ヒューマンドラマ小説|サンクチュアリが見えたら(8)|それぞれの始まり
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田舎の古民家シェアハウス『サンクチュアリ』。
住人は老若男女6人と猫が一匹。
住人の一人、雨宮茉莉花は40代シングルマザー。小学生の男の子が一人いる。茉莉花は、ある日サンクチュアリへの帰宅途中で男性と揉めていた50代の元モデルの女性、夏見紫をサンクチュアリに誘う。
茉莉花もまた、そうしてサンクチュアリに迎えられた一人だった——
茉莉花をサンクチュアリに誘った野路菊さくらは、過去に不倫経験のある70代女性。その他、神野宗四郎は30代の同性愛者の男性、木南悠はお金のない現役大学生。
仕事、恋愛、家族——
これは、それぞれがそれぞれに、生き方に悩みながらも、少しずつその答えを見つけていく物語。
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それぞれの始まり
精密検査——
さくらが口にしたその言葉に、一瞬胸がどきりとする。紫が長年仲良くし、慕っていたクラブのママは、気まぐれで受けた人間ドックで引っかかり、精密検査の末に、診断がついてからわずか半年という早さで、あっさり逝ってしまった。
シングルマザーだった母親が早くに亡くなり、そのほとんどを養護施設で育った紫に、母親に似た愛情を注いでくれた人——
「そんな、さくらさん、酷い」と笑う茉莉花の声に、紫ははっと我に返る。
「紫さん?」
「ああ。——いえ。何もないわ。大丈夫」
茉莉花が来た頃を思い出すのか、さくらが紫を見て、柔らかく微笑む。
「紫ちゃんが良ければ、ここで存分に羽を休めてちょうだい。ここは特別な場所だから」
さくらは言って、儚げな桜のような美しい笑顔を紫に向ける。そう、それはまるで、散り際こそ美しい、その姿を思わせるように——
姿形は全然似ていないのに、紫はどうにもママの面影を重ねずにはいられなかった。
「夕方には宗四郎もはるちゃんも帰って来るわ。紹介するわね。紫ちゃん、これから宜しくお願いします」
さくらは言って笑う。
茉莉花は笑顔で、紫は少しだけぎこちない笑顔で、それに応えた。

地面に伸びる影が長さを増す頃、宗四郎と悠はサンクチュアリに帰ってきた。
宗四郎が「これ、轟の爺さんから」とスーパーの袋に入った物を茉莉花に手渡す。
「まあ。立派なアジじゃない。こんなに?」
「なんでも、傷がついてるから、市場に持って行っても幾らにもなんないからってさ。茉莉花と葉に宜しくって言ってた」
茉莉花が受け取りながら、「今度会ったら何かお礼しないと」と言う。
紫はその光景を見ながら、居間のちゃぶ台で、葉のお絵描きに付き合っていた。
「それなら、茉莉花のケーキでいいんじゃない? あの爺さん、顔に似合わず茉莉花のケーキ好きだから」
「そう? ついでに新作のケーキの試食してもらおうかな」
「そうだな。爺さん喜ぶだろうよ。喜び過ぎて、うっかりポックリ逝っちまうかも」と宗四郎が笑う。
「あんたねえ——」と言い掛けた茉莉花の言葉を、自室から出てきたさくらが遮る。
「おかえりなさい。宗四郎。あら? はるちゃんは?」
「ただいま。あいつなら、自分の部屋に鞄置きに行ったよ。全く、鞄なんてその辺に置いときゃいいのに、ああも生真面目だと、こっちが気遣うわ」と、実際には全く気を遣っていない口ぶりで宗四郎が言う。
「ごめんなさいね、何だか慌ただしくて。紫さん、これが宗四郎」
「なんだよ。これって」と宗四郎が言う。
「初めまして。私、夏見紫。紫でいいわ」
「こちらこそ、初めまして。俺は神野宗四郎。俺も宗四郎でいいから。堅苦しいの苦手なんだ」
紫と宗四郎の簡単な挨拶が済んだところで、2階から悠が下りてくる。
「はるちゃん。こちら新しい入居者の紫ちゃん」
さくらの言葉に、悠は少し離れたところからぺこりと頭を下げる。
「初めまして。夏見紫です。宜しくね」
「こちらこそ、初めまして。僕は木南悠。大学2年生です。宜しくお願いします」

【1252文字(あらすじ、その他除く本文のみ)】
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