無期懲役受刑者と認知症、あるいは贖罪について
当投稿は法務省及び各矯正施設、並びに関係機関の意見を述べるものではありません。
既に発表済みの資料等の要約、それを踏まえた投稿者個人の経験に基づく意見や見解です。
また、本投稿は投稿者本人の勤務時の状況に基づき作成しております。
そのため、その後の法改正等により現状が変化している場合があります。
あらかじめご了承ください
現在の刑務所は高齢者施設化していると以前書きました。
刑務所の高齢化は深刻
私が勤務していた刑務所は全国の刑務所のなかでも高齢化が進んでいる施設でした。
担当していた部署が高齢者を集めたところでしたので、ADLの合わせて食形態(きざみ食やペースト食、ミキサー食、経口栄養剤の追加など)の変更や、入浴介助、褥瘡処置、オムツや歩行器などの必要性の判断など、考慮すべき点は多々ありました。
刑務所は施設ごとに収容者の違いがある
ところで、全国各地にある刑務所は皆同じように思われているかもしれませんが、各々に収容している受刑者の属性が異なります。
受刑者は、刑が確定した時点で、それぞれを、性別、国籍、刑名、年齢、刑期、犯罪傾向の進度、その他個人の状況などによって、「収容分類級」によって分類されます。
そして分類調査の結果に基づいて、適切な分類級に判定され、各地の刑務所に収容されます。
同じ分類級の受刑者を同じグループにまとめることで、共通の処遇条件を確立し、個別の処遇を効率化を図っているのです。
つまり、刑期の長い受刑者(無期懲役も含む)は同じように刑期の長い者と同じ刑務所に収容され、累犯(懲役刑を終えてから5年以内に再び罪を犯し、再び懲役刑に処せられた者)は累犯と同じ刑務所に収容されるのです。
(ちなみに、女子は刑期の長短に関わらず各地の女子刑務所へ収容されます)
無期懲役と高齢化
ここで特に気になるのは、無期懲役受刑者の存在です。
無期囚の大半が獄死の現実
「無期」の懲役刑とは言うものの、刑法28条は「10年を経過した後・・・仮に釈放することができる」と定めており、社会復帰の可能性が残された刑罰だ。
ただ現実には、2005年の法改正で有期刑の上限が30年に引き上げられたことなどから、30年を超えなければ仮釈放が認められなくなっており、獄死する受刑者が大半を占める。
法務省によると、2023年末時点で全国の無期懲役囚は1669人。同年に仮釈放されたのは8人のみだった一方、70人が服役中に死亡した。
とあるように、法制度上仮釈放という道があるものの、多くの無期懲役受刑者は刑務所内で亡くなっています。
つまり、刑務所の中でかなりの年齢を重ねることになり、年齢相応の身体的機能の低下や疾患を有しながら、生活を送ることにもなります。
高齢者の健康にまつわるデータ

https://www.tmghig.jp/research/topics/201703-3382/
これは認知症の有病率を表にしたものです(法務省の調査ではなく厚労省のものです)。
65歳以上の約16%が認知症であると推計されていますが、80歳代の後半であれば男性の35%、女性の44%、95歳を過ぎると男性の51%、女性の84%が認知症であることが明らかにされています。

厚生労働省「人口動態統計」
続いて上記は最新の死因別死亡率の推移(65歳以上の者)です。
悪性新生物(癌)が圧倒的に多く、心疾患、老衰、脳血管疾患、肺炎の順となっています。
次は最新の平均寿命。
2024年の男性の平均寿命は81.09年、女性の平均寿命は87.13年となりました。
前年と比較すると、男性は横ばい、女性は0.01年短くなっています。
以上のデータは刑務所内も例外ではなく、年齢の上昇とともに認知症だけでなく、癌、心疾患、脳血管疾患など、有病率も当然上昇していきます。
平均寿命が80歳を超えている事実と、無期懲役の仮出所は30年を超えなければ認められなくなっている事実と鑑みると、
認知症を初めとした疾患を刑務所内で治療・対症療法を受けながら、30年経過するのを待つ。
しかし、仮出所が決まったころには、既に認知症や大きな疾患を抱え、社会へ出ることになる。
身元引受人や出所後定住する場所やお金などの問題もある。
(勿論、丸腰で社会に放り出すようなことはしません。出所時は専門の職員がしっかりと関わることになります)
という、社会にいきなり戻るのはなかなか無理があるように感じられます。
贖罪と認知症
長期刑に該当する代表的な犯罪は、殺人罪や強盗致死傷罪、現住建造物等放火罪、強制性交等致死傷罪といったもので、いずれも大きなニュースになる事件ばかりです。
無期懲役を含む長期受刑者たちはこのような事件を起こし、裁判を経て、刑期を言い渡されており、長い刑期の中、刑務所の中の生活を被害者とその家族への贖罪に心を尽くさなければなりません。
しかし、認知症となればそのようなことは困難でしょう。
受刑者の生活を見守る「担当」は贖罪についても受刑者に寄り添います。
被害者のことを考えつつ受刑者の立ち直りも考えなくてはいけません。
そして、立ち直りだけではなく、刑務所の中できちんと生活して生きていくことをさせなくてはいけないということを考えた時、認知症を持つ者をどのように導けばよいのか、刑務官自身も苦悩しているのです。
懲役や仮釈放に関する制度を変えるべき時が来ているのだと感じますが、それでは受刑者による贖罪や被害者救済といった意味合いが薄れてしまう可能性があります。
高齢や認知症であるが為に特別扱いされる受刑者の姿を被害者とその家族が見て、納得できるでしょうか?
おわり
