《短編小説》親子
「この店、カフェオレが人気なんだよ」
「…あ、そうなんだ」
意気揚々と告げた僕に、彼女は控えめにほほえんだ。
僕の期待していたリアクションとは少し違ったけれど、
運ばれてきたカフェオレを一口飲んで「うん、美味しい」とつぶやく彼女のえくぼを見た時、その違和感は消えていた。
「いやー、なんか変だと思ったんだよね」
「そりゃそうだよ。どうして私がカフェオレ好きだと思われてたのか、全然わからなかったもの」
「まさか僕のリサーチミスだったとは…」
「美和子は大雑把だからね。私が好きなのはカフェ『ラテ』。カフェ『オレ』とは全然違う飲み物なんだから」
「美和子ちゃんの言うことを鵜呑みにするんじゃなかった…」
「美和子のせいだけにしないでよね。だいたい達也君、大事なところで詰めが甘いんだよ。今日だって2軒目に行くはずだったバーが閉まってたから、こんなところで喋る羽目に」
そう言って、彼女は座っているブランコを揺らす。
詰めが甘い、と僕を指差す。
「へえ、それでお父さんの詰めが甘かったから、私が生まれたんだ?」
「おい、そんなわけないだろ」
思わずムキになる僕に、娘は悪戯っぽく笑った。
確かにお義父さんには「順番が逆だ」と殴られそうになったけれど、僕も彼女も、新しい命を授かったときは涙を流して喜んだのだから。
高校生にしてエスプレッソを好んで飲む娘に、僕は彼女の面影を見る。
「お母さん、行ってきます」
娘が写真立ての方へ声をかける。
「おい、俺には」
「はいはい。お父さん、行ってきます」
父親の扱いなんてこんなものか。
憮然として机の上を見ると、そこにはキャラクター物のキーホルダー。
「おい、鍵忘れてるぞ!」
僕は慌てて、リビングを飛び出す。
ーーほんと、二人揃って詰めが甘いんだから。
どこからか、そんな声が聞こえた気がした。
今回のお題
・ブランコ
・写真立て
・カフェオレ
