【1章最終話】壮絶な出産⑦生まれた証を残したい…「今、生きている奇跡」を実感した日。
これは「命のふちで出会った私たちの物語【第1章】壮絶な出産」の7話(最終話)です。
前回(6話)のお話はこちら
生まれた証を残したい
NICUで次女との初対面を無事に果たし、安堵した私。
一方ではある「焦り」を感じていた。
それは…
「一刻も早く生まれた証を残したい」
という切実な想いだった。
命の危機を持ちこたえたとはいえ、
毎日ギリギリのところを生きている次女。
考えたくないけど、いつ「その時」が
くるかわからない。
出生届をすぐに出して、もしも、万が一
そうなったとしても、
たとえ数日でも、
「次女がこの世に生きていた証」を残したい。
そんな焦りを覚え、
私たち夫婦は、すぐに名前を決めることにした。
妊娠中から候補にあった名前の中で、
次女が力強く生きる姿を目の当たりにした私は
直感的に、一つの名前を選んだ。
夫も、次女の姿を見て
「これしかない!」と、ピンときていたそうだ。
予想外の試練
夫がすぐに出生届を提出してくれて
ホッとしたのも束の間。
そのことで、予想外の試練が訪れた。
新聞の「赤ちゃん誕生欄」を見た友人知人から
「出産お祝いメール」がたくさん届いたのだ。
「おめでとう〜♡」
「良かったね〜!」
「ますます賑やかになるね!」
「幸せいっぱいだね♡」
友人たちに悪気がないことは分かってる。
出産報告ができていなかったので、
新聞が初めての報告になってしまったからだ。
頭では分かっていても、
明るいお祝いメールが届くたびに
思い切り携帯を投げそうになっている自分がいた。
おめでたくなんかない!
なんにも良くないし!
にぎやかじゃないし!!
ぜんっぜん幸せじゃないから!!
私の「ドス黒テンション」とは真逆のキラキラメールに、心が痛んだ。
私は、どこにぶつけていいかわからない怒りを
必死に抑えながら、
震える手でメールを返した。
「実はね…」から始まる
淡々とした状況説明と、
絵文字ゼロの、モノクロの文面で
精一杯の感情を表してみる。
友人たちに悪気はない。
ただ、私の状況を知らなかっただけだ。
でも、当時の私には、
そんな風に思いやれる余裕などなく、
なんだか急に今までの世界から
切り離されてしまったかのような、
二度と埋められない「断絶」を感じていた。
「私の気持ちなんて、誰にも分かるわけない!」
「もう、『普通のママ』じゃなくなったんだ…」
それまでの、何事もなかった私には、もう戻れない。
もう誰にも次女のことを話したくない。
ママたちと同じテンションで会話できない。
友人たちは察して気を遣ってくれたが、
それ以来、私は一気に周りの世界と
距離を置くようになった。
そうするしか、傷ついた心を守れなかったのだろう。
奇跡の退院
そんな風に心が弱っていた私だが、
身体は順調に回復し、無事、退院する日を迎えた。
主治医から超緊急帝王切開の詳細を聞き、
診断書に「失血性ショック」という
恐ろしい言葉があるのを見て
今自分がここにいるのが奇跡なんだと、改めて痛感した。
「早期胎盤剥離」がどんなに危険なものなのか。
真実を知れば知るほど、
後遺症もなく、10日ほどで無事退院できることが
どれだけ幸運なことなのか、ありがたくて仕方なかった。
退院したその足で、私と夫は
そのまま次女のNICUへ向かった。
そして、退院することを報告し、
これからの「NICUママ」としての生活が
どのような形になるのかを、
スタッフさんたちに聞いた。
次女は自分で呼吸ができないので
人工呼吸器は必須だけど、
少しずつ安定してきているとのことだった。
「きっとすぐ回復して家に帰れる日がくる」
私は、次女が退院することを信じて
その日はNICUを後にした。
他のママへの嫉妬
明日からは、NICUに面会に通う日々が始まる。
次女に母乳を届けるためのグッズが必要になり、
帰り道に大型ベビー用品店に立ち寄った。
長男や長女と一緒に
何度もおもちゃを買いに来たことのあるお店なのに、
その時の私は、ぎゅっと胸が締め付けられたような気持ちになった。
それまでは特に意識してなかったが、
お客さんのほとんどが、
子連れのママか妊婦さんだった。
みんな、出産したら
「家で育児できるのが当たり前」と思って
ベビー用品を買ってるんだ。
それなのに私は
「家に帰れない赤ちゃん」のための買い物をしている。
その対比が、胸をえぐられるように辛かったのだ。
私もかつては、その「幸せなお母さん」の側だったのに…
すでに今までの自分とは
感覚が変わってしまっていた私は、
幸せそうなママたちの姿に耐えられず、
逃げるようにお店を出た。
元気に生んであげられなかった自分が
悲しくて、悔しくて、
いたたまれなくなっていた。
今、生きている奇跡
そんなドス黒い私をよそに、
夫は私が無傷で復活し、退院できたことへの喜びを爆発させていた。
「こうして一緒にいるのが、信じられない…」
「本当に、ありがたい…」
と言って、何度も涙を浮かべていた。
今まで当たり前のようにあった
何気ない日常。
そのありがたさが、身に染みた。
私が一度死にかけたからこそ、
その「当たり前のこと」がどれだけ
奇跡なのか、
私たちは何度も噛み締めた。
「当たり前」は当たり前じゃない。
「生きていること」も、当たり前じゃない。
「生きているだけで価値がある」
私は、この壮絶な出産を経験したことで、
そんな言葉の意味が
身をもって分かるようになった。
しかし、私たちの物語は、まだまだここからが本番だった。
命のふちから生還した次女と私だったが、
このあと、NICUでさらなる試練が待ち受けていた。
そのお話は、【第2章】のNICU編で綴っていきます。
~「命のふちで出会った私たちの物語」第1章「壮絶な出産」おわり~
2章「NICUでの日々」へ続きます
ここまで、
【第1章】「壮絶な出産」
をお読みくださり、ありがとうございました。
次回は、私がこの出産によって学んだ、
人として大切なことを振り返りたいと思います。
まだまだこの物語は続きますので、
よろしければ引き続き
お付き合いいただけると嬉しいです。
▼次回【番外編】はこちら
【第1章】「壮絶な出産」シリーズを
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