【第1章】壮絶な出産⑥お願いだから、生きていて!赤ちゃんとの切ない初対面。
これは、「命のふちで出会った私たちの物語」の第6話です。
前回(第5話)はこちら
一般病棟へ移った日
私は、数日後ICU(集中治療室)から一般病棟に移ることになった。
本来なら産後は「産科」に入院するのだけど、
その時はたまたま空きがなく、
「婦人科」の病棟に移ることになった。
正直、ホッとした。
今、産科で元気な赤ちゃんの泣き声を聞いたりしたら、
絶対、私はパニックに陥るだろう。
私の赤ちゃんは、ここにはいないのだ。
しかも、ほかのママが赤ちゃんにできることが私は一切できないのだから。
もし産科に入ることになっていたら…
そう考えただけで、気が狂いそうだった。
その日は色々と検査があり、
夕方までは夫が付き添ってくれていた。
そして、この日は出産から初めて
長男と長女が面会に来ることになっていた。
私が救急搬送されてすでに
4日が経っていたが、
ICUでは子どもは面会不可だったので
子どもたちに会えるこの時を私はとても楽しみにしていた。
「あの子たち、ママがいなくてどうしてるかなぁ」
なんだかずっと長い間、会っていないみたいな気分だった。
上の子との再会
夕方、上の子たちが祖父母に連れられて面会に来てくれた。
「ママ~~~!!」
私の顔を見るなり、一目散に駆け寄って
抱きついてきた子どもたちは、とても温かかった。
「あぁ。よかった。また会えた…」
「この子たちって、こんなに温かかったんだ…」
この手にまだ抱けていない、
NICUにいる次女を想い、
それまで当たり前のようにあった
「わが子のぬくもり」に、涙が出そうだった。
わが子の命の温かさが、よりいっそう身に染みた。
ここにいてくれるだけで、すごく、すごく有り難かった。
そんな風に胸いっぱいになりながら、
一緒に病室で夕食を食べていたそのとき、
思いがけないことが起きた。
突然の呼び出し
小児科医が急に病室を訪ねてきて、
信じられない言葉を告げたのだ。
「実は、NICUの先生から連絡があって…
赤ちゃんが…ちょっと厳しいみたいです。
『お母さんにすぐ来て欲しい』って言われて…
今すぐ、会いに行けますか?」
一瞬で、血の気がサーッと引くのを感じた。
「悪夢だ…。
嘘でしょ…。
なんなのこの流れ…。」
心臓がバクバクと音を立て、鼓動がどんどん速くなる。
さっきまでの安堵感と打って変わって、
一気に「現実」に引き戻された。
目の前の景色が、一気に色を失ったように感じた。
お願いだから、生きていて…!
次女は、この病院から車で3分ほどの
別の病院にいるので、
ここから車で移動しなければならない。
今朝までICUにいた身体で、
私だってまだ安静にしなきゃいけないのに、
病院を移動して大丈夫なんだろうか…
でも、そんなことは言ってられない。
今行かなくちゃ、もう会えなくなるかもしれない…!
「ご主人、お母さんを支えてあげて下さい。」
まるで次女に何かあるみたいな
小児科医のそのセリフに
私の不安と動揺は、ますます強くなるばかりだった。
私は車椅子に乗り、
夫や子どもたちも一緒に
義父の車で次女のもとに向かった。
雪がすごい日で、私はまるで
いきなり真っ暗闇に放り出されたような気分だった。
しばらくして、NICUに着いた。
ここにいるんだ。
私のお腹についこの前までいた、あの子が…
初めて会う日がこんな日だなんて、辛すぎるよ…!
お願いだから、生きていて!
切ない初対面
早く行かなきゃ!
焦りの中、私は急いで消毒を済ませ、恐る恐るNICUの中に入った。
「お母さん、大丈夫ですか?
来てくれたんですね!!」
スッタフさんたちは、私の姿を確認すると、想像していたよりも明るい声でそんな声をかけてくれた。
夫から、私の命も危なかったと聞いていたからだろう。
幸いなことに、私たちが着いた時には
次女は危険な状態を乗り越えていて、心からホッとした。
そこには次女のほかにも、
何人かの赤ちゃんが入院しているようだった。
たくさんの機械があって、
いたるところで電子音が響いている。
今まで見たことのない
異様な空間に戸惑いながらも、
私はおそるおそる次女に近づいた。
と同時に、初めて次女の姿を見て、胸が張り裂けそうになった。
生まれたばかりの小さな身体で、
身体にたくさんの管をつけられ、
口には人工呼吸器のチューブが挿入されていた。
泣き声も、動きもなく、
意識がない状態だった。
次女は、たった一人で、暗闇の中で懸命に生きようとしていた。
生まれてきてくれて、ありがとう
次女の小さな小さな手を、泣きながら握りしめた。
「ありがとう…ありがとう…
がんばってくれて、ほんとにありがとう。
生まれてきてくれて、ありがとう。
きっと、大丈夫だからね…」
動かない小さな手足をさすりながら、
私は次女に何度もそう語りかけていた。
「生きていてくれただけで、ありがたい」
この言葉が、こんなにも実感を伴って
響いたことがあっただろうか…。
次女との出会いは、とてもとても切ない初対面だった。
次女の症状
主治医の説明では、次女は出産時に
脳に酸素が届かない時間が長かったため、
脳はもちろん腎機能も低下していて、
尿が出ない状態が続いていたとのこと。
それが続くと、さまざまな臓器にも影響が出て、命にかかわるということだった。
私がいない間にも何度か命の危機があり、
夫は治療方法の選択を迫られたが、
「命を優先させてほしい」と
主治医にそう頼んでいたそうだ。
そして、「尿がたくさん出るように」と
オムツを大量に購入し、NICUに届けてくれていた。
私が会いに来る直前に尿が出て、
腎機能がなんとか持ち直したとのことだった。
「ママに会いたくて、呼んだのかな〜」
冗談交じりに主治医が話してくれたので、
張り詰めていた気持ちが少しだけ和んだ。
その日を境に次女は少しずつ回復し、
一番危険な山は超えたようだった。
次女にパワーを届けたい
この後も、私が入院している間は
毎日、NICUへ次女に会いに行った。
「ママに会ってから、
おしっこが出るようになったからね。
『ママパワー』だね!」
NICUのスタッフさんたちに
こんなことを言われたらもう、毎日行くしかない。
一人で頑張っている次女に、
少しでもパワーを届けたかった。
一日でも早く、家に連れて帰れる日がくると信じて…。
そんな中、私は自分の中に
ある「焦り」があることに気づくのでした。
次回は、1章「壮絶な出産」シリーズ最終話です。
よかったら、最後まで読んで頂けたら嬉しいです。
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