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怪談:【臍がらみ】第13話 “産声”【創作大賞2024参加作品】


岸辺と別れ、自宅へ帰ると鍵が開いていた。


 もう夜も遅い、結衣が帰ってきているのだろうか。
 だが、妙な違和感があった。
 玄関へ上がると部屋中真っ暗で誰もいない、2階も灯がついていないようだ。仕方なくリビングの電気をつけようとスイッチを押すが、反応しない。

 暗く、静かな家、誰もいない。

 蒸し暑さと緊張で首の後ろにじっとりと汗が流れる。
 すると、ひとりでにテレビがつき、ニュースを映し始める。内心驚きつつもその場からは動かず、じっと流れるニュースを見守っていた。

 俺の頭の中に、ある思いつきが、猛烈な嫌な予感が、首の後ろから汗と一緒に流れ出る。

 なんだ

 この状況は

 これではまるで

 まるで怪談の導入だ。

 どれだけの時間が経ったのか、あるいは一瞬だったのか、女性アナウンサーの読み上げるあるニュースの内容が
俺を現実世界へと引き戻す。

「速報です。以前から⬛︎⬛︎高校の女子生徒、古田理沙さんと鈴木花さんが行方不明となっており、警察と近隣住民による捜査がされておりましたが、本日未明、2人の遺体が校内で発見されました。2人を発見したのは校内を見回りしていた職員で、2人の遺体はは空き教室のロッカーの中から見つかったとのことで警察は状況について詳しく調査をしているとのことです。」

 古田理沙、Xで謎の投稿をしていた女子生徒だ。結衣から名前も聞いていた。
 鈴木花、初めて聞いた、初めて聞いたはずだ。

「それでは続きまして、お天気のコーナーです。木下さん〜」

 先ほどまで深刻な顔をしていたアナウンサーはパッと笑顔になり天気予報士に呼びかける。

 それと同時に俺は勢いよく階段を駆け上がる。結衣、妹はどこだ。

 妹の部屋のドアを開けるとやはりそこも真っ暗で誰もいない。一体どこに……。

彼女へ電話をかけるが反応はない、そうだ、俺は妹にGPSアプリをインストールさせていた。それで居場所を確認すればいい。アプリを起動する。妹の居場所はすぐに表示された。やはり家にはいなかったが、幸い近所にいるようだ、だが、この場所はおかしい、そんな場所になぜ行く必要がある。

 妹の居場所を示すピンは、近所にあるボロい神社をさしていた。

 自分の心臓の音が聞こえる、心臓が揺れるたびに、スマホを持つ手から力が抜けていき、ついには手を滑らせて床に落としてしまった。

 拾い上げようとゆっくり屈むと、その瞬間、一件のメッセージが表示された。

「たすけて」

 妹からだった。

 俺は家を飛び出しスマホを片手にに走り出した。その神社までは歩いて10分くらいだったはずだ、走ればすぐに着く。真っ暗な夜道をひたすら走った。
 交差点に差し掛かり、赤信号だったがそのまま走り抜けようとすると握っていたスマホが振動し、妹からかと思い確認すると岸辺からの電話だった。

「坂上、聞こえるか?今何してる!」

「岸辺、それどころじゃないんだ、妹が……」

 通話を切ろうとすると岸辺は慌てた様子で制止する。どうやらあちらも尋常ではないようだった。

「おい待て、今ので分かった、確認だがお前はこれまでの“うみお”に関することを誰かに話したりネットにあげたりしたか?」

「いや、妹とお前以外には話していない……」

 目の前の大通りでは車が勢いよく流れていく。通ることができない。

「分かった、よく聞け、俺たちのこれまでの調査だとかやりとりが全部ネットに上がってる。しかも普通じゃない、明らかに少し未来のことが書かれている、岸辺、お前の後ろから走ってくる車は赤いか?」

 疲労とパニックで働かない頭を言われた通りに後ろへ向けると後ろから赤い軽がゆっくりとやってきた。

「赤い……」

「そうか、今のやりとりもほとんど同じにネットに上がっている、これまでのことも多少詳細は異なるがほとんど一緒だ。お前から送ってもらった画像とかずっと俺の家で保管していた傘おばさんの資料の内容までもがネットに上がってしまっているんだ」

 その瞬間、信号が青になり再度走り出す。
 ネットにこれまでの俺のことが全部上がってる?一体どこからどこまで?この際確かめるのは後でいい、まずは妹だ。

「待て!そこには行くな!そこには

 その瞬間、通話が切れてしまう。岸辺が言いかけたことが気になり走りながら彼へ折り返そうと試みる。

 その瞬間、スマホが振動を始める。画面に表示された名前は「ゆい」だった。

「もしもし!結衣!今どこにいるんだ!」

「………………」

「結衣?」

「……………………たすけて」

 通話が切れる。

 その時、左を向くと目の前に小さな神社があった。

 彼女へのコールを続けながらゆっくりと境内へ入り込む。屈まなければ頭を打ってしまいそうな石の鳥居を潜ると小さな祠がそこにあった。祠を観察したが、ありふれたもので特段怪しいものはなかった。耳を澄ますと、妹の着信音が祠の背後から聞こえることに気づいた。

 身を捩って祠の脇を通り抜け、背の高い雑草をかき分けると真っ暗な中で光るものを発見した。覗き込むとそこにはボロボロのダンボールがひっそりと捨てられていて、雑に閉められたその奥から光が漏れ出ていることが確認できた。

 今、俺は怪談の山場にいる。

 これを、開けてはいけない気がする。

 すると、手に持っていたスマホから声が聞こえてきた。

「あけて」

 妹の声だ。

「お兄ちゃん」

 この場から逃げなくては

「だして」

 これを開けてはいけない

「みすてるの?」

 これは妹じゃない

「これを開けてくれたら」

 この場からすぐに

「また前みたいに私を犯していいよ」

 ねっとりと誘惑するように、吐息混じりのその声は耳元から聞こえた気がした。

 箱は、ゆっくりと、ひとりでに開いていく。

 俺じゃない、俺は何もしていない。

 中から真っ白で乾燥し、ありえないほど細い手が這い出してくる。その手には指がなく、断面には木の釘のようなものが刺されていた。

 そしてゆっくりとこちらに顔を向ける。

 鼻の穴と口が繋がって大きく開いた孔から真っ赤で長い舌を垂らしているそれは額からお札のようなものを垂らしていた。お札には様々な文字や模様が刻まれていたが、真ん中に大きく

 “無題”

 と、書かれていた。

 すっかり腰が抜けて尻をついている俺にそれはゆっくりと近づき、投げ出された俺の膝に頬擦りをした。そいつのお腹からは一本の管のようなものが垂れていた。きっと臍の緒だ。

 俺のスマホからは延々と赤ん坊の鳴き声と、聞いたこともない男とも女とも分からない声で

「ありがとうございました、無事産まれました。
 ありがとうございました、無事産まれました。
 ありがとうございました、無事産まれました。」

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