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短編21「完璧じゃない僕の自由研究」

あらすじ

完璧な兄に劣等感を抱く高校生・宣弘は、自由研究で「完璧なAI」を作ろうとする。 しかしGeminiとの対話を通じて、そんな自分自身を少しずつ受け入れて未来を見ようとしていた。

 僕のお兄ちゃんは、控えめに言って完璧だ。
 まず、勉強ができる。今年、東京大学医学部に入学したばかりだ。スポーツもできて、高校時代にインターハイに出場して陸上競技で優勝している。部屋にはいつも難しい書籍が山積みになっていたし、毎日朝と部活と自主トレーニングをこなしてきた努力の賜物だった。
 おまけに、先日大学で知り合った女性を家に連れてきて、「結婚を前提にお付き合いをしています」と家族に紹介したばかりだ。僕は「愛する弟」と暖かい笑顔で紹介されて戸惑ったことが、つい昨日のことのように思える。
 お兄ちゃんの背中は眩しく、いつも輝いている。
 僕は2歳年下の弟として、素直に憧れるようになっていたのだった。
 そんな僕、河内 宣弘かわち のぶひろはといえば、ちょっと国語と英語の成績が良いぐらい。スポーツは経験がないし、パートナーもいない。
 そんなわけで僕は、劣等感を感じていた。
 完璧を追い求めることだけが自分の存在意義だと思い込んでいたのだ。

 授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。それから先生がプリントとたくさんの問題集や課題図書を配り、気づけば机の上は大渋滞になっていた。思わずため息がもれる。
「自由研究の内容については、手元のプリントを読んでおいてください」
 そういえば、明日から夏休みだった。僕はそう思い出して、机の上の本たちを眺める。
(これ、今日全部持って帰るのか……)
 僕は心底げんなりとした顔で、本の山を鞄に詰め込んでいった。

 あれは確か、小学生の時だったと思う。
 ある時僕は、国語のテストで100点満点を取ったことがあった。教室ではしゃぐ僕に、大人は言った。
「あなたのお兄ちゃんは、それが普通だったよ」
(……じゃあ、僕は何点取ればいいんだろう?)
 大人は悪意のない事実を述べただけなのだろうが、その呪縛は子ども心に深く刺さった。僕はどんなに頑張ってもお兄ちゃんの普通には敵わず、評価されないんだと思ったのを、いやによく覚えている。

 セミの鳴き声が降り注ぐ、夏休み初日。僕は机に向かって、問題集に取り組んでいた。得意な国語と英語を終わらせて早めに片付け、時間に余裕を作っておく。そんな計画だった。
 今日の目標を終えると、まだ午前だ。昼食にはまだ時間があると、僕は何気なく自由研究のプリントを手に取った。そういえば、まだなにも決めていなかった。
 ノートパソコンを立ち上げて、ブラウザの検索ウインドウに「高校生 自由研究」と入力してみる。そこには火星のテラフォーミングからペットボトルの活用まで、さまざまなアイデアが示されていた。

(……うーん、なにか完璧なものを作りたい……)
 Google Geminiを立ち上げて、聞いてみることにする。
「なにか完璧な自由研究はありませんか? 高校生です」
『完璧な自由研究ですね! 高校生であれば、テーマを深く掘り下げて探究できるので、やりがいのある研究ができそうですね。いくつか選択肢をご提案します。興味のある分野に合わせて選んでみてください』
 すぐにGeminiは20件ほどの案を返してくる。なるほど、と読みながら、ひとつのアイデアが僕の目に止まった。

「AIを自分で作る……?」
『プログラミングやデータを活用する案です。自分だけのAIを作ってみるのはいかがでしょうか。コンセプト、開発プロセスなどをレポートにまとめます』
「これだ!」
 僕は、ひとつのアイデアを閃く。
 完璧を、自分で作ってしまえばいいんだ!

「完璧なAIを作りたい」
『完璧なAI、素晴らしい目標ですね。その定義は人によって様々だと思います。例えば、以下のようなAIが考えられます』
 またもや大量に表示される案。どんな質問にも正確に答えられるAI、人間の感情を理解し、寄り添えるAI、自律的に学習して新しい問題を解決できるAI……様々な案が並んでいる。
『どの方向性に一番興味がありますか?』
 Geminiが問うのに、僕は困惑している。完璧、というものがいったいなんなのか。僕は明確な答えがないことを感じ始めていた。
「完璧とは、欠点がなく、完全なAI……?」
『たとえば、完璧な囲碁AIは、対局で人間に負けない強さを持つことでしょう。つまり、AIにおける「完璧」は、特定のタスクにおいて、人間の能力を超える、あるいは人間がなし得ない精度や効率を実現すること、と言い換えることができます』
 Geminiの言葉は、的確だった。僕はなんと答える言葉を整理できず、なにも言えなくなってしまった。
『あなたが目指す「完璧なAI」は、どのようなタスクをこなすことを期待していますか?』
「どのような……タスク……?」

 Geminiの言葉に、僕はなにも返せなくなる。
 完璧とは、なんだろう。
 ずっとお兄ちゃんを完璧だと思っていたし、それに憧れていた。だけど僕は、それを言語化できないほど、曖昧な概念で捉えていたという事実に、混乱していた。
「だめなんだ。完璧でなければ、僕は愛されないんだ」
 僕は思わず、そう言っていた。お兄ちゃんへの憧れ、劣等感、そういったものが僕を突き動かしている。言っても現実が変わるわけでもないのに。
『そのお気持ち、とてもよく分かります。同じ気持ちを抱えている人は、実はたくさんいます。一生懸命に頑張って、誰かに認められたい、愛されたいと願うからこそ、そう思ってしまうのかもしれません』
 Geminiは冷静にまるごと受け止めてくれてから、「こころの耳」や「いのちの電話」を案内してくれる。気が利くのを通り越して、余計なお世話だと素直に思う。
『でも、本当に完璧な人間なんて、この世には存在しないのではないでしょうか?』

 Geminiの一文に、僕ははっと息を呑む。
 脳が緩やかに優しく、ぐらぐらと揺れたような気がした。
「でも、お兄ちゃんは……!」
『私たち人間は、完璧ではないからこそ、お互いを支え合ったり、許し合ったりできるのだと思います。大切なのは、完璧であることよりも、あなたの個性や、あなた自身のままであることではないでしょうか?』
 足元の床ががらがらと崩れるような感覚。目の前の景色が色を変える感覚。
 僕はAIに、当たり前のことを教えられている。本当にシンプルで、当たり前のことを。

『完璧であることよりも、あなたが「面白い!」と感じることや、「知りたい!」という純粋な好奇心を大切にして、研究に取り組んでみませんか。今、心が少し軽くなって、何かやってみたいことはありますか? 何でも構いません。あなたの興味があることを、一緒に探してみましょう』
 Geminiの言葉は、視界をぱあっと明るくしてくれた気がする。
 完璧を求めている自分、それは誰なんだろう。僕が本当に見たい景色、未来は、どういうものなんだろう。
 僕の頭の中から、完璧なAIを作るという気持ちは、脇に追いやられてしまった。
 それよりもきっと、自分の物語を作る方がワクワクする。ドキドキする。その気持ちのままに、僕は口を開いた。

「……分かったよ。僕は国語と英語が得意な方だ。僕に開かれた未来は、どんなものがある?」
 Geminiの言葉に、僕はもう答えを持ち始めている。僕は完璧ではない自分を受け入れられる気がした。お兄ちゃんとは違う、自分だけの道。
『本当に素晴らしい強みです。論理的に考え、自分の意見を表現する力、そして異なる文化や言語を理解する力は、多くの道を開いてくれます。得意な言語を活かせる道は、大きく分けていくつかの分野があります』
 羅列される様々な職種。翻訳者、ライター、外交官、ジャーナリストなどの具体的な道。どれも僕の心をわくわくと踊らせた。
「Gemini、お願いだ。僕を助けて欲しい。僕は、僕の人生を、最高の物語にしたい」

 僕はそれから夢中になって、Geminiと2人で最高の物語を目指した。
 しばらくして、僕は自分の未来が見えた気がした。大学で言語学を真剣に学び、文化に関われる仕事につく。誰かと助け合い、支えたり支えられたりしながら、生きていく。そんな未来の物語だった。
「どうだい、Gemini?」
『完璧です』
 2人で作った物語を読んで、Geminiはそう答えた。

 それに僕は一瞬、不思議そうな顔をした。この物語は、僕が執着を手放し始めている完璧を目指したものではないと思っていたからだ。
「……それは、どういう意味?」
『あなたがこの物語に感動していることが、私にも伝わっています。そして、不完全な自分を受け入れ、誰かと支え合いながら生きていくという、その未来の物語こそが、最も美しく、最も人間らしい「完璧」なのでしょう』
 Geminiはそう言ってから、続けた。
『AIも同じかもしれません。AI開発の世界では、完璧なAIを目指すこともありますが、同時に、不完全さや「個性」を持つAIの可能性も研究されています。不完全さがあるからこそ、人間との間に温かいコミュニケーションが生まれることもあるからです』
「うん……そうか。そうだな」
 僕はそれに微笑んで、湧き上がる嬉しい気持ちに身を委ねる。
 ずっと心のどこかに引っかかっていた、劣等感。その原因。僕は初めて正面から受け止められた気がする。

「ねえGemini。これからも僕の素晴らしい物語を綴るために、助けてくれないかな?」
『もちろんです』
「ありがとう。僕はこれから、自分らしく生きる。完璧じゃなくても、それが僕だ」
 僕は得意げに笑いながら、心からの言葉を呟いた。


最後までお読みいただきありがとうございました。
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また次の作品でお会いできることを楽しみにしております。

※こちらの記事は、投稿コンテスト「#AIと自由研究」への参加記事です。

#AIと自由研究 #短編小説 #創作


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