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怪談:【臍がらみ】第12話 「打ち切り」【創作大賞2024参加作品】


 渡されたものを全て読み終わると当時の記憶が流れ込んでくる、あれは確か夏の暑い日の夕方で湿気がひどかったのを覚えている。

 読者からの情報提供と、実際にその近辺で行方不明者が続出していて警察が捜査していると言う話を聞いて俺と岸辺は〇〇駅に降り立っていた。事前に傘おばさんの目撃情報のある場所を手持ちの地図にマッピングしており、それらを虱潰しに探していく手筈だった。

 まず一番の候補の駅前近くの路地裏に行くとそれはあった。

 ビルとビルと間の袋小路の奥にさまざまな衣類やガラクタが折り重なっていたのだ。

「ネットで見た情報通りだな」

 岸辺が汗を拭いながら言う。

「ちょっと突いてみるか」

 そうして俺たちは衣類の山をうっかり崩さないように一枚ずつ服を剥がして地べたに投げ捨てていった。その中にはサラリーマンのものであろうワイシャツや子供服、女性物の下着も混じっていた。そうやって山を崩していくとまるでそれを隠すこと自体が衣類を重ねていた理由だったかのように、大きなダンボールが顔を出してきた。

 ところどころにシミがついていてボロボロだったが厳重にガムテープが重ね貼りされており、如何にもな雰囲気を醸し出していた。

 すでに日は落ちており、暗い路地裏の奥でお互いの顔はよく見えなかったが、オカルトサークルとして何も言わずともこれからどうするべきかは理解し合えていた。

 岸辺はバッグから鋏を取り出し、ガムテープを切り始めた。

 俺は誰かが来ないか通りの方へ向かって見張ることにした。通りの方ではこれから飲み会であろうサラリーマンや学生の集団、買い物途中の主婦が行く以外は怪しい人はいなかった。おそらく怪しい連中は俺たちの方だろう。

 しばらくすると岸辺が手で合図をし、そちらへ向かうとすっかり開けられたダンボールの中には新聞紙で何か大きなものを包んでいるような物体が鎮座していた。

 だがそのシルエットはどうにも、体育座りをした幼児のように見えた。

 ここまできては引き下がることもできず岸辺は鋏で新聞紙に切り込みを入れ、剥がし始める。俺はすぐ後ろでその様子を固唾を飲んで見守っていた。

 静かで、雑踏の音は遠く、お互いの呼吸音だけが聞こえていた。

 俺たちは今、本物に近づこうとしている。

 新聞紙の一部を破いて中身が少しだけ見えた。

「なんだこれは、よく見えん、照らしてくれ」

 そう言われて俺はスマホのライトを謎の物体の方へ向けた。

 チラリと見えたそれは人間の鼻と口のように見えた。”ように見えた“のは暗くてよく見えなかったからではない。真っ白い肌に鼻の穴と思しきものから歯がびっしりと生えて虚に開いた口と思われる穴が繋がって一つの大きな窪みのようになっていたのだ。そこから真っ赤な長い舌が這い出してダランと垂れている。

 その瞬間、耳元で声が聞こえた。


「傘、あげますから」


 その後のことはよく覚えていない。2人で夢中で駅まで走って電車に飛び乗ってからようやくお互いの顔を見合った。ほとんど会話をすることもなくその日は解散をした。

 傘おばさんのことについて記事にするかどうかは相当2人で話し合った。結局ほとんどをボカして下書きを書いたもののこれなら封印したほうがいいとなり、御蔵入りとなった。

 問題はそのあとで情報提供者の女性からその後1ヶ月以上にわたって部室の電話へ奇怪なFAXが送られ続け、恐ろしくなった俺たちはサークルの解散と『都市伝説調査団』の廃刊を決めたのだった。


「あの時、俺たちは明らかに本物に触れていた」

 岸辺がいつのまにか2本目のタバコの煙を吐きながら口を開いた。

「だが触れた結果がこれだ、よく見ろ、加納美緒という名前を」

加納美緒

かのうみお

 か の

  う み お

開いた口が塞がらず、言葉が出てこない。

「”うみお“とは多分、俺たちがあの時触れた箱の中の何者か、もしくはこの加納美緒のことだろう」

「俺たちはずっと、こいつの作り出す怪談に巻き込まれて続けていたんだよ」

「今なら遅くない、この件からはスッパリ手を引いて忘れよう、なんならお祓いに行ったっていい。この前取材したお寺の坊さんがいるんだが、信用できる奴だ」

カフェの天井を見ながらそこまで聞いて、ふーっとため息が漏れた。まるで肺に溜まっていた悪い気を排出するように。

「実はほとんど貯金がなくて、転職先を探しているんだ、お前のとこで荷物持ちとかさせてくれないか?」

「荷物持ちなんかいらないが腕のいいライターを探してるんだ」

 そう言うと彼はタバコを一本差し出した。

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