ヒューマンドラマ小説|サンクチュアリが見えたら(7)|軽やかな既視感
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田舎の古民家シェアハウス『サンクチュアリ』。
住人は老若男女6人と猫が一匹。
住人の一人、雨宮茉莉花は40代シングルマザー。小学生の男の子が一人いる。茉莉花は、ある日サンクチュアリへの帰宅途中で男性と揉めていた50代の元モデルの女性、夏見紫をサンクチュアリに誘う。
茉莉花もまた、そうしてサンクチュアリに迎えられた一人だった——
茉莉花をサンクチュアリに誘った野路菊さくらは、過去に不倫経験のある70代女性。その他、神野宗四郎は30代の同性愛者の男性、木南悠はお金のない現役大学生。
仕事、恋愛、家族——
これは、それぞれがそれぞれに、生き方に悩みながらも、少しずつその答えを見つけていく物語。
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軽やかな既視感
「さくらさん、こちらどうぞ。お茶なら私淹れますから」と茉莉花が言う。
「そう? ありがとう。でも、ひとまず麦茶だけはここでいただくわ。もう干からびちゃいそうだから」
夏物の着物を粋に着こなしたさくらは一見涼しげだが、確かにこの暑さでは誰も彼もが同じ状況だ。少し外を歩けば汗が流れ、生きとし生けるものは溶けるか干からびるかといったところ。
さくらは台所で透明のグラスに麦茶を注ぎ、ごくごくと飲み干す。グラスの中の氷が、遠慮がちにカランと音を立てた。
「コーヒーでいいですか?」と茉莉花が訊く。
「ありがとう。いただくわ」とさくらは言って、茉莉花と入れ替わりに居間に移動する。「お邪魔するわね」と座布団に腰を下ろし、ふうと息をついた。
「ここでやっていけそう?」
「え?」と紫が言う。

「あなた、きっと今まで都会暮らしが長かったんじゃない? どうにもそんな気がするの」とさくらが言う。
「当たりです。40半ばまでは、売れないモデルをやりながら、銀座のクラブでホステスを」
「まあ、それはそれは。華々しい世界で生きてきたのね」
「まさか。そんな。どれも中途半端で、ただ行き当たりばったりに生きてきただけなんです」と紫は小さく笑う。
「ここじゃ寂れたスナックぐらいしかないわよ? 大丈夫?」
「ええ。大丈夫です。最近はそんなところでばかり働いていて。というか、女の嫉妬とか業が渦巻く主戦場はもう懲り懲り。段々と、緻密に空気を読まないとやっていけない女社会に疲れてきてしまって。きっと歳ですね。今は田舎の寂れたスナックぐらいがちょうどいいんです」
遠慮のない物言いに、さくらが笑う。茉莉花が「さくらさん、どうぞ」と出してきたコーヒーを「ありがとう」と手に取ると、静かに口に運んだ。
茉莉花がさくらの隣に座る。
「こうしてると何だか、あなたが来た頃を思い出すわね」とさくらが言う。
「私ですか?」と茉莉花。
「あなた以外に誰がいるのよ」とさくらはまた笑った。
「茉莉花ちゃんもここに来た頃は相当疲れてたものね。まるで生ける屍よ」
どうやらさくらも、自分に負けず劣らず、はっきりと物を言う性分らしい、と紫は思った。
生ける屍——
茉莉花には悪いが、その言葉がぴったりな自分に笑ってしまう。
「確かに、私が半年前、ここに来た頃は抜け殻みたいでしたね。離婚もやっと成立したところだったし。本土の病院でさくらさんに声を掛けられてなかったら、きっと今も——」
「本土の病院?」と紫が言う。
「そうなの。茉莉花ちゃんは、私がここに誘ったのよ」とさくらが言う。
「私はたまたま精密検査で本土の病院に行ってて、茉莉花ちゃんは、葉ちゃんの喘息を診てもらいに病院に。病院の待合で、今にも魂が抜けちゃいそうな茉莉花ちゃんを見たら、声を掛けずにいられなかったのよ」

【1161文字(あらすじ、その他除く本文のみ)】
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