ヒューマンドラマ小説|サンクチュアリが見えたら(9)|ちゃぶ台の上の麦茶
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田舎の古民家シェアハウス『サンクチュアリ』。
住人は老若男女6人と猫が一匹。
住人の一人、雨宮茉莉花は40代シングルマザー。小学生の男の子が一人いる。茉莉花は、ある日サンクチュアリへの帰宅途中で男性と揉めていた50代の元モデルの女性、夏見紫をサンクチュアリに誘う。
茉莉花もまた、そうしてサンクチュアリに迎えられた一人だった——
茉莉花をサンクチュアリに誘った野路菊さくらは、過去に不倫経験のある70代女性。その他、神野宗四郎は30代の同性愛者の男性、木南悠はお金のない現役大学生。
仕事、恋愛、家族——
これは、それぞれがそれぞれに、生き方に悩みながらも、少しずつその答えを見つけていく物語。
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ちゃぶ台の上の麦茶
「宗四郎も悠も、麦茶飲む? 淹れるけど」と茉莉花が台所からひょこりと顔を出した。
宗四郎の「サンキュ」と、悠の「ありがとうございます」が重なる。
「それで? 紫はどう訳ありな訳?」
どっこいしょ、と座布団に座り、宗四郎が言う。
「あんたねえ——」
台所で聞いていた茉莉花が、本日2回目の「あんたねえ」を発動する。
「いいじゃん、別に。今日ここに誘われて、即入居なんて、訳ありじゃなきゃあり得ないでしょ。これからここで一緒に暮らす仲なんだし、そのぐらいは知っときたいじゃん」と宗四郎は言う。
その意見はデリカシーという意味ではだいぶ欠けてはいるものの、率直で素直で、またある意味では人にも自分にも、馬鹿正直なほど誠実だった。
「先月まで付き合ってた男と別れたの。同棲してて、急にそんなことになったから、とりあえず知り合いのところを転々としてたんだけど、それも段々と難しくなって。 それで古い知り合いを頼ってこの島にきたら、ちょうどその男と揉めてるところを茉莉花に拾ってもらったって訳」
ふうん、と宗四郎が言う。

「でも、先月だろ? まあ確かに慌ただしくはあるけど、内覧や手続きを急げば、自分でアパートなり何なり借りれたんじゃ?」
「それが駄目なの。恥ずかしい話なんだけど、私、今いくらもお金が無くて。昔の男に背負わされた借金が残ってるのよ。勝手に印鑑と身分証明書を持ち出されて、いつの間にか保証人にさせられてたの」
「なるほどな。男運も金もない訳か」
「自分でも嫌になるぐらいにね。先月別れた男が、私の居場所を突き止めて、知人の家まで追っかけてくるもんだから、もういい加減に泊めてくれる知り合いもなくなって、困ってたところに、声をかけてくれたのが、茉莉花だったって訳」
宗四郎と悠の麦茶を手に、茉莉花がちゃぶ台に腰を下ろす。宗四郎が「サンキュ」とグラスを手に取る。
「そう言うあんたは? これだけ人のこと聞くんだから、自分のことも話してくれるんでしょ?」と紫が言う。
「俺はまあそこまでディープな話でもないけどな」と宗四郎は言う。
「俺は、ただいわゆる普通の生き方が出来ないってだけ。俺、4人兄弟の4番目なんだ。家が寺でさ、親父は坊さん。あるとき男が好きなのが親父にバレて、えらくキレられるもんだから、つい『なんだよ。坊さんの世界なんて昔から男色文化だろ』なんて言っちまって、殴られて勘当。それが大学卒業の年のこと。それから、実家にはもうかれこれ13年は帰ってないな」
黙って話を聞いていた紫が、「いや、まあ私が言うのも何だけど、それなりにディープよ」と言う。
「そうか? まあこういうところが、世間からズレてて、受け入れられ辛い理由なのかもな」と宗四郎が言う。

【1131文字(あらすじ、その他除く本文のみ)】
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