見出し画像

短編17「君のこと、すきだから。」

あらすじ
 先輩の愛莉に毎日会いに来る後輩の大和。彼に振り回されながらも、ある日、彼女は彼の意外な一面と優しさに触れる。

 ――昼休み。
 いつものように、彼がやってくる。

「センパーイ、一緒にご飯食べよ」
 私がクラスの自席で弁当を広げようとすると、今日もまた・・・・・、彼がやってきた。

 彼は茶髪を短めに切りそろえているが、毛先は外にハネさせていて元気さを表している。顔はやや幼く、くりっとした瞳で童顔。無邪気で人懐っこい笑顔は嬉しそうで、笑うたびに白い歯がきらりと覗いている。いわゆる弟キャラ、と言えば伝わりやすいだろう。チェック柄パンツを履き、白いシャツにベージュのカーディガンという、いつもの制服姿だった。
 彼が私の前の席に勝手に座って、手に持った惣菜パンを見せてくる。

 ああ、可愛い後輩だ――なんて1ミリも思うことなく。
 面倒くさいのがまた来た。それが私の正直な意見だ。
「なんで大和やまとくんは、毎日来るの?」
 私は訝しげな顔で睨みつけながら、言う。それに彼は満面の笑みを浮かべると、
「君のこと、すきだから」
 と、素直な瞳で答えた。

「……」
 なんなんだ、こいつは。
 昼休みになればやってくる。放課後になればやってくる。とにかくやたらとやってくる。1年生の彼はこの3年生の教室まで、毎回1階から3階まで階段を上がってまで、やってくる。
 ……なにしてんの?
「だから私は『君』なんかじゃなくて。割田 愛莉わりた あいりって名前がある」
「知ってる」
 大和は鼻歌を歌いながら惣菜パンの袋を開けて、嬉しそうに一口かじった。

「あのねえ……」
 愛莉は箸を止めると、大きなため息をつく。彼が彼女のところにやってくる原因には、思いっきり心当たりがあった。
 先月、愛莉はお弁当がない日だったので購買までパンを買いに行った。たまたま食べたかったカレーパンがたまたま最後の一個で、それを取り上ると同時に「あー!」という悲鳴があがり、振り返ると彼がそこにいた。両手を頭を抱え、それはそれは、全身と顔で絶望を体現していて。あ、これは譲らないと。そんなことを思っていた。

(……正直、トラブルにしたくなかったしねえ……)
 気を取り直して、おかずの卵焼きを箸に取る。それに大和は、きらっ、と目を輝かせてこちらを見る。
「愛莉センパイ……!」
 大和は輝いた表情で愛莉を見ている。こういう言い方をする時の彼が、なにを求めているかなんて、愛莉には手に取るように分かる。
 例えるならば、出された餌を見た愛犬。待て、という指示に従ってはいるが、舌を垂らして息を荒げて涎を垂らし、飼い主からのGOサインを待っている状態。

 こんなやりとりも、いつものことだった。
「……分かったわよ。一個あげるから」
「いただきますっ!」
 大和は喜んで弁当箱に手を伸ばすと、卵焼きをつまみ上げて口の中に放り込む。美味しそうに咀嚼してから飲み込み、
「ごちそうさまでした!」
 と、無駄に無意味に元気に言った。
「そう、良かったね。食べ終わったら、授業に間に合うように教室に戻るんだよ」
「うん。降りるのは楽だから。次は放課後、また来るね」
 それに愛莉はまた、ため息をついて、
「なんで?」
 と、素直に言う。それに大和は素直に、
「君のこと、すきだから」
 と、いつもの言葉を返すのだった。

 ――そして放課後。
 愛莉が鞄の中に教科書を詰め込んで、帰りの準備をしている時だった。
「愛莉ー!」
 教室のドアの方から呼ぶ声が聞こえた。見ると、クラスメイトがこちらに手を振って、呼んでいた。
「?」
 愛莉は不思議そうに向かいながら、ドアへと向かっていく。見ると、教室の外には3人の女生徒がいた。名札の色を見ると、どうやら1年生のようだ。

「なんか、話があるらしいよ」
 クラスメイトが言いながら、自分の席へと戻っていく。
(? なんだろ?)
 3人の顔を見てみるが、面識はない。なにか学校の用事かとも思ったが、それにしては穏やかな空気じゃない。鬼気迫るとまではいかないが、硬い表情でこちらを見つめている。
「……先輩、大和くんとはどんな関係なんですか」
 質問、ではない。疑問符がついていない詰問。問い詰める言葉。目の前の彼女は、強い口調で言った。
「どうって言われても……友達、としか言えない」
 愛莉は戸惑いながらもそう答えるしかない。事実がそうなのだから。
「絶対ウソです。だって、大和くんはいつもここに来てるじゃないですか」
「そう言われても……」
 愛莉は言葉に詰まってしまう。
 ……だって、私は大和くんになんの感情も持っていない。勝手に懐かれてるだけ。それ以上でもそれ以下でもない。だからそれ以上話せることもない。
「あの……もしかしたら、少し齟齬があるのかも。私は大和くんとは特別な関係ではなくて……」
「だったらなんで! 大和くんはいつも先輩に会いに来るんですか!」
 後輩が金切り声を上げた。息を荒げて肩を上下に揺らし、愛莉を見る視線は鋭い。

(大和くんモテるだろうからなあ……)
 愛莉は困り果てる。興奮した彼女にはなにを言っても届かない気がして、どうすれば良いか分からなかった。周囲を見回すが先生は見当たらないし、他の生徒たちも好奇の視線を向けて、遠巻きに見ているだけだ。
「じゃあ、先輩の口から大和くんに直接言ってください。もう来ないでって」
「い、いや、いつも本人にそう言ってるんだけど……」
 愛莉の言葉に、彼女はぎりぎりと強く歯ぎしりをする。

 ……あ、しまった。多分、地雷踏んだ。
「大和くんをたぶらかさないで!」
 言って彼女は右手を振り上げた。
 あ、これビンタされるやつだ。
 私はその手が振り下ろされるのを、遠くから俯瞰で見つめているような感覚で見つめていた。ゆっくりと彼女の掌が、私の頬を目がけてやってくる。もうすぐ、激しい音が響いて、痛みがやってくる。そう思って、耐えるために瞳を閉じた。
「……うわ、あぶねー」
 愛莉はきゅっと閉じていた瞼を恐る恐る開く。彼女の後ろに、大和がいた。彼の右手は、彼女が振り下ろそうとしていた右手首を後ろから掴んでいる。
「大和くん……?」
「お前らなにしてんだ。暴力に訴えるのは、良くないと思うぜ」
 彼女たちは複雑な表情で、逃げるように去っていく。愛莉はその後ろ姿を見つめて、それから大和へと視線を移す。

「……別によかったのに」
 愛莉は戸惑いながら、大和の顔を見る。
「よかないよ。君のこと、すきだから」
 はあ、と漏れる息はため息なのかなんなのか。愛莉は心底嫌そうな表情だった。
「それに俺、歴史の授業で習ったから知ってるんだぜ。非常に高貴な人のこと、『君』って呼ぶことぐらい」

「……」
 ……ダメだ、彼にはこれからも振り回されそうだ。いや、振り回されるに違いない。
 愛莉はそんなことを考えながら、少しだけ引きつった微笑みをみせた。
 でも……助けてくれたときは、ちょっとカッコ良かった。もちろん、本人には絶対言ってやらないけど。


最後までお読みいただきありがとうございました。
もし気に入っていただけましたら、スキを頂けると励みになります。
また次の作品でお会いできることを楽しみにしております。

#短編小説 #恋愛小説 #初恋 #クラスメイト


いいなと思ったら応援しよう!

今津 風色 よろしければ応援お願いします。 いただいたチップは資料の購入費用、取材費などの活動費として有益に使わせていただきます。