフリクト(健全な衝突)を意図的に生み、議論を衝突させたうえで、アラインメント(双方向のすり合わせ)を取る ― 約17年前の私のHRBPとしての日々は、この連続でした。
「誰かの代弁者」ではなく、「ビジネスの共同責任者」
私が特に印象に残っているのは、「遠藤さんは人事とはいえ、うちの事業の拡大と成長にもっとコミットしてほしい」と言われたことです。当時の私は、「人事=支援部門」という認識をどこかで持っていました。でもその言葉は、そんな私の "スタンス" を大きく変えるきっかけになりました。
HRBPとは、「人事から現場を支えるだけの人」ではなく、「現場と共に、事業と組織の成長を共に成し遂げるパートナー」なのだと。もちろん、事業部長のように最終KPIを背負うわけではありません。しかし、事業が成果を上げるために、人・組織・カルチャーといった面で戦略的にどう貢献するか、その “自分の打席” を見極めて、責任を持ってバットを振ることが求められていました。
HRBPとしての “覚悟” の原点
この2008年に始まった経験は、私にとって「HRBPとは何か?」を肌感覚で叩き込まれた時期でした。
ビジネスの話が分からなければ、戦略の議論に加われない
組織の構造を理解しなければ、打ち手が打てない
アジャイルに動けないと、相手にされない
現場の信頼がなければ、変化は起こせない
人事の知識だけでは到底足りず、「経営と事業への理解」「対話力」「戦略性」「アジリティ」「日頃からの関係構築」「世の中への関心」など、HRBPに必要なマインドセットとスキルセットは、極めて総合的かつビジネス的だと気づかされました。
ここで私は、HRBPとしての “覚悟” を持つようになりました。それは、私にとって、“ビジネスパートナー” として「 “人事” を主語にすること」から脱却する意識改革でもありました。
次章では、その後私が経験した、米系企業でのHRBP責任者としての試行錯誤と成長について綴っていきます。
第3章:HRBPの “両利き” 実践 ― 米系企業での挑戦と成長
2008年にHRBPとしての原点を体験後、私がヘッドハントを受けて飛び込んだのは、米系高級消費財企業でした。始めの2年間は、日本全国のリテールビジネスのHRBP責任者、その後は、Corporate Functions(本社コーポレート機能)のHRBP責任者として、日本法人本社全体とAPAC(アジア太平洋地域)本社のHRBPの責任を持ちました。それは、国境・文化・言葉の視点だけではなく、営業・マーケティング・財務・物流・IT・デジタル、そして人事といった機能の視点含めて、様々な観点での「ボーダーレス」の視座の高さが求められるものでした。
この経験は、私にとって「HRBPとはボーダーレスに何を担えるのか」「どこまで経営と事業に戦略的に介在できるのか」を再定義する機会となりました。
“グローバル” と “現場” の狭間で見えたこと
グローバル企業では、国・地域横断で標準化された施策やポリシーが多く存在します。制度やシステムなどが整っているからこそ、その精度や一貫性が評価される一方で、ローカル(各国)との距離や乖離も生じがちです。特に、APAC地域においては、一見、文化が近しいように見えがちですが、風習や働き方の多様性が極めて高く、「制度や施策を運用するだけの人事」では各国の現場に響かない事象を多々見てきました。
たとえば、グローバルで策定されたタレントマネジメント施策をAPAC全体で展開しようとした際、日本の現場では「管理職の兼任が多く、人財育成にまで視点が回らない」といった声が、そして、ある国からは「キャリアを高めることがなぜ大切なのかが浸透していない」というフィードバックが返ってきました。
このときに痛感したのが、“施策の単なる翻訳者” ではなく “背景・意義を含めた橋渡し役” になることの重要性です。
つまり、グローバル共通施策を、「手段」ありきで進めることや、単に言葉の面で変換するのではなく、相手の文脈や現場のリアルを捉えたうえで、「目的」を明確にし、戦略に紐付く施策・制度を「意味あるもの」にして届けること。それがHRBPの大切な役割であり、存在意義だと実感したのです。
HRBPは “問い” で組織を動かす
私が心がけていたのは、「答え(⇒ 人事からの一方通行になりがち)を持ち込むこと」ではなく、「問いを投げかけること」でした。
・なぜこの取り組みは現場に根づかないのか?
・その課題の背景にある構造やマインドは何か?
・このマネージャーは何に迷い、何を躊躇しているのか? etc.
そうした「問い」を通して、事業の部門長やマネージャーとの1on1や組織レビューの場で丁寧に掘り下げていくことで、現場の本音や組織の “沈黙” が浮かび上がってくるのです。
私が関わったある事業部門では、「タレントの定着率が低い」「マネージャー層が弱い」という課題が表面化していました。しかし、それは単なるスキルの問題ではなく、「評価のサイクルにおいて、目標設定時の双方向のすり合わせが不明瞭で、メンバー目線での透明性と納得性が伴っていない」「キャリア対話が双方向になされておらず、個人の持ち味の発揮度や社内でのキャリアパスが曖昧」「“挑戦” を言葉では推奨する一方で、現場では失敗を許容する組織風土が根づいていない」といった、Root Cause(根深い原因)が随所にありました。
HRBPとして、私は「問い」を立てることから始め、構造的な課題を可視化し、APAC各国のHRBPの同僚たちと毎週のようにVC(Video Conference - 当時はTV会議)で情報共有や議論を重ねました。そのうえで、HRBPが協働し、「期待されるマネージャー像の再定義」「Valueに沿った行動評価の再定義」「対話型1on1の導入」「成長実感と貢献実感につながるレコグニション(称賛)機会の導入」など、単に手段を講じるのではなく、「目的」を基軸とした打ち手を講じました。
“成果” と “価値観” の両立をHRBPが導く
その時に所属していた米系企業では、圧倒的な成果主義が前提にある一方で、「どのように達成したか(How)」も公平に見る視点が問われました。数字を達成していても、組織を破壊しながらの成果は評価されない ― そのバランス感覚が、非常に大胆かつ繊細にマネジメントに求められていました。HRBPとして、そうした “マインドセットと行動面の評価” においても、仕組みづくりと介入の担い手として大きな役割を担いました。
私は当時、APACでのValue評価制度設計にも関わりましたが、単に表面的なコンピテンシー定義ではなく、「この会社のマネージャーとして、何を大切にしていてほしいか」の "期待値" を丁寧に言語化し、現場が腹落ちできる形にすることに腐心しました。
また、タレントレビューやサクセッションプランでは、単にハイパフォーマーを可視化するだけでなく、「5年後・10年後の組織の未来に必要な人財像」を描き、それに対して今何を仕掛けるべきかを共に考える。HRBPとして「経営と未来を語る」貴重な機会でもありました。
“両利き” の視点がHRBPを強くする
ここで私が得た最大の学びは、「経営と現場」「制度と文化」「グローバルとローカル」といった相反しそうな観点を同時に捉え、"双方を行き来するバランスを持たせた両利きの視点" をHRBPが持つことの重要性です。
どちらかに偏ると、現場に寄り添いすぎて戦略が見えなくなったり、制度を整えすぎて誰も使わなくなったりします。HRBPは、常に柔軟性を持ち、双方のバランスを行き来し、対話を通して接点をつくり、登場人物に合わせた言葉で「伝わること」を意識した翻訳をし、融合させていく存在。その正解の無い難しさと面白さを、この米系企業での経験は教えてくれました。
次章では、続く7年間にわたる英系企業での日本法人HR責任者としての実践を通じて、「HRBPを “機能” として根づかせる」側の視点について掘り下げていきます。
第4章:日本法人責任者としての7年間 ― “HRBP文化を根づかせる” 視点
2012年11月からの約7年間、私は2つの英系企業(FMCG -日用消費財- 企業とコンスーマーテクノロジー企業)において、日本法人のHR責任者の役割を務めました。この期間は、単にHRBPとしての “実行者” であることにとどまらず、「HRBPそのものを組織に根づかせる」というもう一段上のチャレンジが問われるフェーズとなりました。
HRBPとは “配置” ではなく “浸透” である
多くの企業で見かけるのが、「HRBPを設置しました」という状態。しかし、HRBPという機能や役割を作っただけでは何も変わりません。むしろ言葉だけが走ったり複雑に見えることで、現場を混乱させる要因にもなりかねません。
私がHR責任者として着任した当時も、現場にはこうした声がありました。
「HRBPって、何ができるの?」
「採用と育成と制度以外に何が必要なの?」
「結局、〇〇の相談の時には人事の中の誰に話せばいいの?」
これらは、HRBPという機能を配置したに過ぎず、現場にとってまだ「意味ある存在」になっていないことの表れかもしれません。そこで私がHR責任者としてまず取り組んだのが、“HRBPが機能し浸透する土壌づくり” です。
信頼がすべての土台になる
仕組みよりも前に、大切なのは「インテグリティ(誠実さ)」であり「人としての信頼」だと、私は強く感じていました。
たとえば、現場マネージャーから「どうしても対応が難しいメンバーがいて、チームから外れて欲しい」と相談があったとき、「では、何らかの処分を検討しましょうか」という判断を即するのは簡単なのかもしれません。
しかし、HRBPとしてはそこからが本番です。
・何がこの状態を生み出しているのか?
・マネージャーの関わり方に改善の余地はないのか?
・本人にとっての成長の可能性は残されていないか?
こうした「問い」をたて、「伴走者」として共に考える姿勢が、信頼を醸成する鍵になります。
HR責任者としてHRBPと共に常に現場に出向き、対話を重ねることで、「関係性の質」に変化が伴うことを実感できてきます。その時、現場は初めて「単なる採用や労務問題の窓口」ではなく「事業や組織を前進させるパートナー」としてHRBPを迎え入れてくれることを大きく実感できました。これこそが、HR責任者として、正解の無いHRBPメンバーの皆さんに「成長実感」や「貢献実感」を味わってもらえる醍醐味かもしれないと感じ取れたのです。
HRBPの役割を言語化し、組織に浸透させる
信頼をベースにしつつ、次に取り組んだのは、HRBPの役割そのものを「見える化」し、経営・マネジメント層に定義として浸透させることでした。
私が2012年に外資系消費財企業のHR責任者就任後に設計した当時のフレームワークの例を挙げると:

- 今でも各社様の支援で活かせています -
これらを、マネジメント層向けセッション、全社タウンホールミーティング、事業部門メンバーとの1on1などを通じて、“共通言語” として地道に育てていくことに力を注ぎました。
HRチーム内の再編成と育成
同時に、人事部門内でも「HRBPとしてのスタンス」を醸成するための取り組みが必要でした。
実際、従来型の人事機能に慣れた人事メンバーにとって、機能分断を解き放ち、全社最適と戦略的HRBP的なスタンスに移行することは、決して容易ではありません。
私はそのようなHRBPに配置されたメンバー向けに、以下のような支援策を人事部内で取りました:
● 他部門との “戦略対話” の機会を定期的に設定
●「この問いを持って事業側の会議に臨んでみたら、どんな姿が見えてきそう?」といったコーチング型のアプローチ
● 施策(手段)導入といった成果よりも “介在の質” を評価するアプローチへのシフト
● HRBP個々でのインプット機会(外での学びなど)の提供支援と、それを人事部内で「共有」するアウトプット機会の設定 etc.
HRBPに求められるのは、単なる「対応力」だけではなく、「傾聴力・問い力・提案力・示唆・巻き込み力」など多岐に渡ります。この “人事パーソンのマインドセット変革” そのものを促すのも、HR責任者としての重要な使命でした。
結果として現れた “風土変化”
こうした積み重ねが数年経った頃、ある事業側の同僚ディレクターからこんな言葉をかけてもらいました。
「うちの部門のHRBPは、もう単なる人事じゃない。HRBPがいなければ、意思決定に困る時がある」ー この言葉を聞いたとき、私はようやく「HRBPの存在意義」が根を張り始めたことを実感しました。HRBPという “役割” が意味を持つには、「経営・現場双方からの信頼」が絶対的に必要なのです。
“機能としてのHRBP” を次の世代に繋ぐ
人の配置(入退社含め)は変わりますし、組織は変わります。だからこそ、“個人依存のHRBP” ではなく、“再現性のあるHRBP像” を残すことも重要です。
施策や制度ではなく、「こういう時に、HRBPならどう考えるか?」という思考・姿勢・対話の文化を組織に埋め込むこと。それが、HR責任者時代の7年間の私の大きなテーマのひとつだったのだと今になって振り返ることができます。
次章では、私自身がこれまでのキャリアで見出してきた「HRBPが果たすべき4つの役割」について、理論と実践の両方の視点から深掘りしていきます。
第5章:HRBPが果たすべき “4つの役割” と、その介在価値
これまで私がHRBPとして、またHR責任者としてさまざまな現場で向き合ってきた中で、徐々に見えてきたのは「HRBPとは、こういう意義ある存在だ」という本質的な共通項です。
デイビッド・ウルリッチ氏が提示したHRBPの4象限モデルは、人事の専門性を「戦略」「業務」「従業員」「変革」として整理するもので、理論的に非常に有効です。これに沿って、私は、自身の実体験を通じて、HRBPという存在の本質を、グローバルと日本という双方の視点も持ち、よりリアルに、より経営・現場にとって意味ある形で再定義する必要性を感じてきました。ここでは、私自身が現場で磨いてきた4つの役割、そしてそれを支える “介在価値” の考え方をご参考までにお伝えしたいと思います。
① 戦略的パートナー = 整合の高度なナビゲーターであり、時にコーチとしての存在
HRBPはまず何より、「ビジネスの一員」でなければなりません。
人事の専門家であることは当然として、その前提にあるべきは、経営・事業戦略を理解し、組織・人事戦略と高度に整合させられる存在であることです。
私はこれを、“戦略と組織の整合” を果たす高度なナビゲーターと位置づけています。
特に、外部環境が不確実で経営の前提が揺らぐ現代においては、進行形の組織力にアジャイルに沿っていく戦略策定が求められます。HRBPは単に経営や事業部門の指示を受ける立場ではなく、パートナーとして並走し、時に先回りして経営意思決定を支える打ち手を提案する存在であるべきなのです。
私はこのスタンスを、「想定されるリスク(Potential Risks)」と「可能性のある好機(Opportunities)」の両方をアジャイルかつ敏感に察知し、経営や組織リーダーたちにとっての “パートナーであり、時にコーチ” であることと定義しています。
② チェンジエージェント = 対話を通じて変化を “自分ごと化” させる仕掛け人
HRBPは「現状維持の管理者」ではなく、変化を設計・促進し、組織の進化を現実のものにする実行者です。
企業における変革の多くは、戦略の再構築、構造改革、カルチャーシフトなど、“人” や “組織” の変容を伴います。そこに介在し、変化を粘り強く前に進めていくのがHRBPです。
私はある企業の組織再編において、役割定義をゼロベースで再設計し、併せてマネージャー層に対して “自分たちは何を期待され、どう変わるべきか” を納得感ある形で伝え切る、というプロジェクトをリードしました。
重要なのは、「仕組み」だけで終わらせないこと。現場との対話を通じて、変化を “自分ごと化” させることこそがHRBPの真骨頂であり、その “変化の担い手を育てる営み” もまた、私たちの責務だと思っています。
③ 従業員のチャンピオン = 関係の質の橋渡し役
HRBPが真に経営と現場の間に立つには、“数字” や “制度” だけでなく、人の感情や声なき声に耳を傾ける力 = 傾聴力と共感力 が不可欠です。
たとえば、ある現場で若手社員の離職が相次いだ際、表面的な理由は「キャリアに不安がある」というものでした。しかし、掘り下げてみると、「上司が自分に関心を持っていないと感じる」「頑張っても認められない」という、“感情の領域の断絶" が根本の原因であることが見えてきました。
私はHRBPとして、こうした状況において、「制度の調整」や「上司への注意喚起」で終わらせるのではなく、「関係の質の橋渡し」や「対話の促進」を仕掛けることを意識しました。
HRBPは “組織の耳” として、従業員のリアリティを経営に伝える翻訳者であり、また “共感を戦略に変換する力” が問われることが鍵のひとつだと考えています。
④ 管理のエキスパート = 経営と現場の両者が “納得して動ける仕組み” を創る人
対話や関係構築といった “アート” 的側面に加えて、HRBPには 、制度・仕組みの設計と実装という "サイエンス" 的側面も不可欠です。
タレントマネジメントの設計
コンピテンシーによる行動評価制度の策定
エンゲージメント向上施策の仕組み化
サクセッションプランの構築とモニタリング
私はこれらを、“人の可能性をUnlock(解放)し、価値をMaximize(最大化)する” という視点で捉えています。制度導入自体が目的になってはいけません。個の可能性を最大化するための “起動装置” のひとつであるべきです。
だからこそ、私が大切にしているのは、すべての施策において「Why(なぜ今それをやるのか?)」と「Who & What(誰にとって何が変わるのか?)」を明確にし、経営と現場双方にとっての “How(納得して動ける仕組み)” を創ることです。
「HRBPの介在価値」とは何か?
これら4つの役割は、決してバラバラに存在するものではありません。それぞれが連動し、HRBPという存在が “経営・組織・人” の間にある接続点として、複雑な力学をつなぎ直していくからこそ、そこに真の介在価値が生まれます。
私が考えるHRBPの存在意義とは、
「個の可能性をUnlock(解放)し、価値をMaximize(最大化)する」ことで、強くしなやかな組織をつくり、未来に向かって価値を創出する “戦略的な媒介者であり伴走者” であること に他なりません。
それは単なる「人事の延長」ではなく、「経営と組織の未来に介在する空間プロデューサー」とも言えるのではないかと独自視点で思っています。
次章では、こうしたHRBPの役割を支える根幹であり、私自身が最も大切にしている「対話」の力について、具体的な実践とともにご紹介します。
第6章:HRBPの本質は“対話”にある
ここまで述べてきたように、HRBPの役割は多岐にわたります。
経営に並走し、変革を推進し、従業員の声を汲み取り、制度を設計・実装する。そのすべてに共通して土台となるのが、「対話」の力です。
私はこれまでのキャリアで、制度を変えても、体制を変えても、対話が伴わない組織は変われないことを何度も痛感してきました。むしろ、 “本質的な対話” の「小さな体験(small win)の積み重ね」こそが、組織の関係性の質や空気さえも大きく変えていくこともあることを数多くの体験から実感しております。
「問い」を投げることから始まる
HRBPの介在価値の一つは、“答え” を出すことではなく、“問い” を差し出すことにあると思っています。
私が実際に経営や現場に向けて投げかけてきた問いの例を挙げると:
「その施策は、メンバー目線で “動ける構造” になっていますか?」
「この人の離職は、誰にとってどんな “意味” がありますか?」
これらの問いは、単なる確認ではなく、“思考を止めていた部分” に光を当てる行為です。HRBPの本質は、施策や制度を運用する人ではなく、対話を通じて視点を拡張させる存在だと、私は考えています。
対話は “関係性の再設計” でもある
たとえばある企業で、経営層と現場リーダーの間に深い不信感が生まれていたケースがありました。制度変更の背景がうまく伝わらず、現場は「また上が勝手に決めた」と冷ややかな反応を示していたのです。このとき私が行ったのは、人事的な資料や説明を加えることではなく、“背景にある価値観や意図をめぐる対話” をセットアップすることでした。
● なぜこの制度が必要なのか?
● 経営は現場に何を託そうとしているのか?
● 現場はどんな希望と不安を抱いているのか? etc.
こうしたやり取りを対話という “場” で重ねていくうちに、少しずつ本音が見え始めてきました。
制度は変わっていません。
ただ、“言葉の意味” が変わったのです。
対話は、情報の伝達ではなく、関係性の再設計である。それが、HRBPが果たすべき深い役割のひとつだと私は感じています。
対話が組織の “感性” を育てる
もうひとつ、対話には組織の感性を育てる力があると思っています。
意思決定が早く、成果志向の強い組織では、「感情」や「背景」を軽視する傾向が見られることもあります。そうした無自覚な “置き去り” が、やがてカルチャーの摩耗や信頼の崩壊につながっていくリスクを秘めています。
HRBPは、ときにそんな組織の “沈黙” に耳を澄ませ、そこに言葉を与え、対話という感性の回路をつなぎ直す空間を創る意識と行動が必要になってくると思うのです。
理論だけでは「理解」にはつながるが、人の「感情」は決して動かないことも実体験から数多く見てきました。よって、私は常に、“事実” と “意味づけ” の両面で「伝わる」コミュニケーションを心がけています。目の前の数字やデータだけでなく、それが “誰にどう響いているのか” に向き合える力。それが、HRBPにとって欠かせない感性であり、信頼の土壌だと思うのです。
対話とは、“経営と現場の共創” の起点
最後に、対話とは単に “仲を取り持つ” ことではありません。
● 経営の意図を現場に届ける
● 現場のリアリティを経営に届ける
● 双方の視点の間にある“ズレ” を可視化し、期待値をすり合わせる
この連鎖を促す “共創の起点” こそが、HRBPが仕掛ける対話の本質ではないでしょうか。
私は常に、「この対話の場を経て、相手が “次の一歩” を踏み出したくなるか」を大切にしています。
こういった日々のHRBPの関わり(スタンス)が、相手の意識を一段上げ、組織を一歩前に進める。その小さな連続の先に、文化が育まれ、成果が創られるのだと信じて日々動いていました。
“対話の技術” ではなく、“対話のあり方” を持つ
HRBPは「話すことに長けている人」である必要はありません。
「聴く力」「意味を問う力」「沈黙を扱う力」を通じて、関係性と信頼を築いていく存在です。
制度や数字の裏にある “人と組織のリアル” を見つめ、そこに “意味づけ” と “言葉” を与える。
そうした “対話を通じた変化” こそ、HRBPが真に果たせるインパクトであり、未来につながる価値だと私は信じています。
次章では、HRBPをこれから目指す方々に向けて、キャリア形成や学び方の視点をお伝えしていきます。
第7章:これからHRBPを目指す方へ ― キャリアと学びの視点
「HRBPを目指したいのですが、どんな経験が必要ですか?」
「いきなり戦略人事はハードルが高くて……」
私がキャリア相談を受けるなかで、最もよく寄せられるのがこうした声です。
確かに、HRBPという役割は幅広いスキルと視座が求められ、一見、一足飛びにたどり着けるポジションではないのかもしれません。けれども、私はむしろこう問い返したくなります。
「〇〇さんは、目の前のことに夢中で取り組めていますか?」
HRBPとは、特別な肩書ではなく、“スタンス” であり “姿勢” だと思うからです。
ここでは、これからHRBPを目指す方に向けて、キャリア形成と日々の実践において大切にしてほしい視点をお伝えします。
「HRBPになる」囚われより、「HRBP的なあり方」を意識することから始めよう
HRBPは、一定の裁量が与えられるポジションであることが多いため、キャリア初期の方にとっては遠い存在に感じるかもしれません。
しかし、HRBP的スタンスは、職種や役職に関係なく実践可能です。
● 募集職種を検討する際、「この人を採用することで事業にどんな影響があるか?」と問う
● 異動希望に対応するとき、「組織として何を変えるチャンスか?」と捉える
● 勤怠や制度の問い合わせの裏にある “本音” に耳を傾ける etc.
こうした日々のリフレクションの小さな積み重ねが、”経営と現場の間に立つ思考力” を育ててくれます。HRBPは、なるものではなく、“あり方(Being)” だと思うのです。
また、私の経験から、「現場を見ること」も大切だと感じています。
例えば、2010年に米系高級消費財企業でHRBP責任者になった際は、実際に百貨店の売り場に何日間も立ちました。2016年に英系コンシューマーテクノロジー企業でHR責任者に就いた際は、家電量販店の営業担当者に同行し、さらには、売り場での新製品の設置業務などにも携わりました。これらは自ら熱望したことです。
この “現場を見る・体験する” という行動を通して、現場の社員が日々何を考え、何を楽しみ、何に困っているのか ― そうした “生の声” に、売場や移動の道中などでじっくり耳を傾けることができるのです。同時に、自社の事業がどの様な流れで日々動いているのか、まさに目の前で体感することさえもできるのです。「事業を知る」「人を知る」「日常を知る」うえでの最良の方法だと私は思って、立場が上がれば上がるほど、その意識と行動は常に伴うよう心掛けてきました。
あわせて大切にしたことが、現場に出向いて1on1を積み重ねることです。
例えば、2012年に英系日用消費財企業でHR責任者に就いた際は、日本法人の当時の社員数が120名前後だったこともあり、入社後45日以内で、全社員との1on1を実施しました。個々の日程調整・会議室手配も含めて、全て自身で動きました。なぜなら、それこそが “スタンス” だからです。
「3つの視点」で自分を見つめ直す
私は、日々、CHROやHRBPを志す方々に伴走するなかで、自身のキャリアや価値を内省する支援で次の3軸を活用することがあります:
① Will(志向・価値観)
何に対して熱意を持てるのか?
どんな組織や人と関わりたいのか?
どんな社員が活躍する姿を見たいのか? etc.
② Can(スキル・経験・自身ならではの持ち味)
どんな場面で成果を出してきたか?
苦しい状況でどう踏ん張ってきたか?
得意な対話スタイル・得意な役割は? etc.
③ Need(世の中・組織・社員のニーズ)
市場や業界が求めるこれからの人事の役割は何か?
いま自社の社員は、何を考え何に苦しんでいるか?
自社のpain (痛みどころ) において、自分が “埋められるギャップ” はどこにあるか? etc.
この3軸を定期的に振り返ることで、「自分がHRBPとしてどこに価値を発揮できるのか」が明確になり、非連続な中にも、キャリアの一貫性と可能性を同時に育むことができやすくなると思います。
「経営」と「現場」の両方に好奇心を持つこと
HRBPにとって、「どちらの視点にも行き来できること」は最大の武器です。
● 経営会議で語られる戦略にワクワクできるか?
● 決定事項の裏にある背景・意図を自分の言葉で語れるか?
● 現場の疲弊や迷いに気づき、自ら出向いて向き合えるか?
この両方を内包するには、「インテグリティ(誠実さ)」 と「好奇心」 が欠かせません。
私が意識しているのは、経営側と話すときも、現場社員と話すときも、「相手が見ている世界」に好奇心と敬意を持って謙虚な姿勢で入り込むこと。そうして得た視点をつなぎ、整理し、重なる点と重なりにくい点を見出す。そのうえで「問い」を投げかける。その繰り返しが、HRBPとしての厚みを作っていくものだと感じています。
「問い」をいつも心に
HRBPという役割は、決して万能ではありません。だからこそ、自分の介在がどんな意味を持ち、どう未来を創ろうとしているのかを問うことにこそ、価値があると思っています。
そのためには、制度や知識以上に、「対話力」と「覚悟」が問われる。
「理論」に加えて、「実体験」が生きてくる。
だからこそ、「インテグリティ(誠実さ)」や「好奇心」が欠かせないのです。
私はそう確信しています。
次章では、これまでの内容を踏まえ、「HRBPは “役職” ではなく “スタンス” である」という私の信念をもとに、本稿の締めくくりをお届けします。
第8章(おわりに):HRBPは “役職” ではなく “スタンス” である
ここまでお読みくださり、本当にありがとうございます。
本記事では、私自身のキャリアの歩みと実体験に加え、理論や実践から導いた「HRビジネスパートナー(HRBP)」の本質について、自分なりの考察を綴ってきました。
HRBPのキャリアの原点となった2008年から、複数企業での試行錯誤、そしてHR責任者としてHRBP機能を根づかせるチャレンジ。
どれも決して平坦ではありませんでしたが、一貫して持ち続けてきた想いがあります。
それは、繰り返しになりますが、
「HRBPは、役職や肩書きではなく、“スタンス” である」
ということです。
HRBPの本質は、立場ではなく「あり方(Being)」に宿る
どんなに制度を知っていても、どんなに立場が上でも、そこに「対話」と「信頼」がなければ、HRBPは機能しません。
一方で、肩書きがなくても、現場のマネージャーや社員と丁寧に向き合い、「この人がいるから安心できる」「考える視点が変わった」と思ってもらえる存在こそが、まさにHRBP的な価値を生み出しているのだと私は思います。
経営と現場の間に立ち、変化を仕掛けて、「問い」を投げ、可能性を信じる。
そんな “あり方” を体現するすべての人が、HRBPになる可能性を秘めているのではないかと私は信じています。
自分らしいHRBP像を見つけていこう
HRBP像に “正解” はありません。会社や組織、または世の中の状況によって、HRBPに求められることは常に変わります。
だからこそ、「自分にしかできないHRBP像」を探求し、育てていくことが大切だと感じます。
私も、最初から「これこそがHRBPだ」と分かっていたわけではありませんし、今でも常に好奇心を持って探求し続けています。ここに綴ったことも、誰かにとっては正解では無いのかもしれません。場数を踏み、失敗を重ね、時に経営に背中を押され、現場に救われながら、“私なりのHRBPのあり方” を探求してきただけなのです。
そもそも多様な組織と個に向き合ううえで、HRBPが正解を決めつけること自体が違っているのではないかと思うのです。そんな感じで、フラットで柔軟であること。何を学べばいいのかと悩み立ち止まる時間があるのであれば、アジャイルなマインドセットを持って、とりあえず現場に足を運び対話をすること。「シンプルに動くこと」が大事です。
そして、未来へ。
これからの時代、組織はますます「人と組織の力」を問われる時代になります。人事は、その機能もさることながら、より「人事パーソン」である個々のマインドセットと行動変容に焦点が当たってくるような気がしてなりません。
● 不確実性の中でアジャイルにどんな意思決定をするか
● 多様な背景と価値観の中でどうつながり、どう育てるか
● 急速な変化の中で、どう未来と希望をつくるか
● 自分は何ができる人なのか?つまり、何者なのか?
こうした「問い」に向き合う最前線にいるのが、HRBPではないでしょうか。
私は、HRBPは “組織における今と未来を描く空間プロデューサー” のようなものだと信じています。”多様な個” が組織という舞台のなかで、いかにイキイキと可能性を見出し個性を発揮して輝けるのか。その噂を耳にした外部の方々が観客として観に来たいと思えるか(= 将来の社員として候補者の方々をAttractできているか)。
制度や仕組みだけでは届かないところに、HRBPの対話と問いかけがあるからこそ、組織の未来が変わるのではないかと思っています。手段ではなく、「目的」は何か?を常に問う姿勢にもつながるかもしれません。
このnoteは、9年間の営業職を経て、今から20年前の2005年に外資系企業でHRのキャリアをスタートさせ、その3年後の2008年にHRBPに出会って以降の軌跡、そして、各転機を振り返りながら、人事という仕事の原点とこれからを言葉にしてみようという思いで書きました。読んでくださった皆さまのなかに、ひとつでも「自身の現在地、そして未来へとつながる」視点や気づきがあれば、これほど嬉しいことはありません。
そして、もしよければ、皆さま自身のHRBPとしての実践もお聞かせいただき、双方向の対話の機会も持てれば嬉しく思います!
キャリア自体も「つながり」から気づくこと、「問い」から始まることもあるように感じています。その出発点として、このnoteが微力ながら誰かにとってお役に立てるなら幸いです。
本記事を最後までお読みくださり、心より感謝申し上げます。
今後も、人事という仕事の奥深さとおもしろさを、皆さまと共に探求していけたらと願っています。
