三題噺的爱丽丝
足湯をしながら本を読むなんて、贅沢ができる日が来るとは思ってなかった。
久々の、平日に勤務がない日。
さらに、子供たちが全員朝から学校へ行った日。
私は思い立って、近くの公園へ散歩に出かけた。
子供が行きたいところではなく、気ままに足を運ばせる。
夏本番だが、ここの足湯が手軽で心地良くて、本当は週一で通いたいくらいなのだ。
ズボンを捲り上げ足をつける。
足湯はもちろん温かいけど、座る場所は日陰で風が通って心地良い。
ひと通り足湯の感覚を味わった私は、積読になっていた一冊を読むことにした。。。
「……へんだ」
「大変だ。大変だ。………」
なんか騒がしい。
目を開けると、ひょっとこの仮面の男性……ヤス(ウエダヤスシ)さんが、うさぎの耳を付けて慌てて走り回っていた。
「大変だ大変だ。なぜ止まっていたんだろう。私の目覚まし時計は3回スヌーズしても原稿が進んでるはずなのに」
………なぜ、ひょっとこの仮面をつけているんだ。
うさぎの耳をつけるなら、アイコン上仮面に隠れている顔を見せた方が絶対似合っているのに。
そんな私の個人的所感を無視して、ひょっとこの仮面にうさぎの耳をつけたヤスさんは私の目の前にいつの間にか空いていた穴に飛び込んでいった。
………穴?
足湯にポッカリと黒い穴。
お湯がそこに流れていく様子もなく、黒い穴だけがそこにある。
と、逃げる間もなく、その穴は私に近づいてきて、私はその穴へ落ちていった……………
落ちている感覚がなくなり、目を開けるとそこは森の中。
「大変だ。大変だ」
と、まだつぶやきながら走っていくうさ耳ひょっとこを見つけて、私は慌てて捲り上げていたズボンを戻し、彼を追いかけた。
裸足ではあるが、不思議と草や土の感覚が嫌じゃない。
藪を抜けたら、拓けた場所に出た。
パーティーの準備でもしているのだろうか。
大きなテーブルに敷かれたテーブルクロスに、木と木の間にはガーランドが巡らされている。
テーブルクロスの柄も、ガーランドも、靴下だった。
「ようこそいらっしゃいませ」
帽子屋……ならぬ、靴下屋、なのだろうか。
えむのマイトンさんが椅子をひいて着席を促してくれた。
「こんな森の中なのに裸足の様なので、こちらの靴下をどうぞ。大丈夫。新品です」
まさか人に勧める靴下が使用済みなのは疑わないけれど、新品だと念を押されると少し疑念も湧く……
いや、大丈夫だと信じたい。
少し足をはらって靴下を履いた私を確認したマイトンさんは、執事のようなサーブの動作で私の前に何かを出した。
「こちらのランチでもいかがですか?」
出てきたのはすき家の牛丼だった。
……いや、うん、ランチだけど。
ここがあの『不思議の国のアリス』の世界なら、 ティーパーティよね?私イギリス文化好きだからちょっと期待してたんだけど…
きゅるるる………
色々思うところはあれど、鳴るお腹には堪えきれず私はお箸を手に取る。
「お食事の間、口笛演奏を披露させて頂きますね」
有無を言わさずマイトンさんの口笛演奏が始まった。
意外と楽しかった演奏が終わり、 私は拍手を送る。
すると突然、隣に人が現れた。
「私、今ね、指笛を練習しているんですよ」
それではお聞き下さいと、縞柄のヘビを首にまいた男、コニシ木の子さんが演奏を始めた。
「なんのはなしですか?」
私が思わずつぶやいたとたん。
指笛の音が止まり、コニシさんがニヤニヤと……ではなく、フフフと笑った。
それを合図に、パーティー会場も、マイトンさん、コニシさんも消えてしまった。
突然静かな森に残された私。
どこに行けばいいんだろう?
ここが夢の中なのは判る。
けれど夢だと気付いても夢から醒めないし、ここがアリスの世界ならもう少し動かないと醒めなさそうだ。
かと言って森の中をあてもなく彷徨っても良いものなのかと悩んでいると、どこからか先程のコニシさんの指笛の音が聞こえた。
これしか頼るものもなく、指笛の音を探して歩いていると、一軒の山小屋を見つけた。
山小屋の玄関上には
『EAT ME』
『DRINK ME』
と書かれた看板がある。
山の中の飲食店なんだろうか。
入口のドアには、ノックしてお入り下さい。 と札が掲げられていた。
正直、さっきの牛丼で喉が渇いている。
ドアをノックして開けると、そこには空原ゆにさんがいた。
「いらっしゃいませ、私が開発した、最高のつけ麺はいかがですか?食事のお供に、梅シロップで作ったお酒もあります」
にこやかな顔で、よく冷えているのがわかるグラスを指し示される。
店の奥から漂う出汁の匂いにつけ麺も食べたくなるけど、今はそれより何か飲みたい。
「……あの、ここに来るまでに、もう食べちゃったので、飲み物でお願いします」
「そうですか…つけ麺、美味しいんですけど…」
とても残念そうな顔で梅シロップで割ったお酒を渡された。
そういえば、梅シロップなんだから炭酸水割りでもいいんだけれど………
「あの………」
替えてもらおうとゆにさんの方に目を移すと、ゆにさんは自家製つけ麺をとても美味しそうに食べていた。
……声をかけるのをあきらめた。彼女の至福の時間を邪魔するわけにいかない。
手に持っているコップに一口、口をつけると、見た目どおりにとても冷えていて梅の香りが華やかで、思わず一気飲みしてしまった。
目をつむって飲みほして、美味しかったとゆにさんに声をかけようとすると。
目の前のゆにさんは消えて、 山小屋も消えてしまっていた。
また、どこへ行けばいいいいのか。
わからなくなった。今度はほろ酔いのため、ふらふらと森を歩くわけにもいかない。
と、ふと、声が聞こえた。目の前の大きい茂みの向こうから聞こえる様だ。
茂みをかきわけた先には、何かのスポーツ競技のようなコートが見えた。
大きい水鉄砲をかかえた選手らしき人達がコートを走りまわっている。
水鉄砲からは、カラーインクが発射されていた。
私は思わず、近くにいた観客にたずねる。
「なんのスポーツをしているの?」
「スプラッシュゲームさ。自陣の色を塗り合う陣地取りゲーム……って、お前!!酒くさい!!」
観客の私への叫びが、会場にこだました。様な気がした。
観客のざわめきが止まり
皆が私と、私とは違う一点を注視していく
その視線の先には、髙塚しいもさんがいた。
「私より先に、お酒を飲んだやつがいるのか?」
私のまわりはいつのまにか人がいなくなり、必然的に私だけが彼女に注目される事となる。
「あの……さっき、すすめられたので……のどもかわいていたし」
「この国の法律、第1条は!!」
私の言い訳をかき消す、しいも女王の叫びが響き渡る。
「女王より先に、お酒をのんではいけない!!」
観客も選手も、一斉に唱和した。
「お前に罰を与える。お前は、7月に冷房が故障する!!」
「故障!故障!」
しいも女王が宣告すると、会場が一丸となって“故障”コールをとなえていく。
「ちょっとまって、7月といえども今年は訳わからないくらい暑くて、7月の冷房故障は生きていけない!!!」
叫びもむなしく、私は“故障”コールにのまれていく…………
目を覚ますと、汗びっしょりだった。
暑さと嫌な汗が混ざってひどく気持ち悪いが、カーテン越しからはまだ日の光がうかがえない。
クーラーが止まって、部屋の温度が上昇した為あんな夢を見たのだろうか。
……タイマーで消えているはずだけれど、故障して止まっているのならどうしよう……
額に、再び嫌な汗が滲む。
夫の向こう側にあるクーラーのリモコンに手をのばし、電源を入れると無事にクーラーは動いてくれた。
いつも横に水のペットボトルを置いている私は、それを二口程飲んで、再びねむることにした。

※ゆにさんの梅シロップのお酒→しいもさんへの流れにしたくて、モチーフになった『不思議の国のアリス』のキャラクターの登場順とは変えております。
回収週でもない時に、割と渾身のなんのはなしですかが出来てしまった💦
勝手に登場させた皆さん、ごめんなさい💦
許してね😘
《今週の三題噺》
1.不思議の国のアリス
2.すき家の牛丼
3.7月の冷房故障
そして文章へのリンクで皆さんに通知が行くのかが未だ持って謎なので、コチラで皆さんにリンク⬇️(ヤスさんには絶対通知行くけど、サンクスの意味合いで)
読んで頂いてありがとうございます✨
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