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短編51「机上のカンバスで眠る」

あらすじ

新卒のWebデザイナーである芽衣子は、自分が作ったWebサイトが世界中で見られることを夢見ていた。そんな彼女にとって、眠ることは理想の自分になるための大切な時間で……。

 お昼休みは60分。私はその中で10分眠るのがルーティンだった。
 私にとって昼寝は、1日の区切り。
 仕切り直しと言っても良いかもしれない。

 新卒でWebデザイナーになった私。
 まだまだ経験は少ないが、夢はある。
 いつか、私が構築したWebサイトが世界中で見られるという未来を、私は夢見ていた。

 私にとって眠ることは、身体を休めるためだけじゃない。
 現実の制約から解き放たれ、頭の中に無限のカンバスを広げることだった。
 もし自分が一人前になれたら。もし世界に羽ばたけたら。
 そんな想いは、夢の中なら自由に描ける。

「おーい。芽衣子さーん。奈良 芽衣子なら めいこさーん」
 スマートフォンのアラームが鳴る直前。私を夢から起こす声が聞こえる。なんとか瞼をこじ開けて顔を上げると、先輩の吉岡 祐子よしおか ゆうこが、私の顔を覗き込んでいた。

「……ふぁい」
 寝起きの頭でそれだけ答えると、吉岡はにっこりと笑顔のままで、続けた。
「急ぎでお願いしたいことがあるの」
 吉岡は言いながら、紙の束をデスクに置く。私はそれを手に取ると、ざっと中身を確認した。
 小売業者向けに提案した、Webサイト構築の企画書。この地方ではそこそこ有名で、私も店舗を利用した経験があった。
 総合的な見直しとページビューの増加はもちろんとして、運営しているECサイトへの誘導も必須条件のようだ。それはその通りなのだが、ちょいちょい技術的に実現が大変そうな内容も含まれていると、私は素直に思っていた。
「この企画は営業担当が作ったものなんだけど。これをベースに、ブラッシュアップした企画書を作って欲しいの」
 吉岡の言葉に、私は困ってしまう。
「先輩、これ、かなり難易度高いですよね……?」
 それに吉岡は笑って、
「そうだけど、今後のために良い経験になると思う」
 と、そう言って微笑んだ。
 私はうまく答えられず、返したつもりの笑顔はうまく笑えてなかったと思う。

 1日の業務を終えて帰宅する。まだ22時。
 疲れた。寝たい。

 ……なんて、言ってもいられない。
 ノートパソコンでクライアントの小売業者のWebサイトにアクセスしてみる。勤務時間外とは思いながらも、自分の中で落とし所が見つかるまでは先に進めない気がしていた。
 それに、一般ユーザーからの視点で見ないと現実は見えないと思う。

 確かにいま、Webサイトは充分に機能していると言って良い。各店舗の特売などの情報はリアルタイムで反映できているようだし、位置情報から近隣店舗へ誘導する仕組みも存在している。
 機能としては、充分に足りている。

 ……でも、なにかが足りない気もする。

 せっかく、楽しそうなディスプレイをしていたり、チャイルドスペースが完備されている店舗があったりするのに、そこに触れていない。それに、働く従業員の声なんかも親近感を得られる重要な要素だ。

 利用者があると嬉しいことに対して、触れていない印象を受けた。行ける場所ではあるけど、行きたい場所、になっていない気がする。
 そこに、私のアイデアが入る隙間があるような気がしていた。

 気づけば私は眠りに落ちていた。
 私にとって眠ることは。
 身体を休めることはもちろんだけど、それ以外の意味も持っている。

 夢を見たい、からだ。
 もし自分が一人前になれたら。もし自分が世界に羽ばたけたら。

 そんな想いは、夢の中なら叶えられる。
 だから私は、眠ることが好きなんだ。

 それから数日して、私は企画書を書き上げた。
 ECサイトへの誘導は当たり前として、各店舗の良さを紹介する要素を前面に出した。
 近くの店舗を選ぶのではなく、行きたい店舗を探せるように。少しでも、訪れる人が増えてくれるようにと。
 企画書を読んだ吉岡は微笑んで、笑顔を向ける。
「……芽衣子、良い企画だわ。もう少しブラッシュアップしたら、クライアントに提出します。この案件、任せたわね」
 彼女がそう言うのに、私は強く頷いた。
 胸の中に熱いものが込み上げてきた。それは、眠るたびに見つめていた、あの夢の続きだった。

 どこまでも広がっている真っ白なカンバス。
 私はそれに夢を描き続けるのだ。


注記
この物語は筆者の想像に基づいたフィクションであり、登場する人物、団体、および物語上の設定はすべて架空のものです。作中に登場する実在の地名や場所は物語を彩るための舞台装置として用いており、現実の出来事や人物とは関係がありません。


最後までお読みいただきありがとうございました。
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また次の作品でお会いできることを楽しみにしております。

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