ヒューマンドラマ小説|サンクチュアリが見えたら(28)|懐かしのコバルトブルー
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田舎の古民家シェアハウス『サンクチュアリ』。
住人は老若男女6人と猫が一匹。
住人の一人、雨宮茉莉花は40代シングルマザー。小学生の男の子が一人いる。茉莉花は、ある日サンクチュアリへの帰宅途中で男性と揉めていた50代の元モデルの女性、夏見紫をサンクチュアリに誘う。
茉莉花もまた、そうしてサンクチュアリに迎えられた一人だった——
茉莉花をサンクチュアリに誘った野路菊さくらは、過去に不倫経験のある70代女性。その他、神野宗四郎は30代の同性愛者の男性、木南悠はお金のない現役大学生。
仕事、恋愛、家族——
これは、それぞれがそれぞれに、生き方に悩みながらも、少しずつその答えを見つけていく物語。
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懐かしのコバルトブルー
「え? 何——」
「あ、駄目駄目。裏は見ないで。淹れてからのお楽しみです」
「そうなの?」
「はい」と茉莉花が笑う。
「本当、いい笑顔。そんな顔して言われちゃね」と紫は大人しく、食器棚から新しいマグカップを2つ取り出した。マグカップにティーバッグを入れ、ポットのお湯を注ぐ——
「あ、これ——」
「あ、もしかして知ってました?」
「ええ。昔よくモデル仲間が飲んでたもの。これ、バタフライピーね」
「当たりです」と茉莉花が言う。
言っている間にも、ティーバッグからはお茶の成分がどんどん抽出され、カップの中はあっと言う間に鮮やかな青色に染まった。夏の朝の、朝顔みたいな青だ。
「二日酔いにもいいって聞きました」
「そうね。そう言って飲まされたことがあるわ」
「あれ? もしかして嫌いでした?」
「ううん。懐かしいなって思っただけ」

言いながら、紫は昔のことを思い出していた。あれは、まだこのお茶が日本で流行るずっと前のこと。紫の慕うクラブのママが、まだ生きてこの世に存在していた頃のことだった。いつの間にか気がつけば——紫はもう、ママが亡くなった年齢を越そうとしている。
「嘘みたいな色ですよね」
「本当。茉莉花はストレートでいい?」
「はい。このままいただきます」
「あ、そうだ。さっきの話——」
2人で、それぞれのマグカップを居間に運ぶ。思い出したように言いかけたのは紫だった。
「さっきの話? ああ、さくらさんの身体のことですよね」
「そうそう。私が働き始めたスナックのママが、本土の病院で最近、さくらさんを見かけたって」
「そうなんですか」と茉莉花が言って、何かを考えている様子だ。
「茉莉花は? さくらさんの身体のこと、気付いたきっかけがあったんじゃない?」
「ええ。実は私、最近さくらさんがこっそり薬を飲んでるところを見ちゃったんですよね。血圧の薬とかは前から堂々と飲んでるのに、どうしてそれだけ隠すんだろうと思って、それから気になってしまって」
「薬?」
「ええ。でも多分薬のゴミも、分からないように捨ててるみたいで、何の薬かは——」
「そっか」
紫は言って、バタフライピーのお茶に口をつける。懐かしい味だ。
「宗四郎は?」
「どうかな。あいつなら、何か勘づいてる気もしますけど」
「確めてはない訳か」
「そうですね。個人のプライバシーでもあるし、詮索していいものかどうか」
「確かにね。心配ってだけで、そこに踏み込んでいいものか、悩みどころよね」
「そうなんです」
茉莉花は言って、フーフーしながらお茶に口をつける。
「さくらさんって子どもさんは?」と言ったのは紫だ。この間、麗子にそのことを訊かれてから、密かに気になっていた。
「息子さんが一人いるって聞きました。私の口からはあまり詳しくは言えないんですけど、あまり折り合いが良くないそうで」
茉莉花が言い淀みながら話す。

【1181文字(あらすじ、その他除く本文のみ)】
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